【スワンS回顧】タフな消耗戦で力示したダノンマッキンリー 欧州血統由来の底力、モーリスの血がみせるスケール感
勝木淳
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ウインカーネリアンとアグリがつくったサバイバルレース
重賞ウイナー10頭。GⅡ格らしくメンバーの顔触れはそれなりではあったが、なにせ近走が冴えない馬が多かった。今年に入って重賞を制したのは3歳ダノンマッキンリー、オフトレイル、ノーブルロジャーだけ。結果的に1、2、4着に入ったので、近況の差が出た印象がある。3歳が強かったというより、古馬陣が伸びあぐねたレースだったといえる。
とはいえ、レースを引っ張り、GⅡにふさわしい力勝負に持ち込んだのは逃げたウインカーネリアンと2番手から競りかけたアグリの古馬重賞ウイナーだった。先手を奪ったウインカーネリアンに対し、各馬チャンスありと色気を出して追いかけてきたため、先行集団は大きな塊になった。
互いにプレッシャーをかけ合うことで、前半600m34.0は強烈とまではいかないものの、その後も息を入れにくい緊迫感ある流れになった。あくまで強気に押し切りを狙ったウインカーネリアンがサバイバル戦に持ち込み、力なき馬から脱落していくなか、ついてきたのはアグリ。かつて阪急杯を制し、高松宮記念3番人気だった実力馬が残り200mまでウインカーネリアンに食い下がったことで、互いに苦しくなり、最後に追い込みを誘発した。
ダノンマッキンリーは発汗が目立ち、速い流れであっても後方で行きたがるほど消耗もあったはずだが、最後まで伸びきれた。荒削りな面は否めないものの、1400mだと最後までしっかり脚を使える。距離巧者として、この先も続く1400m重賞で楽しめそうだ。
本馬はモーリス産駒ながら通算【4-0-0-5】とあと一歩足りない惜敗タイプではなく、いささか極端な成績の持ち主。母ホームカミングクイーンはアイルランド産で英1000ギニーの勝ち馬。兄にアイリッシュダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、凱旋門賞を勝ったGⅠ6勝馬ディラントーマスがいる。欧州の名牝系らしく、底力に長ける血統だ。
これに晩成のモーリスだから、荒削りでも結果を残せたのは大きい。精神的にどっしりしてくれば、活躍は1400mにとどまらないだろう。藤原英昭厩舎にはエイシンフラッシュなど息長く走らせる手腕がある。ダノンマッキンリーも丹念に育て、スケール感あふれる馬になってほしい。
マイルならオフトレイル
2着オフトレイルは最後方から直線に賭けた。前走は毎日王冠で、出世したのも1800mだっただけに、速い流れの追走は厳しい。武豊騎手もこれを踏まえ、腹をくくって乗った。上がり600m33.1は次位に0.5差。明らかに脚色で上回った。
得意距離がつかめないが、父ファーは10ハロンとマイルでGⅠ2勝をあげ、産駒もマイルGⅠを制したフォンテーン、キングオブチェンジ、今年のムーランドロンシャン賞を勝ったトリバリストとマイルを得意としている。欧州の道悪での活躍も目立ち、マイルのなかでもスピード勝負になると分が悪そうだが、今回のように後半が消耗戦になると台頭する。オフトレイルも1800m重賞を勝ち、1400m重賞2着という結果を踏まえると、マイルがいいだろう。父、母どちらにも流れるヌレイエフの血がマイルの底力勝負で花を開かせるだろう。
3着トゥラヴェスーラは展開がはまったにせよ、3歳重賞ウイナー3頭に割って入ったのは立派だ。この世代が生まれた2021年春、すでにオープンを勝ち、京王杯SC2着と同じ舞台で活躍していた。馬の世代感覚でいえば、ダノンマッキンリーの父モーリス(13歳)に近い。長い休養を挟みながら9歳でGⅡ3着は、負けたのは事実だが、もっとたたえられるべきだ。
4着はノーブルロジャー。前目にいた馬では唯一残っており、見直しが必要だ。毎日杯2着以降は冴えないレースが多く、オープン特別でも結果を残せなかったが、やはりこの馬は京都巧者。米子Sの0.3差4着も京都だから、現状は坂の下りを利用し、自然に勢いをつけられる形がベストだろう。この手のタイプは成長していけば、ほかの競馬場でも走ってくる。そこを見極めて、京都以外で好走するタイミングを狙えば、いい配当をとれるかもしれない。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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