【ファンタジーS回顧】良血フェスティバルヒルが“未来を見据えた競馬”で快勝 光ったC.デムーロ騎手の手腕
勝木淳

ⒸSPAIA
スローゆえの差し台頭
阪神ジュベナイルフィリーズの前哨戦・ファンタジーステークスはフェスティバルヒルが勝利し、重賞初制覇。2着ショウナンカリス、3着メイショウハッケイで決着した。
キャリアが浅い2歳牝馬同士では、たとえ重賞でもそう速く流れない。まして脚質が定まらない微妙な並びは、内枠でただ一頭先行姿勢をみせたマーブルパレスがハナに立ち、7枠メイプルハッピーとフルールジェンヌが併せる形から引いたことで、落ち着いた。
前半600mは35.3。レース中盤にかけてラップを下降させながら進んでいった。スローになったら前残り。そんな予感を打ち破ったのが、勝ったフェスティバルヒル。2、3着も中団の後ろから差しており、前は残らなかった。
スローでも位置取りの優位性が働かなかったのは、ラストが11.5-11.1-11.4の34.0という瞬発力勝負になったから。脚を溜めたい差し馬勢にとって、エネルギーを充填しやすい流れでもあった。競馬はやはり難しく、単純な方程式では結論は導けない。
良血でも奥深さ違うハッピートレイルズ牝系
さて、スローの瞬発力勝負を制したフェスティバルヒルは、この週から来日したクリスチャン・デムーロ騎手の手腕を抜きには語れない。
まず、これだけスローペースのなか、内枠から下げていく序盤が目につく。あえて位置をとらず、ひたすら折り合いに専念。道中で位置を下げても、徹底してフェスティバルヒルに抑えて走るよう指示を出し続けた。
スローで下げるのはリスキーにも映るが、そうは考えない。やはり名手の思考回路は常識とは違う。フェスティバルヒルが全力を出したのは、直線に入ってから。残り2ハロンで勝負を決めた。その区間は11.1-11.4。22.5をひっくり返す脚力はさすが良血馬といったところか。
兄ミュージアムマイルは皐月賞馬。2年続けて産駒が重賞を勝つのは珍しい。母ミュージアムヒルは素晴らしい繁殖だ。この血は母ロレットチャペル、祖母サンタフェトレイルからハッピートレイルズにたどり着く。
ハッピートレイルズといえば、シンコウラブリイの母であり、一族にはハッピーパス、キングストレイル、サブライムアンセム、コディーノと重賞勝ち馬が並び、そしてチェッキーノからチェルヴィニアが出るなど活気が一向に衰えない。
シンコウラブリイの誕生は1989年なので、もう36年も繁栄し続けている。ひと口に良血といっても、ミュージアムマイルやフェスティバルヒルに流れる血は奥深さが違う。
兄は朝日杯フューチュリティステークスで2着に敗れたが、切れ味ならフェスティバルヒルも引けをとらない。マイルに距離が延び、課題の折り合いがどれほど進むかわからないが、今回教えたことが改善につながるのではないか。そんな“未来を見据えた競馬”で重賞を勝ち切った事実は大きい。
これで桜へ続く特急の指定席を確保できた。新潟2歳ステークスでは賞金加算できなかっただけに、陣営もひと安心だろう。
輸送を克服したショウナンカリス
2着に突っ込んできたのはショウナンカリス。馬体重は10kg増でも418kgと小さい馬体ながら、メイショウハッケイの猛追をしのいだ。
牝馬のエスコートが巧みな池添謙一騎手が、馬群で揉まれないよう外目で我慢しながら走らせたのが好走につながった。気分よく走ればこれぐらいはやれる馬だ。デビューから北海道に滞在していた馬で、初の長距離輸送を経て馬体が10kg増えたのも今後に向けて明るい材料だろう。
輸送の負担は若駒にとって想像以上。地元関東のマイル戦(=アルテミスステークス)ではなく、1400mを求めての遠征だったが、最低限の賞金加算には成功できた。
3着メイショウハッケイはフェスティバルヒルに次ぐ3位となる上がり600m33.2を記録した。こちらも非凡な瞬発力を備えている。直線ではステッキが入るたびに尾っぽをブンブン回して反応するなど、まだまだ幼さ全開の印象。将来性を感じる一頭だ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。
《関連記事》
・【ファンタジーS】結果/払戻
・【ファンタジーS】フェスティバルヒル中心も波乱含み データで浮上するのはベレーバスク
・川田将雅騎手が中距離で無双状態、武豊騎手は重賞で複回128% 現役最高の京都巧者を種牡馬、騎手ごとに徹底検証
