【みやこS】トランセンドが藤田伸二騎手に導かれ美しき逃亡劇を披露 ダート界の新星登場の2010年をプレイバック
緒方きしん

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世代交代の波が押し寄せた2010年
今週はみやこステークスが開催される。過去にはエスポワールシチーやメイショウハリオなどが制したレースで、ダートの出世レースとしても知られる。今回はそんな中から2010年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。
2005年3歳シーズンからダート界を牽引してきたカネヒキリ、ヴァーミリアン。この2頭のカリスマは2010年には8歳を迎え、引退の日が近づいていた。
かわりに2009年には新王者エスポワールシチーが登場。2009年3月から2010年5月まで6連勝(うちGⅠ級5勝)を達成。マイルCS南部杯で2着に敗れ連勝はストップしたものの、BCクラシックという世界の舞台へと羽ばたいていった。
2010年の国内ダート戦線は混沌としていた。フリオーソ、サクセスブロッケンらに続く勢力の登場が期待されていた。
そんな中で迎えたみやこSは、5歳馬キングスエンブレムと4歳馬トランセンドの2頭に人気が集中。前走のシリウスSで初重賞制覇をしたキングスエンブレムに、トランセンドがどのような競馬を見せるのかに注目が集まった。
当時のトランセンドは5月に藤田伸二騎手に乗り替わり、東海S、日本テレビ盃と連続2着。新たな鞍上とともに手に入れた逃げの戦法を武器に、存在感を増していた。
東海Sではシルクメビウス、日本テレビ盃ではフリオーソに遅れをとったが、どちらもダート界トップクラスの馬たち。今回勝利して目標のジャパンカップダートを良い形で迎えたいところだった。
トランセンドが見事な逃げ切り勝ち
ゲートが開くと同時に、1枠2番のトランセンドがポンと飛び出す。藤田伸二騎手の激しいアクションに促され、積極的にハナを主張する。
そこからスムーズに単騎で逃げる形になるかと思いきや、ドリームライナー、ダイシンオレンジが外から先手を主張。しかし、それでもトランセンドは譲らず、先頭のまま最初のコーナーに入った。
ポジション争いが終わっても、トランセンドは軽快に飛ばす。2番手以下を少し離しつつ進み、隊列はあっという間に縦長となった。先行集団と後方集団がやや離れて二つの大きな集団が形成され、その後方集団の後ろの方に1番人気のキングスエンブレムがいた。
レースが進むにつれ、じわじわとトランセンドと2番手集団の差が縮まる。さらには先行集団と後方集団の差もほぼなくなり、馬群は大きなひとかたまりとなる。4コーナーのラスト600m地点、トランセンドが再び加速。速いラップを刻み、もう一度後続を突き放しにかかる。
2~3馬身のリードを保ち直線に入ると、そこから独走体制。最後は1番人気のキングスエンブレムが猛然と追い込む。しかし、トランセンドは逃げながらも上がり3F3位の脚を使っており、キングスエンブレムが差し切るにはポジションが後ろ過ぎた。
結果、トランセンドが1.1/4差の完勝。藤田伸二騎手があまりにも上手く、そしてトランセンドが強かった。
馬券は2番人気トランセンド、1番人気キングスエンブレムによる人気サイドのワンツーとなったため、馬連4.7倍の平穏配当。しかし、道中後方で脚をためにためた伏兵サクラロミオ(9番人気)が3着にきたため、三連単は154.1倍と万馬券となった。
ダート最強世代の呼び声高い4歳ラムジェットら参戦
トランセンドはみやこSを完勝すると、勢いそのままに続くジャパンカップダート、翌年のフェブラリーSも逃げ切り勝ち。そしてドバイワールドカップへと遠征。そこでヴィクトワールピサとの感動的な日本馬ワンツーを果たした。
直前に東日本大震災があり、チームジャパンとして臨んだ一戦。そんなレースで遠くドバイから日本に大きな感動を与え、今も多くの競馬ファンの記憶に残っている。
引退後のトランセンドは種牡馬として、阪神スプリングJ勝ち馬ジェミニキングなどを輩出。19歳となった今年は種牡馬を引退。yogiboヴェルサイユリゾートファームに移動し、SNSでファンに話題を提供しながら、穏やかな日々を過ごしている。
2010年は日本ダート界を背負いエスポワールシチーがBCクラシックに参戦。結果は10着に敗れ、ダート本場の壁はやはり分厚いと痛感させられた。それでも直線手前で一度は先頭に立ったという点は、日本ダート界にとって大きな希望を感じる瞬間でもあった。
そして今年、BCクラシックをフォーエバーヤングが勝利。日本競馬史に新たな歴史を刻んだ。トランセンドやエスポワールシチーを含め、この15年間で日本馬は数々の海外遠征に挑戦。そうした脈々と繋がるノウハウが遂に花開いた勝利だったとも言えるだろう。
さて、今年のみやこSには当時のトランセンドと同じく4歳馬のラムジェット、ロードクロンヌ、ダブルハートボンドらが参戦する。
このレースを経て、来年以降また世界で戦う日本馬が現れるのか。そんな期待を抱かせる才能溢れる馬たちの激戦を期待したい。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、ダイワスカーレット、ローマンレジェンド、ドウデュース。
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