【阪神牝馬S回顧】二冠牝馬エンブロイダリーが貫録V カムニャックも課題クリアで再戦に期待

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明暗わけた3頭のGⅠ馬
ヴィクトリアマイルの前哨戦・阪神牝馬ステークスはエンブロイダリーが逃げ切りV。2着カムニャック、3着ルージュソリテールで決着した。
10頭立てはこのレースが現在の芝外回り1600mになった2016年以降でもっとも少ない頭数だった。そんな寂しい状況には確固たる理由がある。アスコリピチェーノ、エンブロイダリー、カムニャックとGⅠ馬が3頭もそろったからだ。
マイルGⅠ2勝馬に昨年の二冠牝馬、オークス含め重賞3勝馬が前哨戦で顔をそろえるのは近年では非常に珍しい。別定重量57kgは牝馬にとってしんどい斤量ながら、存在感がまるで違う。翌週の福島牝馬Sには関西馬が数多く登録しており、阪神牝馬Sが10頭になったのは致し方ない。各馬、着実に賞金を積み上げていかないと次に進めない。
さて、この3頭のGⅠ馬は終わってみれば1着、2着、10着。ちょっと対照的な結果になってしまったのは気になるところだ。
まず、勝ったエンブロイダリーはC.ルメール騎手が8度目の手綱をとる。気心知れたパートナーであり、跨った時点で的確に状態をジャッジできたはず。スロー必至のメンバー構成に1枠1番という状況を逆手にとる逃げに出た。
エンブロイダリーなら折り合いの不安はなく、よしんば逃げたとしても、次に響くようなことはない。そんな裏づけもあったのだろう。休み明けの前哨戦で逃げの手に出るのは、次への影響も考えると簡単な決断ではない。そこもジャッジしての逃げには、変に包まれてストレスを与えるような競馬をしたくなかったという意図もあったはすだ。
阪神で躍動するクロフネの血
ライバルたちには機先を制する意志がなく、エンブロイダリーは楽々先手をとった。ここで少しでも競れば展開は変わっただろう。労せずマイペースを決められてはどうしようもない。前半800mは46.5。12.6-11.1-11.2と入り、そこからコーナーで11.6-11.6。エンブロイダリーにとって走りやすいラップになった。
元来、カムニャックやアスコリピチェーノと比べ、真の末脚勝負になると瞬発力で見劣る面を見せるタイプであり、本質は持続力型。それだけに逃げて物理的な優位をつくったのは好判断だった。ラスト600mは11.1-10.8-11.6の33.5。ポジション利をいかし、さっさとスパートをかけ坂下で勝負を決めてしまった。
2ハロン続けて一気に速い脚を使ったため、さすがに最後は11.6とやや時計を要し、カムニャックに追撃を許すことになったが、おそらくルメール騎手にはしのげる確証があっただろう。やはり逃げはこのレースを制する最善手だった。
母ロッテンマイヤーからビワハイジへつながる牝系も持続力の源だが、母の父クロフネの力も見逃せない。
2016年以降、阪神芝の重賞で母の父クロフネは9勝をあげた。これはサンデーサイレンスの11勝に次ぐ記録だ。クロノジェネシス、レイパパレ、スタニングローズ、そしてエンブロイダリーとGⅠ馬を4頭も出した。共通するのは、先行して押し切る持続力。芝・ダートでGⅠを制したクロフネの血は阪神と非常に相性がいい。
ちなみに、3位タイにはクロフネの父フレンチデピュティがつけており、ディープインパクト、キングカメハメハと勝ち鞍で並んでいる。「阪神のヴァイスリージェント系」は血統馬券の基本格言でもある。
マイルに対応できたカムニャック
2着カムニャックは4番人気。東京新聞杯2着ラヴァンダに割り込まれ、3強のなかではもっとも人気がなかった。やはりマイル戦【0-0-0-2】が評価に影響を与えたか。
その2戦はアルテミスSとエルフィンS。ちょっと前の話だ。とはいえ、距離を延ばしたことで実績を築けたとも見えるので、難しい。距離もきっかけだが、12kg絞ったフローラS以降、ずっと体重を増やし続け、今回で28kg増。根底に成長曲線の上昇もあったはずだ。実際、久々のマイル戦への戸惑いはほぼ感じられなかった。
マイル戦への対応という明確なミッションに挑んだ一戦のため、勝ちにいけない面もあった。そう考えると、この2着は評価できる。マイルは問題ない。母ダンスアミーガはマイル戦で結果を残したサクラバクシンオー産駒であり、血統の下地も文句なし。東京での再戦が楽しみだ。
さて、敗因がつかめない10着アスコリピチェーノは気になる。57kgなのか、休み明けで状態面が完調ではなかったのか。なにかアクシデントがあったかのような負け方だった。レース後、クラブの発表によればどうも筋肉を痛めた様子。であればしっかり治して次へ進んでほしい。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『サラブレッド大辞典』(カンゼン)に寄稿。
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