【地方競馬対談】JRA・安田隆行調教師が語る! JBCスプリント連覇に挑むレッドルゼルへの期待と、川田将雅騎手の意外な一面とは?

2022-11-02 17:00:59山崎エリカ
地方競馬対談第5回、安田隆行調教師,ⒸSPAIA

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地方競馬対談 第5回:安田隆行(JRA調教師)

競馬研究家・山崎エリカがゲストを招いて地方競馬のさまざまなトピックについて対談を行う連載。第5回のゲストはJRAの安田隆行調教師。来たる11月3日のJBCスプリントで最有力視されるレッドルゼルの手応えや、騎乗する川田将雅騎手とのエピソードなどを語ってもらった。(取材日:10月27日)

安田調教師と川田騎手の絆

山崎エリカ(以下:山) 安田先生は「短距離の安田厩舎」と言われることもありますが、これに関してはどう感じていますか? 以前から気になっていました。

安田隆行(以下:安) 確かにうちは短距離での活躍が目立ちますよね。たまたまそうなっただけですけど、ひとつのジャンルで活躍できることは、嬉しいと思っています。

 ロードカナロア、カレンチャン、ダノンスマッシュなど、短距離の大レースで結果を出してきたからこそ、馬主さんも「この馬は短距離狙いだから安田厩舎に預けよう」という流れになったりするのでしょうか?

 短距離馬にするための特別なことはしていませんが、あそこの厩舎は短距離だからそういう馬を、というのはあるのかもしれません。実際に馬主サイドから言われたことはありませんけど。

 今年はデシエルトで日本ダービーに出走されました。開業27年目とキャリアが長い安田厩舎ですが、ダービー出走は初めてだったようですね。

 ダービーは初めてだ、と人に伝えたら「えっ、うっそー」と驚かれましたけど、初めてだったんです。僕は引退まであと1年ちょっとで、来年がラストチャンスになります。今年ダービーに出走できて感動したので、また出走させたいです。そしてできれば勝ちたいですね。

 狙っている馬はいるのでしょうか?

 ダノンザキッドの半弟のダノンタッチダウンですね。ロードカナロア産駒なので、距離が持つかわかりませんが。次走はデイリー杯2歳Sに出走する予定です。今度は川田騎手が乗ります(新馬は福永祐一騎手)。

 ダノンタッチダウンは中京芝1600mの新馬戦で長くいい脚を使って、なかなか強い勝ち方でしたもんね。そういえばダノンザキッドは一昨年、川田騎手でホープフルSを勝ちました。その際、川田騎手が男泣きをしたのが印象的です。

 彼は気が強いけど、涙もろいところがあるんですよね。これは事実です(笑)。

 川田騎手はクールなイメージが強いですが、情熱的なんですね。その時のインタビューで「師匠とともにやっとGⅠタイトルを獲ることができて嬉しく思います」とコメントしていましたが、先生も嬉しかったですか?

 僕の弟子としてGⅠをプレゼントしてくれて、すごく嬉しかったですね。彼は立場上は僕の「弟子」でみなさんもそう言ってくれますけど、川田騎手は日本を代表する騎手。僕の上をいっています。

 新人の頃から「すごい騎手になるぞ」という感触はありましたか?

 彼は赤帽(騎手候補生)時代からうちで修行していたんですけど、その頃から攻め馬を上手く乗っていましたね。そういう流れでうちの厩舎にいたんだけど、1年ちょっとで「おまえはフリーになれ」と言いました。

 川田騎手は2004年3月にデビューして、2006年からフリー。早くフリーになりましたが、先生がそれを勧めたんですね。

 はい。その時に彼が「え? フリーですか?」と言ってきたんですけど、「おまえだったら、フリーになったほうが乗鞍も増えるから、世間の荒波に揉まれてもっともっと出世しろ」と言って、フリーにさせました。彼は囲いの中にいると外に出られなくなるような気がしたんですよね。1年ちょっとでフリーになるのは一般的には冒険ですが、僕は絶対やれると思ったし、彼にも「おまえなら絶対やれる」と伝えました。そしたらあれだけ活躍しているでしょう。本当に嬉しいです。

