【みやこS回顧】ダート三冠の価値を高めたサンライズジパング 自ら動き3歳馬らしからぬレースぶり
勝木淳
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ダート三冠の価値を証明
今年から3歳ダート路線は南関東のクラシックが中央交流になり、ダート三冠なるものが生まれた。自地区の看板馬を決める戦いを消す是非など議論は今後も続くだろう。
一方、そうまでして創設した三冠の価値は出走馬たちの今後にかかっているともいえる。この日早朝、三冠最終戦ジャパンダートクラシックを制したフォーエバーヤングが米国ブリーダーズCクラシックで3着と健闘。とはいえ、同馬はケンタッキーダービー3着であり、すでに別格の雰囲気すらある。
フォーエバーヤングに負けた馬たちがどれほど活躍できるか。ダート三冠初年度世代の価値はここにある。その意味では3着サンライズジパングがみやこSを勝ったのは大きい。レース経験は馬の力を引き出し、成長へと導く。経験なくして成長はない。
いくら出走回数を絞ったとしても、貴重な出走がレベルの低いレースならば、伸びるのは難しいだろう。現5歳世代が強いのは、2022年日本ダービーがハイレベルな戦いだったことが影響しているのではないか。
サンライズジパングの勝利とフォーエバーヤングの好走によって、ジャパンダートクラシックのレベルが一定以上であることは確か。ミッキーファイト、ラムジェット、そして同日に高知の土佐秋月賞を勝った5着シンメデージーの今後に期待しよう。
サンライズジパングは1年前のJBC2歳優駿の2着馬。フォーエバーヤングに敗れたが、その後、ホープフルS3着で芝適性を証明した。
若駒Sは後方から直線一気でぶっこ抜き、皐月賞、ダービーと芝の二冠に進んだ。秋は再びダートに戻り、不来方賞を勝ち、みやこSで重賞2勝目。ダート適性の高さだけではなく、芝で総合力の高さを証明した。器用というより、根本的な実力が高くないと、二刀流は務まらない。
サンライズジパングの課題
レースは外枠ミトノオーが逃げ、隣のアウトレンジが2番手とどちらも理想的な位置取りを確保。一旦、流れが落ち着きそうだったが、サンライズジパングが向正面で早めに押し上げたことで、先行集団が反応。1000m通過後に11.9とペースがあがった。
3コーナー手前が速く、先行勢にとって難しい流れになってしまい、これを自力で動いたサンライズジパングは3歳馬とは思えない。これも経験値の差だろう。ダート三冠創設によって、今後はダート界の世代交代が早まる可能性がありそうだ。
先行して流れに乗るより、早めに動いてロングスパートを仕掛ける形がベストであり、この先もレースの流れを変える存在として、注目を集めるだろう。買う側も急流にする起爆剤になることを忘れないようにしたい。
こういった競馬が多いということは、気性面に課題もありそうで今回は大外枠もプラスだった。内枠に入った際など、どんな挙動になるか。見定める必要もある。
貴重なレガーロ産駒アウトレンジ
2着アウトレンジはこのレースの好走パターンである前走ラジオ日本賞【1-0-2-1】(過去9回)に該当し、11番人気2着と穴を提供した。最大の好走要因は隣に先手を主張するミトノオーがおり、うまく番手をとれたところにある。
先行しそうな馬が複数いる重賞で、先行できない可能性があるなか、絶妙な並びで番手をとれた。先行馬に厳しい流れのなか、ミトノオーを競り落とし、一旦先頭に立つなど見せ場たっぷり。こちらもまだ4歳。この経験を糧にこれから強くなる。
父レガーロの血統登録数はわずか8頭。JRA唯一の産駒アウトレンジが重賞で好走したのはすばらしい。父はエーピーインディ系バーナーディニで、母は米国GⅠ馬サンタテレジータ。血統背景は申し分ない。エーピーインディ系特有の型にはまらないと力を出せない面はあるかもしれないが、今後は展開や並びを見定めたい。
3着ロードアヴニールも同じく4歳。前走は逃げたが、本来は脚を溜められる。ペースを読み、先行集団と絶妙に距離をとったことで、末脚につながった。
時計勝負に課題を残していたが、1:49.8に対応できたのもポイントだ。JRAの中距離重賞は総じて時計が速く、スピード色が濃い。この路線で活躍するなら、時計勝負は必須だ。叔父にロードカナロアが要る血統でスピード色も出てくるだろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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