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【朝日杯FS回顧】操縦性の高さ際立ったカヴァレリッツォ 名手の巧みな進路取りに呼応し栄冠

10時間前
勝木淳
2025年朝日杯FS、レース結果,ⒸSPAIA

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珍しい重馬場の2歳GⅠ

2歳チャンピオン決定戦、朝日杯FSはカヴァレリッツォが勝利した。2着はダイヤモンドノット、3着アドマイヤクワッズで決着した。

レース翌日は冬至、その先にクリスマスと年末モード真っ盛りのこの時期、各競馬場は上空の強風が雲を吹き飛ばすため、真っ青な空模様が続く。晴天はクライマックスを盛りあげる役目を担う。

しかし、今年はどうも空模様が怪しく、競馬場の景色も冬らしくない。朝日杯FS当日もレース直前まで雨に見舞われ、馬場発表は重。サラブレッドが駆け抜けるたびに土の塊が飛ぶほど緩い馬場だった。

このレースが中山から阪神に舞台を移した2014年以降、良馬場ではなかったのは稍重だった14年の1回だけ。中山で行われた時代を入れても、不良だった1975年と稍重だった2002年のみ。前者を勝ったのは柴田政人騎手が騎乗したボールドシンボリ。50年前の話だ。この時期の道悪はそれほど珍しい。

レアな重馬場の朝日杯FSは京王杯2歳Sを勝ったダイヤモンドノットの先導で幕を開けた。距離延長に伴い、最大の課題だった前進気勢の制御に対し、C.ルメール騎手は自然な形で流れに乗せ、克服を試みた。スタートダッシュから一気に行かず、馬の気持ちに任せ、先頭に立った地点で少し抑えて、ペースを整える。さすがの押し引きだった。

序盤600m34.6、前半800m46.3は遅くもなく速くもない。あくまでダイヤモンドノットがロスしすぎないギリギリのラインを攻めた。絶妙な前半から後半800mも残り200mまで11.9-11.6-11.2と理想的に加速していき、直線入り口の時点では押し切りもみえた。ダイヤモンドノットと鞍上の妥協点がもう少し速いペースだったら、後続の体力を削り、押し切れたのではないか。


カヴァレリッツォの可能性

ダイヤモンドノットの勝ちパターンを覆したのがカヴァレリッツォ。2着に敗れたデイリー杯2歳Sで先行したことが折り合いの向上につながった。終始、内目を進み、勝負所でライバルたちが外を進出するなか、コーナーで巧みにひと溜めできた。

とはいえ、そうなれば直線で外に進路はつくれない。前を行く先行勢が壁になる。リスク承知の組み立てはさすがC.デムーロ騎手。ヨーロッパの騎手はそんなリスクを当たり前のように引き受ける。

幸い、グッドピースが外に併せに行き、最内にスペースができた。脚を溜めるだけ溜め、進路ができたら一気にスパートをかける。カヴァレリッツォの操縦性の高さも際立った。

母バラーディストはバラダセールの一族。バラーディストの母バラダセールはサトノフラッグ、サトノレイナスらを出し、ダンサールからはカラマティアノスが出るなどノーザンファームを支える牝系だ。

この一族はサトノフラッグこそ弥生賞ディープインパクト記念を制したが、不思議と重賞2着が多く、ちょっと詰めが甘い。カヴァレリッツォのGⅠ勝利は一族繁栄の弾みになるだろう。

能力を一歩前に引き出したのは父サートゥルナーリアではないか。切れ味のイメージが強い種牡馬だが、父系のロードカナロア、キングカメハメハに流れるキングマンボの持続力と筋肉の強さが最大の持ち味だ。

シーザリオから受け継ぐ瞬発力との融合を考えると、もっと活躍馬を出してもいいほど。これが産駒のGⅠ初制覇になったが、この勝利をきっかけに産駒はさらに活躍するのではないか。中距離っぽいレース運びであり、当然、距離延長も問題ないだろう。


道悪の影響もあったアドマイヤクワッズ

2着ダイヤモンドノットは上記の通り、レース序盤の課題にメドを立てたのは収穫だ。とはいえ、あそこまでいったら、勝ちたかったのが本音だろう。ラスト200mが12.2とかかってしまい、カヴァレリッツォにつかまった。

マイルはなんとかなりそうだが、それでもギリギリだろうか。だが、それも悲観材料ではなく、もう少し体力がつけば、マイル路線でも問題ない。

3着は1番人気アドマイヤクワッズ。スタートから脚を溜めるのはこの馬のスタイルだが、勝負所を大外から動いていく走りが前走ほどではなかった。やや進みの悪い走りから、道悪が敗因だった可能性は高い。

直線入り口の状況を踏まえると、かなり厳しかったが、よく3着まで追いあげた。改めて能力は世代トップであることに変わりはない。良馬場で見直したい。

また5着リアライズシリウスも重馬場の影響があったか、勝負所から直線での反応が物足りなかった。ゲート入りなどをみても、気性面にも課題が残る。その分、伸びしろも大きい。ここを走ったメンバーが来春、どんな姿をみせるのか。その楽しみもまた2歳GⅠの醍醐味だ。


2025年朝日杯FS、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『サラブレッド大辞典』(カンゼン)に寄稿。

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