【菊花賞】雨の京都で“2頭のメジロ”が激突 最強ステイヤー・メジロマックイーン誕生の1990年をプレイバック
緒方きしん

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2頭の“メジロ”が火花を散らす
今週は菊花賞が開催される。過去にはライスシャワーやダンスインザダークらが制したクラシック最終戦。“最も強い馬が勝つ”とも言われる長距離戦である。今回はそんな中から1990年の一戦をピックアップ。当時のレースを振り返っていく。
1990年のクラシック戦線は盛り上がり、そして混沌としていた。皐月賞はハクタイセイが制し、ダービーでは19万6517人の大観衆が見守るなか、3番人気のアイネスフウジンが勝利。そして東京競馬場に「ナカノコール」が鳴り響いた。
しかし菊花賞の舞台に2頭の姿はなかった。ハクタイセイは右前脚を骨折、アイネスフウジンは左前脚の屈腱炎を発症。クラシックウイナーのいない菊花賞となった。
そんな中で1番人気はメジロライアン。ひいらぎ賞、ジュニアC、弥生賞と3連勝で挑んだ皐月賞では2番人気3着。続くダービーでは1番人気に支持されるが、そこでも2着と惜敗する。秋初戦の京都新聞杯はきっちりと勝利。皐月賞馬とダービー馬が不在なら1番人気は必然だった。
この年の菊花賞には、同じく「メジロ」の冠を持つ馬がもう1頭参戦していた。デビューから7戦3勝2着3回3着1回と、抜群の安定感を誇るメジロマックイーンである。
クラシック皆勤のライアンとは異なり、マックイーンはここが初の重賞挑戦。春の時点では1勝馬であり、2勝目、3勝目は9月になってから挙げていた。
しかもダートで2勝、芝で1勝と実績はむしろダートで積み上げていたが、ファンはそれでもマックイーンの素質を信じ、4番人気に支持した。
その他のメンバーも、ダービー3着でセントライト記念勝ち馬ホワイトストーン、武豊騎手騎乗のオースミロッチなど素質馬が集結。クラシックホース不在を感じさせない戦いとなっていた。
雨中の一戦 スタミナ勝負の熱戦はマックイーンに軍配
菊花賞当日は雨模様。京都競馬場のスタンドは傘で埋まっていた。ロングアーチが出走を取り消し、17頭でのレース。単枠指定は最内のホワイトストーン、大外のメジロライアンとなっていた。
ゲートが開くと、ニチドウサンダーがポンと好スタートを見せるも、他馬も大きな遅れもなく追走。マイネルガイストが外からポジションを上げ、ヨシノトップがさらにその外側から上がっていく。
次いで、やや掛かり気味にオースミロッチが上がっていき、3000m戦ながら序盤から激しい先行争いが繰り広げられる。
メジロマックイーンはその争いを見ながら、3番人気アズマイーストとともに中団を追走。メジロライアンはさらにその後ろに付けていた。
スタンドに集まった大観衆。一周目でスタンド前を通過する各馬に大歓声が降り注ぐ。大外スタートだったメジロライアンは外を通りながら安全策の競馬を選択していた。
スタンド前を通り抜け1コーナーに差し掛かると、先行集団が横に広がり渋滞。それを内からスッと上がっていったのが、内田浩一騎手とメジロマックイーンだった。メジロライアンも8番手付近までポジションを上げ、外を回りながら前の様子を伺う。
メジロマックイーンは上り坂でさらにポジションを上げて2番手。対するメジロライアンは下り坂に差し掛かったところで手応え良く、一気に前に進出していく。
最終コーナーに入り、最内でオースミロッチが粘り、メジロマックイーンはその外。メジロライアンは外から追い上げるが、内にアズマイーストがいたためコーナリングで膨れながら最後の直線へ。
直線に入るとメジロマックイーンが早々と先頭に立つ。外からメジロライアン、内からホワイトストーンが追い込む。しかしメジロマックイーンの脚色は衰えない。
ホワイトストーンは鋭い末脚を使うもゴール前で止まり、メジロライアンもいつものような伸び脚は見られず。ただ一頭メジロマックイーンは最後まで伸び続けそのままゴール。初重賞挑戦で菊花賞を制した。2着はホワイトストーン、メジロライアンはまたしても3着に敗れた。
単勝配当は7.8倍。その後のメジロマックイーンは単勝オッズ1倍台が11回、2倍台が2回のため、最も妙味のあったレースだった。
今だったら「メジロのワイド」を買っていたファンも多かったかもしれないが、当時はまだワイドはなく、メジロライアンのファンは複勝1.2倍の配当のみを手にする結果となった。
春のクラシック勝ち馬不在 “令和のマックイーン”は現れるか
メジロの2頭は、その後も競馬界を大いに賑わせる。
メジロライアンは年末の有馬記念2着、翌年の天皇賞(春)4着と引き続き悔しい思いをするも、宝塚記念でメジロマックイーンを撃破しGⅠ制覇を達成。種牡馬となってからもオークス馬でGⅠ・5勝のメジロドーベル、天皇賞(春)を勝つメジロブライトらを輩出した。
メジロマックイーンは1991年の天皇賞(秋)で降着を経験するも、天皇賞(春)を連覇するなど最強ステイヤーとして君臨。1991年は最優秀5歳以上牡馬(現に4歳以上牡馬)に選出された。
種牡馬としては母父として活躍。ステイゴールドとの相性が抜群でグランプリ連覇のドリームジャーニー、三冠馬オルフェーヴル、GⅠ・6勝のゴールドシップといった歴史的名馬を輩出した。
今年の菊花賞は、ダービー馬クロワデュノールが凱旋門賞に挑戦。皐月賞馬ミュージアムマイルが天皇賞(秋)進むことで、クラシックホース不在となる。
クラシックウイナーが怪我で離脱した1990年とは状況は異なるが、それでも今回のメンバーから“令和のマックイーン”を探したくなる。
メジロマックイーンのデビュー2戦目はゆきやなぎ賞。今年はゆきやなぎ賞の1〜3着馬のゲルチュタール、マイユニバース、コーチェラバレーが登録している。
特にメジロマックイーンと共通点が多いのが、マイユニバースだ。ゆきやなぎ賞2着で今回が重賞初挑戦。前走は逃げて2500mの九十九里特別(2勝クラス)を7馬身差の圧勝。メジロマックイーンと同じく豊富なスタミナを感じさせる。
春のクラシック戦線で活躍を見せたショウヘイやエリキングが意地を見せるか。それともマイユニバースやゲルチュタールなど、上がり馬が一気のGⅠ制覇を果たすか。注目したい。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、オルフェーヴル、ドウデュース。
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