【天皇賞(秋)】古馬の意地を見せたタマモクロスがオグリキャップを撃破 芦毛対決に沸いた1988年をプレイバック

緒方きしん

1988年の天皇賞(秋)、出馬表と結果,ⒸSPAIA

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タマモクロスvsオグリキャップ 芦毛2頭の対決

今週は天皇賞(秋)が開催される。過去にはエアグルーヴやスペシャルウィークが制した伝統の一戦。今回はそんな中から1988年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく(馬齢は満年齢で表記)。

この年の天皇賞(秋)は、何と言ってもオグリキャップとタマモクロスの“芦毛対決”に注目が集まっていた。

オグリキャップは地方から数えて14連勝中(中央移籍後6連勝)。前走の毎日王冠では一流古馬相手に勝利し、満を持してのGⅠ参戦となる。

天皇賞(秋)は長らく3歳馬の参戦を認めていなかったが、前年より解放。ここで3歳馬オグリキャップが勝利すれば、象徴的な勝利となることは間違いなかった。

一方のタマモクロスは前年10月から7連勝中。天皇賞(春)、宝塚記念とGⅠ連勝中で古馬の総大将といった存在。またタマモクロスは史上初の“天皇賞春秋連覇”をかけた一戦でもあった。

この2頭はいずれもクラシック競走は未出走。地方から来た天才オグリキャップ、落馬事故などを乗り越え、ダートからの転向で花開いたタマモクロス。いずれも王道とは言えない道のりを経てここに辿り着いた。

単勝オッズはオグリキャップが2.1倍の1番人気、タマモクロスが2.6倍の2番人気。ファンはまだ底を見せていない3歳馬オグリキャップを1番人気に支持した。

他にも安田記念2着のダイナアクトレス、85年のダービー馬で欧州でも好走を見せたシリウスシンボリらが参戦。芝の馬場状態は良。決戦の舞台は整っていた。

横綱相撲でタマモクロスが天皇賞春秋連覇

ゲートが開くとややバラついたスタート。レジェンドテイオーの郷原騎手が強く促し、あっという間に先頭を奪う。すぐに3馬身ほど差をつけて単独の逃げとなった。

離れた2番手からレースを引っ張る形となったのは、タマモクロスだった。タマモクロスは天皇賞(春)と宝塚記念どちらも後方からポジションを上げ、勝利していた。ここのポジションでいいのか。スタンドのファンが固唾を飲んで見守る。

逃げるレジェンドテイオーは前半1000mを59秒4で通過。3歳馬オグリキャップは中団に付け、タマモクロスを見るような形でレースを進める。道中で仕掛ける素振りはなく、いつ仕掛けるのか。ファンの視線は2頭に注がれていた。

先頭レジェンドテイオーの郷原騎手は見事なレース運びを見せる。5F目、6F目で12秒台のラップを刻み、息を入れてスタミナを温存。余力を残しながら最終コーナーへと向かう。

しかし2番手のタマモクロスは手応えが抜群に良い。南井騎手はガッチリと手綱を抑え、逃げるレジェンドテイオーをしっかりと射程圏内に捉えていた。オグリキャップはどっしりと中団に付け、最後の直線にかける構えだ。

直線に入るとタマモクロスが馬なりでレジェンドテイオーを捉えにかかる。ここで一層スタンドから大歓声が上がる。このときタマモクロスの南井騎手がちらっと後ろを確認する。まるでオグリキャップの位置を確認しているかのようだった。

直線半ばでついにオグリキャップが動く。河内騎手のゴーサインが出ると大外から一気に脚を伸ばし、前に襲い掛かる。

残り200m地点でレジェンドテイオーが脱落し、タマモクロスが先頭に立つ。そのタマモクロス目掛けて猛然とオグリキャップが追い込む。最後は芦毛2頭の戦いとなった。

先に抜け出したタマモクロス、追うオグリキャップ。スタンドからは今日一番の大歓声が上がる。外にヨレながらも必死に逃げるタマモクロス、河内騎手の渾身の鞭に応え、前を追うオグリキャップ。2頭の死力を尽くした追い比べを制したのは、4歳馬タマモクロスだった。

ゴール後、南井騎手がタマモクロスの首をポンポンと叩き相棒を労う。そのあと後ろを振り返り、オグリキャップの鞍上である河内騎手と何か言葉を交わす。そんな2頭に大観衆から大きな拍手が送られた。

単勝配当は2.6倍、枠連配当は2.4倍。馬連などの発売がない時代だったが、仮にあったとしても手堅い配当だったことは言うまでもない。

メイショウタバルら強力古馬勢に3歳馬が挑む

タマモクロスは次走のジャパンCで2着となり連勝ストップ。ラストランの有馬記念ではオグリキャップを抑えてファン投票1位に選出された。しかしレースではそのオグリキャップのリベンジにあい2着。それでも年度代表馬に輝く大活躍の一年となった。

引退後、種牡馬タマモクロスは重賞5勝のマイソールサウンド、重賞3勝のカネツクロスらを輩出。母の父としても重賞4勝のヒットザターゲットらを送り出している。

オグリキャップはジャパンCでもタマモクロスに先着を許し3着となったが、その次走の有馬記念を勝利。その後もGⅠを3勝して引退した。

今年の天皇賞(秋)には皐月賞馬ミュージアムマイル、皐月賞3着でダービー2着のマスカレードボールの有力3歳馬が参戦する。どちらもスピード能力が高く、高速馬場の東京芝2000mはベストに近い条件だろう。

ただ今年は受けて立つ古馬勢も強力だ。その筆頭格が今年の宝塚記念勝ち馬メイショウタバルや、春に香港GⅠを制した23年のダービー馬タスティエーラだろう。

また牝馬からもGⅠ馬ブレイディヴェーグ、春のヴィクトリアマイル2着のクイーンズウォーク、前走で新潟記念(GⅢ)を勝ち勢いに乗るシランケドらも参戦する。

今年も古馬勢が意地を見せるのか、それとも3歳馬が一気のGⅠ制覇を成し遂げ、世代交代を告げるのか。目が離せない一戦になりそうだ。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エイシンフラッシュ、ドウデュース。

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