【金鯱賞】変幻自在、緩急ある味な逃げ ジャックドールいざ、天下取りへ

勝木淳

2022年金鯱賞のレース結果,ⒸSPAIA

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勝たなければ先に進めなかったジャックドール

金鯱賞が宝塚記念の前哨戦だった98年サイレンススズカの逃げ切りはいまや伝説。現在よりコーナーがタイトな旧中京競馬場で前後半1000m通過58.1-59.7、1.57.8。2着ミッドナイトベットに1.8差。ハイペースで飛ばし、前半のうちに後続の戦意を削ぎとるような逃亡劇だった。同じ金鯱賞だったこともあり、ジャックドールの逃げ切りVにサイレンススズカを重ね、熱くなったファンも多かった。

ジャックドールはこの勝利で【6-2-0-1】。すべて2000m戦、このうち左回りの中京・東京だと【6-0-0-1】。たった1度の敗戦がダービー出走権をかけたプリンシパルS。ダービー出走が叶っていれば、レースの流れを支配する馬だけにダービーの結果は違っていたのではないか。金鯱賞挑戦はそのときと同じくGⅠ出走に向けて落とせない一戦。相手はレイパパレやサンレイポケットといった中距離GⅠ好走歴がある猛者たち。ジャックドールにとって試金石として申し分ない舞台だった。それは相手関係だけではなく、舞台がこれまで4連勝で培ってきた経験をすべて活かせる中京芝2000mだったからでもある。

本番の阪神芝2000mにつながるかどうかという点は課題として残るものの、とにかく賞金を積まなければ大阪杯出走枠がない可能性はある。金鯱賞出走メンバーのなかでもジャックドールの賞金は9番目。香港ジョッキークラブが香港チャンピオンズデーに外国馬出走NGを表明、2着レイパパレの予定が白紙になったように、大阪杯の賞金水準は一段と上昇する可能性がある。ジャックドールには勝利が必要だった。

勝負を決めたスタートと4コーナー

最初のポイントはスタート。内に昨年逃げ切ったギベオンが入り、スタートダッシュで遅れをとれば、ハナを狙われる。そうなればレースの入りで脚を使わざるを得なくなる。ジャックドールと藤岡佑介騎手、相当集中したにちがいない。そのスタートを決めた時点でハナは確定的。無駄な脚を使うことなく、先頭に立った。

緩やかなのぼり区間の前半1000mは12.5-11.0-12.2-11.9-11.7で59.3。馬が駆けると土ぼこりが舞うようなしっかり整備された馬場でこのペースはやや遅いぐらい。後ろも離されずについてくる。くだりに転じる後半1000mは11.7-11.6-11.0-11.3-12.3、57.9。後半1000mを57秒台で上がられては追いつけない。

切れないがバテないスピード持続型のモーリス産駒のなかでも、ジャックドールは後半、速いラップを刻める点が優れている。この日も4コーナーから坂下で11.0を叩き出し、一気に勝負を決めた。後続が追い上げるスキを作らない早めのギアチェンジは逃げ馬にとって理想的な形だが、その分、最後に脚が鈍る。急坂で11.3を記録できる、これがジャックドール最大の武器。サイレンススズカとはタイプが違う逃げ馬だ。

緩急をつけられるので、控えても力を出せそうな予感もあるものの、現状の形は崩さずにGⅠに向かってほしい。次は問題なければ大阪杯だろう。内回り芝2000m、GⅠともなれば好位勢の押し上げは必ず早くなる。ここ3戦1.58.4、1.57.4、1.57.2と好時計を叩き出した舞台ほど速い時計はいらない。対応できるかどうか見極めたい。

とはいえ、ジャックドールは後続の早い仕掛けを待たず、今回のようにコーナーで自ら早めにペースアップ、突き放す競馬ができるはず。かつてサイレンススズカが熱狂を作ったように、強い逃げ馬はファンを魅了するもの。春が本当に待ち遠しくなった。

2着レイパパレはさすがの一言。予定が流動的になったとはいえ、始動戦としてはまずますの内容。ジャックドールの緩急に対応、手応えを早々に失う先行勢のなかでも最後までしっかり伸びた。昨年の大阪杯をみても、ジャックドールとは得意パターンが似ており、共存できる。馬券を組み合わせる上で覚えておきたい。3着アカイイトもGⅠ馬の力を示した。同馬も末脚の持続力が武器で、極端な瞬発力勝負は避けたい。そういった意味でジャックドールの作る流れは合う。休み明けは案外なタイプ、叩いて次は変わる。

2022年金鯱賞のレース展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。



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