【菊花賞】距離延長で上昇気配のレッドバンデが本命候補 道悪こなすミラージュナイトを穴で一考

山崎エリカ

2025年菊花賞のPP指数,ⒸSPAIA

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道悪の菊花賞は決め手よりもスタミナ

菊花賞は全頭が初の3000mとなるため、2週目の3角までは脚を溜める展開がほとんどだ。良馬場時の直近10回では平均よりも遅いペースで決着しており、3角では中団付近の位置にいないと勝ち負けするのは難しい。

しかし、不良馬場で行われた2017年は一転して激流。馬場の内側が酷く荒れ、外差し有利の馬場だったこともあり、この時は3角12番手のキセキが大外一気を決めている。また2着馬はその後ダートで活躍することになるクリンチャーだった。

2017年は不良のなかでも決着タイムが3分18秒9も要した極悪馬場。決め手よりもスタミナが強く求められたレースだった。今年はどこまで馬場が悪化するかにもよるが、総合能力が高い馬を中心に狙いたい。

能力値上位馬の紹介

2025年菊花賞のPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 ショウヘイ】
京都新聞杯で賞金加算に成功して挑んだ日本ダービーでは3着。今年のダービーはやや内有利の馬場で前有利の展開。2番枠を引き当てた本馬は好スタートを決め、外からハナを主張したサトノシャイニングを行かせて2列目の最内、最終的にはホウオウアートマンも行かせて3列目の最内と完璧な立ち回りだった。

休養明けで京都新聞杯を勝利した馬は、本番の日本ダービーでは疲れが出て大敗することが多い。しかし、ここで前進したことは成長力を意味するものであり、秋への視界が広がる一戦だった。

前走の神戸新聞杯では2着。この時は5番枠からまずまずのスタートを切り、すぐにコントロールして3番手を追走。道中でも全くペースが上がらず、コントロールにやや苦労していたが、何とか3番手で折り合って進めた。

3~4角でも2列目の外からアルマデオロの後ろを通して直線へ。序盤で同馬の外に誘導して追われると、すっと伸びて先頭列に並びかける。ラスト1Fでもしぶとく踏ん張っていたが、エリキングにかわされてクビ差で惜敗した。

この時は超高速馬場で、前後半3F62秒6-57秒7の超スローペース。スローの団子競馬で、レース上がり3Fが33秒1と極端に速く、末脚勝負となったことでエリキングに屈してしまった。しかし、時計がかかって、上がりもかかる決着になれば、折り合いもつくので本馬の優位性が高まる。時計を要する馬場になるほど重い印を打ちたい馬だ。

【能力値2位 エリキング】
2歳時の野路菊S、京都2歳Sではジョバンニを下して2連勝。骨折による休養明けの皐月賞こそ11着と崩れたが、次走のダービーでは最速の上がり3Fタイムで5着に善戦すると、前走の神戸新聞杯ではダービーの3着馬ショウヘイを破って勝利した。

前走は大外10番枠からやや出遅れたが、無理なく中団やや後方の外を追走。道中ではデルアヴァーをマークして進めた。3~4角で仕掛けた同馬を追いかけ、4角出口で外に誘導。直線序盤で追われると、じわじわ伸びて2列目付近のデルアヴァーに並びかけ、ラスト1Fでショウヘイをクビ差で捉えた。

ショウヘイの章で記載したが、当時は超高速馬場の超スローペース。前有利の展開を長くいい脚を使っての差し切り勝ちだった。極端な上がり勝負となりながらも、上がり3F2位の馬を0秒6上回る、最速の上がり3Fタイムを記録している。

昨年の京都2歳Sでは、3~4角で2列目の外から押し上げようとしていたが、徐々に手応えが怪しくなり、4角で激しく追われても、動き切れずに3列目に下がって直線。そのまま失速かと見せて、一気に盛り返しての勝利というシーンがあった。

この時、川田将雅騎手が「4角でなかなか動きが出てこなかったので、無理をして動かすことを教えながら行った」とコメントしていたように元々は荒削りな面を見せていた。しかし、一戦ごとに粗削りな部分が解消され、前走では出遅れ癖も「やや」と言えるレベルに収まった。

また4角で動き切れないながらも、(京都2歳Sでの)ラスト2F11秒5-11秒4の流れを差し切ったのはエンジンの掛かりが遅いが、伸び始めたら簡単には止まらないトップスピードの速さ+持続力がある。つまり、長距離がベストである可能性が高い。

