【アルテミスS回顧】ゼンノロブロイと同じ牝系のブラウンラチェット スケールを感じさせる血統と大人びたレースぶり

勝木淳

2024年アルテミスステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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3代母ローミンレイチェルといえば

2歳牝馬の出世レースを制したのはブラウンラチェット。兄はジャパンダートクラシック初代王者フォーエバーヤングであり、母フォエヴァーダーリングは2年連続で重賞ウイナーを出した。自身は現役時代アメリカで走り、当時ダート6.5ハロンのGⅡサンタイネスSを制した。フランケルの仔を宿し、日本へ渡り、初仔モンファボリを産んだ。

モンファボリは函館2歳S1番人気と速攻型の印象もあったが、フォーエバーヤング、ブラウンラチェットの出現によって、そんな単純な血ではなく、魅力的なスケールと奥深さを秘める血統になった。

この血統はさかのぼっていくと、3代母にローミンレイチェルの名がある。最近は輸入牝系が大量に入っており、血統表が英語表記だらけという産駒も増え、英語がからっきしの私のような人間は四苦八苦するものだが、サイトによっては日本に輸入された馬はカタカナ表記に変わっていて、助かることもある。ローミンレイチェルもカタカナ表記だ。血統好きならお気づきだろうが、この馬は2004年に秋の古馬中距離GⅠを3連勝したゼンノロブロイの母として知られる。

となると必然的にローミンレイチェルの血を引く牝馬は繁殖として日本に輸入されることになる。ノーザンファームが輸入したフォエヴァーダーリングのほかにも社台はストレイキャットを入れ、ファンタジーSを勝ったタガノエリザベート、クイーンCのキャットコイン、札幌2歳Sのロックディスタウンを出した。

総じて2歳重賞に強く、早めに賞金を加算し、成長へつなげる現代競馬の理想を体現できる一族だ。一方で、この牝系が日本で枝葉を広げるきっかけとなったゼンノロブロイは早期に活躍もしたが、その素質を開花させたのは古馬になってから。ローミンレイチェルの血は仕上がりの早さと成長力のどちらも兼ね備えている。それがフォエヴァーダーリングを経て、フォーエバーヤング、ブラウンラチェットに伝わる。楽しみしかない血統だ。


加速ラップに余裕

キズナと母の父エーピーインディ系コングラツはブラウンラチェットとモンブランミノルの2頭だけだが、通算【5-3-1-2】勝率45.5%もある。2戦2勝ブラウンラチェットだけではなく、3歳モンブランミノルも【3-3-1-2】と安定感があり、この秋3勝目をあげ、ダート中距離で連勝中。キズナとエーピーインディ系との相性のよさはマーメイドS勝ち馬シャムロックヒルを出したタピットなどで証明されているが、ニックスとしてキズナ産駒の進化を支える予感がある。

ブラウンラチェットのレースぶりは実に大人びていた。アルテミスSにありがちなスローになり、前半800m47.7と遅く、カムニャックが外の3番手という折り合いの難しいポジションで消耗したように、若駒にはリズムがとりにくい流れでも、一切苦にせず追走。最後は11.5-11.1-11.0と究極の瞬発力勝負になり、進路がなく追い出しを待たされても余裕があった。

これだけ速いラップを楽についていき、進路が開くとさっと抜け出すなんて古馬でもできる馬は少ない。間違いなく超A級に必要な資質を備えている。この勝利で無事なら、阪神JFから桜花賞という理想ローテを描ける。この権利を手にしたことがなにより大きい。


1~3着をキズナ産駒が独占

2着ミストレスは秋の新潟新馬から中1週という難しいローテーションながら、きっちり力を出した。間隔を詰めることは若駒にとってリスクが高いとされるが、この見極めはさすが矢作芳人厩舎といったところ。逃げて馬にストレスを与えずスローペースを演出し、後ろを惑わせるという完璧に近い形だっただけに勝ちたかったが、ここは相手が悪かった。2着で賞金を稼いだので、桜花賞までは比較的余裕をもって進められる。加速ラップを踏ん張ったのは価値がある。

3着ショウナンザナドゥは外から伸びるも、最後は位置取りの差が出たか。さすがに11.5-11.1-11.0を外から一気に差し切るのは難しく、最後は脚色が同じになってしまった。とはいえ、未勝利勝ちとは一転し控える競馬を試み、終いで脚を使えたのは収穫だろう。3着以内はキズナ産駒が独占。この世代もキズナの勢いは衰えることがない。

2024年アルテミスS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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