 安田厩舎にとっては川田騎手を囲っておけば都合がいいことも多いのに、あえて独立させる先生もかっこいいです。そんな背景があって安田厩舎の馬でGⅠを勝ったならば、川田騎手が泣くのも無理もありませんね。

安田隆行調教師,ⒸSPAIA

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レッドルゼルと昨年のレコードV

 今度は今回のJBCスプリントに出走するレッドルゼルについて、お話をお聞きしたいです。実は私、ルゼルの出資者でもありまして……。

 おっ、そうですか!! レッドルゼルは募集価格がそんなに高くなかったでしょう。

 はい。ロードカナロア産駒の2年目だったこともあり、2000万円(一口5万円)でした。母フレンチノワールは準オープンまでいった馬ですし、順調でお買い得だったので気楽に出資しました。だけどその後、山元トレセンで2歳馬のリードホースをやっているとか、余裕の表情で息も乱れることなく坂路を上がっていくなどクラブのコメントが良く、物応じしない馬力のある馬のようで。「もしかしてワンチャンある?」とニヤニヤしていました。先生のデビュー前の感触はどうでしたか?

 ロードカナロアをひと回り大きくした感じで、毛色などの雰囲気や仕草は父に似ているところがあるんですが、調教の動きは母父フレンチデピュティの色が強く出ていて、「ダートのほうがいいなあ」と感じました。クラブ側の意向で初戦は芝を使いました(3着)けど、次走はダートで圧勝したでしょう。

 2戦目は京都ダ1400mで、芝の地点はそこまで速くなかったですけど、ダートに変わるとグイグイ行ってハナに立って大差勝ちでした。

 今はリードホースどころか、馬力がありすぎて抑えきれないです。うちで調教つけられるのは僕の息子の景一朗しかいないもの。すごくパワーが強くて、人が乗ったらビュンと持って行かれちゃいます。景一朗自身も「ちょっときつい」と言っていました。

 そういう馬力があるからなのか、レッドルゼルはデビュー3戦目以降もしばらく先行していましたね。これまでダ1400m以下で馬券圏外に負けたのが端午SとプロキオンS。ダ1400mで先行すると最後が甘くなっていたので、差したほうがいいんじゃないかと感じていたあたりで、川田騎手が我慢させて、差す競馬を教えてくれました。

 最初の頃は先行していましたけど、差す競馬で上昇してきました。競馬を教えるということは我々厩舎サイドではできないことで大変なことですが、川田騎手が教えてくれました。前回の東京盃はそれが良く出ていたんではないでしょうか。スタートはみんな一緒にポンと出て、後方に下がって、3~4角でも内でじっとしていて、4角で外に持ち出してラスト1F過ぎから、すっと抜け出して1馬身差。お手本みたいな最高の競馬でした。

 今年の東京盃は内の馬の出方を窺える大外8番枠で、枠も良かったですよね。昨年の東京盃は叩き台だったのもあるかもしれませんが、1番枠で外に出すのが大変で、ややスムーズさを欠いたところもありました。逆に、だからこそより良い叩き台になって、JBCスプリントで大きく変われたところもあったのかと思ったりもしました。

 昨年の東京盃は枠も良くなかったけど、夏負けして、それがだいぶ尾を引いて、本当にガタガタ。体調が良くなかったんです。それで3着でしたが、そこからドーンと良くなってね。景一朗が金沢のJBCスプリントを前に「今度、絶対勝てる」って言ってくるほど、具合が良かったです。

 JBC当日は内のダートが深かったですが、レッドルゼルは3~4角の内から直線でも内を突いて伸びて来ましたね。

 そうですね。みんな内を避けていたけど、レッドルゼルは内からビューンと突き抜けて勝ちましたね。あのレースは2着馬のサンライズノヴァもルゼルの後ろの内から抜けて来ました。「どうなっているの?」と思いました。

 あの日は内が深いという意識からか、1レースからほぼ内を開けて乗られていました。4角で内を突くチャレンジャーな騎手もいましたが、ただ直線序盤で内を走らせてみて、やっぱり砂が深いと感じたのか、すぐに外に出していました。直線序盤は深くて、その後が意外とそうでもなかった可能性も残す結果でしたけど、内のほうが軽かったとは考えにくいですね。

