【京都2歳S回顧】課題山積みも才能だけで勝ったエリキング クラシックの主役としての魅力あり
勝木淳
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エリキングがラストに見せたポテンシャル
クラシックは2歳新馬開幕から1年で二冠を終える。最初の一冠皐月賞まではもう5カ月。長いようで短い春二冠までの時間のなかで、理想的な成長とはどんな形だろうか。一貫して完成度が高く、ライバルの一歩前を進むのもいい。大人びた走りはクラシックを乗り越えるにあたり、レースでのダメージを抑え、大きなアドバンテージになる。
その正反対の道もある。馬体や精神面に幼さを残し、とにかく素質だけで勝ち上がっていく。完成の域に達したとき、はたしてどんな競走馬になり、どれほど勝ち星をあげられるか。スケールの大きさと将来性を感じながら、未完成のままクラシックを戦い抜く。
真の大物はどちらかといえば、後者が多いような印象がある。とにかくスケールが抜けているが、細かい点に課題が多く残る。その成長を追いかけていくのも醍醐味だ。たとえば、コントレイルはコーナーでの重心に課題があった。このロスさえ解消されればと言われ、クラシックでは課題を着実に越え、無敗で三冠を走り切った。
京都2歳Sを勝ったエリキングも確実に才能だけで走っている。幼い気性、レースで無駄な動きをしてしまうなど、課題をあげればキリがない。それでも3戦3勝。今回もゴール前200mでフォームが決まると、ライバルたちを引き離してしまった。
スタートは少頭数、最後の枠入れだったことも幸いし改善されたが、勝負所のペースアップに反応しきれなかった。加えて京都内回りのコーナーリングが難しかったようで、4コーナーでの鞍上の手応えは、もしや伸びないかもと一瞬不安を覚えるほど。
直線半ばまでは横一線で競り合いながら、最後にエリキングがポテンシャルの一端をのぞかせると、あっという間に勝負は決した。課題山積のなかでみせるスケールの大きさこそ、クラシックの主役としての魅力だ。あの200mの走りだけなら、世代屈指の一頭と評していい。
だが、レースは最後の直線だけではない。すでに3走しており、暮れのGⅠはスキップする公算が高い。ここから先、どのレースを選ぶか分からないが、多頭数をどこかで経験させておきたい気もする。
ゲート、馬群での反応、馬群を割って進路を作る心の強さと、試さないといけない部分をあげればキリがない。それでも期待したくなるだけの将来性は間違いなし。まずは無事に。未完成のうちはレース後の疲れも溜まりやすい。未来に希望をもったまま春を迎えてほしいと願う。
先行策で打開したいジョバンニ
レース自体は武豊騎手騎乗のウォータークラークが先頭を走り、ペースは明らかに緩やか。600m通過後は12.6-12.5-12.4と落ち着いた。2番人気サラコスティは遅い流れに対応できず、行きたがって消耗した。若駒にとって2000mはひと息ふた息入れないと最後まで脚を使えない。乗り手に従い我慢することも求められる。
後半1000mのラップは12.4-12.1-11.6-11.5-11.4。前半が遅かったが、後半はゴールに向けて1000mも加速し続けたことになる。極端に速い地点はなかったが、開催後半の馬場状態を踏まえるなら、この後半のラップには意味がある。先行勢こそ、加速ラップに対応できなかったが、かわって差してきた上位好走馬の価値は一定以上のものがあるとみる。
2着ジョバンニは野路菊Sに続き、エリキングの2着に入った。前走時は似た位置で運び追い比べで劣ったが、今回は後ろに控えて溜める競馬を選択。エリキングの動き出しに応じて進出するなど、徹底的にエリキングを意識した競馬だった。その結果は同じ2着だが、着差はわずかに広がった。現状はエリキングとの差は少しあるとみるべきだろう。
ひとつ上の姉はトライアル重賞2、3着のセキトバイースト。現役だと兄に4勝のマテンロウアレスがいる。どちらもデクラレーションオブウォーとダイワメジャーという父の色が濃く、粘り強い逃げ馬だ。
ジョバンニは父のエピファネイアらしく差す形で競馬に臨んでいるが、先行策に出るのも面白い。クラシック戦線は実戦で覚える我慢が大切であり、先行策は諸刃の剣でもあるが、うまくいけばレースをつくり、粘り腰を発揮するのではないか。
3着クラウディアイも差しにくい加速ラップで詰めてきた。こちらは勝負所で動かず、直線に賭けたことで好走できた。中京の新馬では先行策から上がり600m34.1。今回は差して上がり600m34.3。現状は34秒台の末脚でどこまで着順をあげられるかにかかっている。この辺はいかにもキングカメハメハ系らしい。
一方で、どんな形、馬場でも34秒台前半で確実に走る強みがある。現状はここが好走の目安。33秒台でないと太刀打ちできない馬場なら過大評価しないほうがいい。
兄弟には父ロードカナロア産駒の4勝馬ロフティフレーズ、2勝馬メロウヴォイスがいる。キングカメハメハと相性がいい母父ディープインパクトの一頭。クラシックに欠かせない血を有しており、春に向けて注目だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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