ただ、時計のかかる馬場はスピードが削がれることになるので、好材料とは言えない。ショウヘイとは反対に、高速馬場であればあるほど重い印を打ちたい。

【能力値3位 レッドバンデ】
今年2月の東京芝1800mの新馬戦では3着だったが、距離を延ばして上昇。青葉賞では前有利の展開のなか、エネルジコよりも派手に出遅れ、後方2番手からの追走となる。馬場の良い外を通したエネルジコに対し、本馬は終始馬場の荒れた最内を通して同馬と0秒1差の4着に善戦した。

続く2走前の稲城特別(1勝クラス・東京芝2400m)では、断然の1番人気に応えて勝利。ここでは7番枠から五分のスタートを切り、コントロールしながら2列目の最内を確保。道中はペースが上がらなかったが、2列目の最内で前にスペースを置いてもしっかり折り合って進めた。

3~4角でペースが上がったが、最短距離を通して脚を温存。直線序盤で進路がなく、まごつく場面があったが、ラスト2Fで先頭列2頭の間を割って伸びると、ラスト1Fでそのまま突き抜けて5馬身差で圧勝した。

当時は超高速馬場で前後半5F61秒7-57秒8とかなりのスローペース。しっかり前の位置を取って、最速の上がり3Fタイムを記録しての勝利と、文句ナシの内容だった。

前走のセントライト記念では3着。8番枠から五分のスタート後、内に切りながら先行して2列目の最内を確保。道中も2列目の最内で前のスペースを維持し、向正面で捲る馬がいても我慢させた。

3~4角でも2列目の最内で我慢させていたが、4角で前のジーティーアダマンが失速して詰まり、その外のフィーリウスの後ろを選択。直線序盤で内からヤマニンブークリエに出し抜かれてしまったが、フィーリウスの外からじわじわ伸びて2列目に上がる。ラスト1Fで前2頭に食らいつき、2着ヤマニンブークリエにクビ差まで迫った。

当時はコンクリートレベルの高速馬場で前後半5F60秒3-58秒3とかなりのスローペース。前有利の展開をほぼ完璧に立ち回ってはいるが、4角で詰まる不運がなければヤマニンブークリエに先着していた可能性が高かった。

本馬は新馬戦から距離を延ばして、前の位置が取れるようになって上昇一途。長距離適性が高いだけでなく、折り合い上手という強みもある。そのうえキャリアも5戦と浅く、まだまだ伸びしろが見込める。

今回は大外18番枠だが、時計がかかる馬場なら絶望的な枠でもない。本命に推す。

【能力値4位 ヤマニンブークリエ】
青葉賞ではエネルジコ、ゲルチュタール、レッドバンデらに完敗の8着だったが、当時は勝負所で内に刺さってまともに追えなかったことが主な敗因だった。しかし、今回、本馬の鞍上はクセ馬に乗せたら一流の横山典弘騎手。同騎手が騎乗した2走前の町田特別(2勝クラス・東京芝2400m)では3番枠から2列目の最内とラチに頼る競馬で1着としっかり結果を出した。

前走のセントライト記念では2着。ここでは5番枠からまずまずのスタートを切り、好位の最内を確保。道中はレッドバンデをマークする形で進めていたが、向正面で捲る馬が出たところで自然と位置が下がり、中団の最内で3角に入る。

3~4角で前のスペースを活かして仕掛けを待ち、4角でレッドバンデが外を選択したところで進路を最内に切る。序盤で2列目の最内のスペースを拾って先頭列2頭の間を割って伸びるが、ラスト1Fで抜け出し切れず、外のミュージアムマイルに差し切られて3/4差で敗れた。

前走では最後の直線でラチに頼らなくても伸びてこれたのは大きな収穫。前走は右回りゆえにラチに頼らない競馬ができた可能性もあるが、今回も同じく右回りである。前走時、ラスト1Fで詰め寄られたレッドバンデと比較をすると、やや見劣るが決して侮れない。

【能力値4位 エネルジコ】
デビューから3連勝で青葉賞を勝利すると、古馬初対戦となった前走の新潟記念でも2着と健闘した馬。前走では15番枠から出遅れて最後方付近からの追走となったが、道中でじわっと位置を押し上げて好位の外で3角に入る。

