【チューリップ賞】ナミュール、逆転で桜の女王へ。試走サークルオブライフも再逆転の余地あり!
勝木淳
ⒸSPAIA
一変したナミュール
牡牝ともにクラシックロードは変革期にある。賞金を早めに稼ぎ、トライアルに出走せず、本番直行。これがベストローテになりつつあるなか、今年の桜花賞路線はチューリップ賞に阪神JF1、3、4、7着馬が登場。かつてと同じくチューリップ賞は重要トライアルになり、ここを勝ったナミュールが最有力候補に躍り出た。チューリップ賞での人気も2歳女王サークルオブライフを押しのけて1番人気。ファンの評価は非常に高い。
振り返ればナミュールの阪神JFはいかにもキャリアの浅さ、若さを露呈したレースだった。ゲートで大きく遅れ、後方追走、勝負所で馬場のいい外へ持ち出しては勝負にならないと、悪いインに突っ込んだ。常識的には厳しい状況ながら、しぶとく伸びて最後は4着。いわゆる負けて強しの内容が素質の高さ、奥の深さを感じさせるものだった。競馬ファンにとって「まともなら」という想像はたまらない。だからサークルオブライフを差し置いてナミュールが1番人気になった。
その期待通り、ナミュールのレース内容は一変した。ゲートを決め、中団馬群のなか、内にサークルオブライフがいるというポジションに収まる。行きたがる素振りもありながらも、追走、最後の直線を手応え十分で迎えた。しかし前にラリュエルがいて、進路がなく、追い出しを待たされてしまう。それを瞬時に外に切りかえて脱出。この動きひとつとっても瞬発力がある。器用な立ち回りはサークルオブライフにはない武器だ。
母サンブルエミューズの母ヴィートマルシェといえば、歴史的快挙を遂げたマルシュロレーヌ、日曜日にOPを勝ったバーデンヴァイラーと勢いを増す血統。その母は97年桜花賞馬キョウエイマーチ。活気あふれる桜花賞に縁のあるファミリーラインだ。
それにしても横山武史騎手だ。暮れのキラーアビリティも前走萩Sで折り合いを欠き、難しさを内包した馬。調教で感触をしっかりつかみ、その感性を実戦で先行策という形で示した。今回も同様に栗東で調教にまたがり、一発で結果を出した。トライアル3レース、非権利馬の出走枠が広くない桜花賞路線で収得賞金900万円は微妙なライン。初コンビでナミュールの未来を背負った騎乗、それで結果を出した。真に頼もしい存在だ。
ピンハイの激走、敗退組も自己条件で
2歳女王サークルオブライフは3着。暮れとは正反対のイン有利、時計が出る馬場という状況を踏まえ、今回は一転しての先行策。阪神JF当時はマイル戦だと流れに乗せづらい感じだったが、ここで先行策をとれたのは大きかったのではないか。これで桜花賞は馬場や展開など状況に応じたレースができる。まさに試走、休み明けとしては順調な滑り出しだ。
ナミュールの目標になった今回をもって逆転されたとは考えにくい。本番はナミュールをマークする可能性もある。阪神JFのレベル云々など不安視するのはまだ早い。連続開催中の暮れの阪神で好走した馬、器は大きい。
2着ピンハイは驚いた。チューリップ賞が重賞になった94年以降、3着以内にきた単勝最高オッズは05年3着ダンツクインビーの138.9倍だから、ピンハイの229.8倍はぶっちりの記録。また馬連最高配当は00年ジョーディシラオキ、レディミューズで決まった18,280円で、今年の56,300円は衝撃的だ。阪神JF上位組が顔をそろえ、基本的に波乱が少ないチューリップ賞、見送った穴党は地団駄を踏んだにちがいない。
激走のピンハイは1番枠から中団後ろのイン。ラチ沿いを一目散に駆けてきた。腹をくくった騎乗と、馬群に突っ込んでも怯まないピンハイの気持ちの強さがかみ合った。とかくイン強襲に応えられたピンハイの根性は覚えておきたい。甘く見るとまたやられる。
レース全体でいえば、馬群で追い出しを待たされるうちに仕掛けのタイミングを逸した5着ウォーターナビレラ、スタートで大きく遅れた6着ルージュスティリアなどは力を出し切れておらず、今後も注目したい馬は多い。
また、差してくると目されたサークルオブライフが先行策をとったことで、レースの比重は一気に先行寄りにシフト、先行馬には厳しい競馬になった。前後半800m46.5-46.7のイーブンで、最後の600mは11.4-11.4-11.9とハイレベル。権利をとれなかった馬たちが自己条件で巻き返す余地は十分ある。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
《関連記事》
・【金鯱賞】5連勝で一躍主役候補へ! 逃げて突破だ、ジャックドール
・【フィリーズレビュー】1400mに戻るナムラクレアを評価! ウィリン、アドヴァイスら伏兵多数!
・【中山牝馬S】6歳だって侮れない! カギを握るのはシャムロックヒル、ローザノワール、ロザムール
おすすめ記事