【アルゼンチン共和国杯回顧】トップハンデ58.5kgの8歳馬ハヤヤッコが驚きのレースレコードV スタミナ勝負で光った吉田豊騎手の手腕

勝木淳

2024年アルゼンチン共和国杯のレース結果,ⒸSPAIA

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型にはまると強いハヤヤッコ

2024年11月3日に東京競馬場で開催されたアルゼンチン共和国杯は8歳馬ハヤヤッコが2分29秒0のレースレコードでV。ベテランが得意とする一定のリズムで運ぶレース展開と吉田豊騎手の導きが見事に合致した。

行楽シーズン3連休初日は全国的に雨に祟られた。JRA開催3場のなかで、翌日、芝が良馬場に回復したのは東京だけ。さすがは東京。水はけのよさが違う。朝のクッション値は9.5。土曜日は9.1だから、前日ほぼ終日雨だったにもかかわらず、数値が上昇した。ちょっと信じられない。

再び絶好の状態へ戻った東京とはいえ、勝ちタイム2分29秒0はアルゼンチン共和国杯のレースレコード。同条件の目黒記念と比べても、2019年の2分28秒2に次ぐ2番目の記録になる。そして、この記録の勝ち馬がハヤヤッコで二度驚かされた。

白毛ハヤヤッコの勝利も記録づくし。8歳でアルゼンチン共和国杯を制したのはグレード制導入後の1984年以降では85年イナノラバージョン以来39年ぶり2頭目のこと。さらにハンデ58.5kgの勝利は88年レジェンドテイオー以来36年ぶり2頭目になる。

当然ながら8歳かつ58.5kgはハヤヤッコが初。重賞全体でみれば、18年ダイヤモンドSフェイムゲーム以来だ。ちなみに、8歳重賞制覇の最高斤量は59kg。どちらも金鯱賞で記録されており、96年フジヤマケンザンと05年タップダンスシチーがいる。

ハヤヤッコは現役屈指の遅れ差しとして知られる。前半ついていけないズブさがある分、後半、追い出されると、ゴールまでそう簡単には止まらない。

瞬発力を欠く分、一気に前と差を詰められないため、ジリジリと伸びるも、前が踏ん張れば、着順はあがらない。逆に前が苦しくなったとき、猛然と追い込んでくる。ゴール前は伸びているけど…。そんなレースを繰り返す歯がゆさはあるものの、いざハマったときの破壊力はインパクト大。白い派手な馬体と相まって、ファン多き馬でもある。


数字以上に厳しい流れに

いつも力は出すものの、上位に来るかどうかは流れ次第という馬なので、表面上の着順が不安定だからか、3歳レパードSは10番人気、6歳函館記念は7番人気、7歳の中日新聞杯2着も13番人気と穴党を喜ばせてきた。今回も10番人気。いつ走るか分からないので、狙うならずっと買っておかなくてはいけない。

そんなハヤヤッコが好走したのは展開面も大きい。逃げるジャンカズマは飛ばしているようにはみえないが、好位勢がついていくことでペースを落とすことができず、向正面区間は11.8-11.6-11.7-11.8と一定のペースで進んだ。前半1000m推定59.6の数字以上に先行勢には厳しい流れになった。そんな一定のリズムで進む展開こそ、ハヤヤッコの大好物。最後方から直線で外へ行き、東京の直線を目一杯伸び続けた。

近年はスローが多いアルゼンチン共和国杯だが、久しぶりに最後はスタミナ勝負に。中距離志向の馬たちは苦しく、一旦先頭のマイネルウィルトスでさえ、先頭に立つのが早かった。

後半800m12.1-12.3-11.8-12.0と最後まで極端なペースアップがなく、東京芝2500mらしい競馬で、他場と直結しない点だけは注意した方がよさそうだ。ともあれ、スタミナ志向の競馬だったのは事実であり、伸びて上位に来た馬たちは長距離も期待していい。

もうひとつ、吉田豊騎手の存在も欠かせない。パンサラッサでみせた逃げも魅力的な騎手だが、どちらかというと差しのイメージが強い。特に東京での追い込みが上手く、2021年以降は東京で計34勝のうち、逃げ先行14勝に対して差し追い込み20勝と差し切りが多い。

追走が楽ではないハヤヤッコの気持ちを切らさず、直線まで闘志を溜めこめたのは、吉田豊騎手の腕といっていい。デビュー31年目、49歳のベテランは大ケガから復活し、パンサラッサとの出会いから若返った雰囲気さえある。


レースセンスが光るクロミナンス

2着クロミナンスは今年GⅡ3、2、3、2着。こちらも7歳でこの安定した成績は立派だ。2500mだと崩れず走る。もう少し道中で緩む展開であれば、勝っていただろう。最後の最後、ゴール寸前で苦しくなった分、ハヤヤッコの急襲に屈した。

ロードカナロア産駒で、母の父マンハッタンカフェ。母系には中京記念を勝ったフラガラッハ、シルクロードS2着エスティタートなど、マイルから短距離寄りの活躍馬が多い。この血統で長距離重賞中心に活躍できるのは、クロミナンス自身のレースセンスだろう。まずリズムを乱すことはない。

3着タイセイフェリークは牝馬で格上挑戦という厳しい立場ながら6番人気と見込まれており、難しい状況だったが、シンプルに直線に賭ける作戦が功を奏した。

東京芝2400m【0-2-0-0】のコース巧者。東京遠征をきっかけに成績が安定しており、成長曲線と適性が合致したタイミングもよかった。スタミナと勝負根性がある。


2024年アルゼンチン共和国杯のレース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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