【CBC賞】勝因は森秀行厩舎のレース選択と戦略 ジャスパークローネが重賞初V

勝木淳

2023年CBC賞、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

前走16着から巻き返したジャスパークローネ

開幕週の中京は週中の雨の影響を受け、土曜日は不良馬場、クッション値6.3でスタートし、その後は真夏のような蒸し暑さと中京芝の水はけのよさも手伝い、日曜朝には稍重、クッション値8.7まで回復し、正午には良馬場になった。こうなると開幕週らしい時計勝負。当然、先行勢に利があった。

実際、8Rの1勝クラスは1:08.1でアドマイヤラヴィが逃げ切った。前後半600m33.6-34.5は中京の1勝クラスとしてはハイペースの部類に入る。最後の直線が長い中京芝1200mは最初の向正面直線が短く、前半600m地点は4コーナー手前とコーナーが占める割合も多く、滅多にハイペースにならない。1勝クラスでハイペースになっても止まらない馬場なら、メインも逃げ馬がカギを握る。ここまでは想像できた。

だが、ジャスパークローネの逃げ切りには恐れ入った。確かに昨年、小倉のCBC賞を逃げ切ったテイエムスパーダは最近、逃げの手に出ず、マッドクールも行ける脚はあるが、ハンデ58.5キロでは無理はできない。そんな状況を見越したのがジャスパークローネだった。函館スプリントS16着から見事に巻き返した。その函館芝1200mは中京芝1200mとは真逆で、最後の直線が短く、コーナーがキツい分、向正面直線が長いため、ハイペースになりやすい。そのコースで前半600m33.0のハイペースを番手から追走し、大敗した。

今回の参戦はメンバー的に楽に先行できそうだと踏んでのものであり、中京の開幕週という条件も踏まえた森秀行厩舎らしい采配を読み切りたかった。

森厩舎は関東に限らず、海外などどこへでも積極的に遠征する。特に関東遠征では相手関係を踏まえ、人気薄で逃げて好走する場面が多い。勝利は当然のことながら、遠征し、賞金をきっちり獲得して帰るあたり、森厩舎のビジネスセンスの高さがみえる。ジャスパークローネもまずは森厩舎の戦略が勝因にあがる。


格上挑戦サンキューユウガのハンデ54キロの意図

レースは上記の通り、先行勢のなかに積極的に逃げる馬がいない状況を逆手にとり、勝ち馬が前半600m33.7のマイペースを決めた。1勝クラスより0.1遅い流れとなれば、いくら末脚がしっかりしていても、届かない。ただし、後半600m33.5でまとめたのはジャスパークローネの力でもある。これまで4勝中2勝が重、不良で、良馬場の高速決着には不安があったものの、今回はそれを払しょくできたことも大きい。当然、これからはマークが厳しくなるわけだが、森厩舎らしく相手関係を読んで、上手く立ち回ってくるだろう。馬券的中にこぎつけるには、森厩舎の出走意図を読み解かなければならない。そんな教訓を改めて感じたレースだった。

2着サンキューユウガは3勝クラスから格上挑戦で結果を残した。こちらは中京芝【1-2-1-0】のコース巧者だったことも大きい。シンプルにブリンカーを装着し、ハンデと馬場を味方につけようという作戦が見事に功を奏した。やはり、高速馬場のスプリント戦でロードカナロア産駒は軽視できない。中京施行の2012~19年の8回で格上挑戦は【0-1-0-9】。16年ラヴァーズポイント7番人気2着のたった一度だけ。同馬は6歳牝馬で50キロだった。サンキューユウガは7歳牡馬54キロで、軽ハンデとはいえ、決して恵まれた斤量ではなく、ハンデキャッパーもコース巧者である点を評価していたか。ハンデ戦が多い夏場は、こうしたハンデ読みも攻略のカギになる。

3着スマートクラージュは2着と2馬身差とちょっと離されてしまった。前が楽な流れを察知し、好位から早めに差を詰めに行ったが、及ばなかった。京阪杯に続く重賞3着と力はあるが、やはりオープンを勝つには少し決め手が足りない。ここを補うには自身で先手をとり、ペースをコントロールしてもいいかもしれない。

1番人気のマッドクールは9着。ハンデも影響したか、位置取りはよかったが、最後は反応できなかった。得意の中京だけに先々を考えれば、ここは勝っておきたかっただろう。何かダメージがなければいいが。

2番人気エイシンスポッターは6着。後方から末脚の切れで勝負するタイプだけに、この馬場で落ち着いた流れは痛かった。ペースが楽なため、どの馬も手応えがある状況で、直線もさばくのに手間取った。この負け方はいわば差し馬の性でもある。まだ甘いところがあるようで、もう少し序盤から前につけられるようになってほしい。裏を返せば、前半のダッシュ力さえつけば、タイトル奪取は近い。

4着トゥラヴェスーラは馬場を読み、精一杯の競馬を試みるも、この年齢で高速馬場はやはり厳しかった。時計を要する持久力戦が理想でありながらも4着なので、今後も適性次第ではないか。

2023年CBC賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【七夕賞】前走GⅢ組のフェーングロッテンとセイウンハーデスが中心 2000mに戻るサンレイポケットもチャンスあり!
【プロキオンS】タガノビューティーは重賞制覇のチャンス到来 ライバルは前走OP・L組のジレトールとオメガレインボー
【競馬】東大HCが福島巧者を徹底検証 芝ではゴールドシップ産駒、吉田隼人騎手に注目

おすすめ記事