 そうでしょうね。金沢の関係者も「絶対、内が深いです」って言っていました。レッドルゼルはすごい手応えも良かったみたいですからね。

 川田騎手もレース後のコメントで「内は(ダートが)重たいと思いますが、この馬はパワーがあるので外を回すロスよりも内を選択しました」と答えていました。

 それでレコード勝ちですからね。乾いた馬場で以前のレコードを1.8秒も更新しての1分24秒6で勝ちました。

昨年のJBCを制したレッドルゼル(撮影:久島志朗)

2021年JBCスプリントのレッドルゼル(撮影:久島志朗)

金沢で行われたJBCスプリントを制したレッドルゼル(提供:久島志朗)

JBCスプリントの勝算と死角

 レッドルゼルは今回JBCスプリントではなく、米国のBCスプリントに出走するプランもありましたね。ソングラインが喉頭蓋の腫れの発症でBCマイルを断念して、帯同馬がいなくなかったから、ルゼルも取りやめたようですけど。

 米国はテンがめちゃくちゃ速くなるから本当は行きたかったんですけど、一緒に行く馬がいないから、BCスプリントに出走するのはやめておこうと思いました。さみしがりやで1頭だと全然ダメなので。

 確かに一昨年や昨年のドバイゴールデンシャヒーンのように逃げ馬がガンガン行って展開がハマるパターンもありますからね。先生、どうかレッドルゼルを種牡馬にして下さい。

 BCスプリントでもし勝ったら種牡馬になれましたね。成績を出し続けるか、来年のドバイに出走できるようであれば、そこで勝つことを期待しましょう。

洗い場で体を洗われるレッドルゼル(提供:安田隆行師)

洗い場のレッドルゼル(提供:安田隆行師)



 ところで海外遠征プランが出たということは、それほど状態が良いと解釈してもいいのでしょうか?

 正直に言って、具合はかなりいいです。馬にハリが出てきました。昨年もそうだったように暑い時期はあまり良くないですけど、寒くなるにつれて馬力がアップします。それとひと叩きしたほうがいいみたいです。東京盃が完勝で強すぎたんでね、なかには能力を使い過ぎたんじゃないかという人もいるかもしれませんけど、東京盃を使ってさらに良くなりました。今度はもっといい競馬ができると思います。

 状態はとてもいいのですね。私も勝って欲しいですし、他の出資者の方たちも同じ気持ちだと思います。反対に、こういうパターンになったら嫌だ、という懸念はありますか?

 盛岡は直線が長いですがコーナーはきつく、前残りの競馬が多いと聞いているので、そこは心配もしています。

 新潟のような競馬場で、同距離コースのクラスターCでもよく逃げ、先行馬が勝ち負けしていますね。

 あとは輸送時間ですね。栗東から(昨年の)金沢までは3時間ですが、盛岡だと12時間くらいかかります。レッドルゼル自身はそれほど輸送を苦にするタイプではなく、体重も減らないですけど、競馬は何があるかわからないから心配はします。それでもまた突き抜けてくれると思っていますけどね。

 枠はどのあたりがいいとお考えでしょうか?(注:取材時は未決定。レッドルゼルは1枠1番)

 真ん中より外の枠がいいですね。他頭数の交流重賞だと力差が大きく(下がってくる馬がいて)、内がゴチャゴチャするので捌くのが大変になります。

 内枠でも乗り越えて川田騎手とのコンビでぜひ勝って欲しいですね。今日は対談していただき、ありがとうございました。月並みですが、最後にJBCへの意気込みを教えていただけますか?

 JBCは地方から中央馬を招待していただくレースなんですけども、安田厩舎はわりと縁があって何回か出させていただきました。クラシックはまだ勝っていないですが、レディスクラシックは一昨年ファッショニスタで、スプリントは昨年レッドルゼルで何とか勝てました。来年のJBCクラシックは大井2000mですが、そこも使える安田厩舎の仲間を用意して、クラシックも勝ちたいなと思っています。


ゲストプロフィール
安田隆行
1972年に騎手としてデビュー。トウカイテイオーとのコンビで皐月賞、日本ダービーの二冠を達成するなど通算680勝を挙げ、1994年に調教師に転身。主な管理馬はカレンチャン、ロードカナロア、ダノンスマッシュなど。JBCは2020年にレディスクラシック(ファッショニスタ)、2021年にスプリント(レッドルゼル)を制覇。



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