【京王杯2歳S回顧】ソニンクとシンコウエルメスの血を受け継ぐパンジャタワー 勝因は完璧なレース運び
勝木 淳
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背景にいるソニンクとシンコウエルメス
5回東京の初日、京王杯2歳Sは良馬場が多い重賞だった。2000年以降で不良1回、稍重3回。最後は2009年エイシンアポロンだから15年ぶりだ。若駒にとって厳しい東京。できれば良馬場で負担なく運びたいところ。今年も稍重馬場が結果に与えた影響は大きい。それでも時計は1:21.2で、歴代4位タイ。東京の芝は相変わらず頑健だ。
勝ったパンジャタワーの母クラークスデールの母はアコースティクス。極悪馬場のダービーを制したロジユニヴァースの母なので、パンジャタワーにとってロジユニヴァースは伯父にあたる。なるほど、道悪は上手いわけだ。
ロジユニヴァースの血統ということはソニンクの牝系になる。モンローブロンド、ノットアローン、ランフォルセ、ノーザンリバーとソニンクの仔は走り、ルミナスポイント、ヴァイスハイト、ライツェントと優秀な繁殖牝馬を多数輩出した。そんな活力ある一族にタワーオブロンドンが配合され、パンジャタワーが生まれた。
タワーオブロンドンも2017年京王杯2歳Sを制しており、産駒の重賞初制覇は親子制覇でもあった。その後は京王杯SCも勝ち、東京芝1400m重賞をコンプリート。秋にはスプリンターズSでGⅠタイトルを手にした。
タワーオブロンドンの祖母はシンコウエルメス。ケガのため、わずか1戦で現役を退くも、兄はGⅠ・4勝の英国ダービー馬ジェネラス、一族にはGⅠ・9勝トリプティクがおり、そもそも繁殖としての価値を見込まれていた。現役引退となったケガは重度の骨折であり、助けられないと判断されかけるも、管理していた藤沢和雄調教師が懇願し、命をつないだのは有名な話だ。
この藤沢和雄氏と当時のスタッフの執念が皐月賞馬ディーマジェスティやタワーオブロンドンへとつながっていった。日本で着実に枝葉を広げるソニンクとシンコウエルメスを背景にもつパンジャタワーは奥深さを感じざるを得ない。
レースセンス光るパンジャタワー
レース振りも味があった。中団からレースを進め、悪条件のなか、上がり600mは最速タイ33.8を記録。悪い馬場を苦にしなかった。最後の伸びにつながったのは前半のリズムにある。スタートを決め、行きたい馬をやり過ごしつつ馬場の外目に持ち出し、マイネルチケットの背後で息を入れた。
雨の中の若駒同士のレースらしくムキになる馬も出るなか、終盤までじっと我慢できた。無駄なことをしないのは、ここから先のレースに向け重要な要素といえる。センスある走りはタワーオブロンドン譲りだ。
最後の直線は各馬、外を目指したが、いちばん外にいったのはパンジャタワー。マイネルチケット以下、前の馬も手応え以上に粘りをみせており、とらえたのはゴール手前と辛勝のように映るが、むしろ勝つべくして勝ったレースだろう。現時点では完璧なレース運びだった。
サウジアラビアRCの価値
2着マイネルチケットは好位から前をなんとかとらえて、一旦は先頭。最後はパンジャタワーとの競り合いに屈したものの、目標になる形から粘ったのは力がある証拠だ。前半200m通過後からゴールまですべて11秒台と一定のスピードを試される舞台での好走は、珍しく前傾ラップになったサウジアラビアRCの成果だろう。
マイネルチケットの好走によって、アルテヴェローチェ、タイセイカレントの株もあがった。東京マイルの苦しい競馬を乗り越えたのは大きい。
3着ヤンキーバローズはパンジャタワーより後ろから追い込んできた。上がりは同じ33.8なので今回は完敗だった。だが、直線では残り400mを過ぎても進路がなく、内に外に抜け出す道を探したため手間取った。先に仕掛けたヒシアマンをとらえており、一定の力は出せた。もう少し流れに乗り進路を選べるようになるなど、自力で動けるようになれば2勝目は近い。
1番人気4着ヒシアマン、2番人気8着エイシンワンドは馬場に力を削がれた印象だ。どちらも走りのバランスが悪く、道悪への対応力の差が出た。特にエイシンワンドは行きっぷりも悪く、全体的に自分の力を出していない。良馬場で見直したい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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