3~4角でも好位の外でシンリョクカをマークし、さらに外に誘導しながら仕掛けて直線へ。序盤で同馬の後ろから追われるもまだ3列目。ラスト2Fでは外目から中目に切れ込みながらしぶとく伸びたが、最後は外からシランケドに差されて半馬身差の2着だった。

当時は標準的な馬場で前後半5F60秒5-57秒5の超スローペースで、ほぼ直線だけの競馬となり、例年のように外差し有利の馬場状態。外からシランケドに差されてはいるが、十分に強い内容だった。

ただし、夏の重賞で賞金を加算をして菊花賞に出走した馬というのは振るわないことが多い。2018年に新潟記念を制して臨んだブラストワンピースは、その年の有馬記念を勝利するほどの実力馬だったが、菊花賞は4着に敗れている。本馬も素質が高く、善戦する可能性は高いが、勝ち負けまではどうか。

【能力値4位 ゲルチュタール】
青葉賞では好位の中目から4角出口で外に膨れてしまい、直線の加速で置かれる鞍上の誘導ミスもあって3着に敗れたが、その次走の三田特別(2勝クラス・阪神芝2400m)は圧勝。前走の日本海S(3勝クラス・芝2200m)でも1番人気に応えて勝利した。

前走は4番枠から五分のスタートを切り、じわっと先行して3番手を確保。道中は外から掛かったキャントウェイトが2番手に上がり、先頭からやや離れた4番手の外目をコントロールしながら進めた。

3角で外からウインオーディンが仕掛けて上がってくると、抵抗する形で本馬も動き、先頭列の外々で雁行状態に。4角で同馬とともに先頭に立って直線へ入ると、序盤では外のウインオーディンを制し、クビ差ほど前に出る。ラスト1Fでは外からロジシルバーも追い上げて3頭での接戦となったが、これを振り切ってクビ差で勝利した。

当時は標準的な馬場で前後半60秒6-58秒9のかなりのスローペース。この日は新潟記念の前日でもあり、外差し有利の馬場状態であり、外から差し迫った2着ウインオーディンや3着ロジシルバーよりも強い内容ではあった。

日本海Sを勝利して菊花賞でも好走した馬というと、2023年の優勝馬ドゥレッツァや24年の2着馬ヘデントールがいる。2連続で菊花賞でも通用していることから、本馬も人気するだろう。しかし、前述したロジシルバーが次走の新潟牝馬Sで5着に敗れているように、今年の日本海Sは過去2年と比べると指数としても高くない。菊花賞で通用するには、前走からのさらなる成長が欲しい。

穴候補はスタミナ秘めるミラージュナイト

ミラージュナイトは3走前の阪神芝2200m戦・すみれSで2着に健闘。6番枠からやや出遅れたが、じわっと挽回して2番手を確保。道中は先頭のジーティーアダマンから離れた2番手で進め、3~4角で一気に押し上げて直線へ。

序盤でジーティーアダマンとの差は1馬身4分の3差。その差はラスト1Fでも詰まらなかったが、外から追撃するファイアンクランツ(次走の青葉賞3着馬)をハナ差で振り切った。

本馬は折り合いに課題があり、未勝利戦も逃げ切り勝ちだったが、ここでは折り合いに進境を見せていた。また、タフな馬場で行われた前走の札幌日刊スポーツ杯(2勝クラス・芝2000m)でも勝利を挙げている。

その前走は10番枠からやや出遅れ、無理をさせずに中団の外を追走。道中はゆったりと流れたが、中団のやや後方を前にスペースを置いて進めた。

3角手前でこのスペースをじわっと詰めて外に誘導し、そのままの勢いで2番手まで押し上げて直線へ。序盤ですっと伸びて先頭列に上がり、ラスト1Fで突き抜けると2馬身差で完勝した。

当時はタフな馬場のなか、前後半62秒4-61秒1のスローペース。前有利の展開を最後までしぶとく伸び続け、最速の上がり3Fで差し切り勝ちだった。

ここで2着、3着に下したショウナンサムデイ、エランは次走で2勝クラスを完勝しているように、2勝クラスとしてはレベルが高い一戦であり、ゲルチュタールが勝利した3勝クラスの日本海Sと同等の指数を記録している。それならば道悪適性も高く、秘めたスタミナがあるミラージュナイトを穴候補として一考したい。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ショウヘイの前走指数「-20」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.0秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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