【秋華賞】“マイペース逃げ”エリカエクスプレスの一発に期待 対抗はハイレベル桜花賞を制したエンブロイダリー
山崎エリカ

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本番は前哨戦と逆の展開になりやすい
「秋華賞は緩みなく流れる」というワードを良く目にする。実際に京都で行われた直近10年を見ても、極端なスローペースは2回に対して、かなりのハイペースだった年が5回もある。
しかし、本番は前哨戦と逆の流れになることも多く、秋華賞がかなりのスローペースとなった2023年は、前哨戦のローズSも紫苑Sもハイペースだった。シンプルに前哨戦で敗れた逃げ、先行馬が本番に出走してこれないのもあるが、騎手心理としても恐れを感じるほどハイペースになった後は、控えたくなるものだ。
今年は前哨戦のローズSが5F通過56秒8のオーバーペースになった。今回、逃げ馬がエリカエクスプレスとケリフレッドアスクの2頭。ケリフレッドアスクはテンがそこまで速くないので、エリカエクスプレスがマイペースで逃げれば、平均ペース前後の決着になる可能性が高そうだ。
有力馬と評価ポイント

【能力値1位 カムニャック】
オークスを制した実力馬で、前哨戦のローズSも完勝。「-19」と高い指数で決着した桜花賞とオークスで2着のアルマヴェローチェが戦線離脱したここでは、中心を担う存在だ。
そのオークスでは15番枠から五分のスタートを切り、コントロールして中団の外を追走。道中は前に壁を作って折り合い重視で進め、3角で外からリンクスティップが上がってくると、その後ろに誘導。4角では同馬の外から軽く仕掛けて直線へ。
序盤でリンクスティップを楽にかわして好位列に上がると、ラスト2Fではしぶとく伸びて先頭列付近。ラスト1Fでは内で粘るアルマヴェローチェとの叩き合いをアタマ差で制した。
オークス当日は馬場の内側が荒れており、馬場状態は稍重から回復して標準レベルの良馬場。前後半5F60秒0-60秒1と緩みなく流れた。本馬は4角でかなり外を回るロスを作ったが、後方有利の展開に恵まれた面もあった。
前走のローズSは11番枠から五分のスタートを切り、コントロールしながら好位直後の外目で様子をうかがっていたが、前が飛ばしていくとその位置で折り合いに専念させた。
3~4角も好位直後の外目で進め、4角で軽く仕掛けたがそこまで動けず。出口で内のミッキーマドンナに弾かれて位置を下げる場面があった。それでも直線序盤で一気に伸びて2列目付近まで上がり、ラスト1Fではしっかりと抜け出して1馬身半差で完勝した。
当時はコンクリートレベルの高速馬場で5F通過は56秒8とかなりのハイペース。後方有利の展開となったなかで、ある程度、前の位置を取って好走したことは高評価できる。
昨年の秋華賞ではローズSの勝ち馬クイーンズウォークも紫苑Sの勝ち馬クリスマスパレードも馬券圏外に敗れているように、前哨戦の勝ち馬は本番に繋がらないことが多い。しかし、本馬は前走時の馬体重8kg増が示すように、ソフト仕上げだった。さらにアルマヴェローチェも不在となるここは重い印を打ちたい。
【能力値2位 マピュース】
前走の中京記念でメンバー中No.1の指数を記録して優勝した馬。前走は1番枠からやや出遅れ、押して二の脚で先行し、2列目の最内を確保。道中は単騎で逃げるシンフォーエバーの2番手で進めた。
3~4角では最内からじわじわ差を詰めて、シンフォーエバーと1馬身3/4差で直線へ。序盤で追われても反応は地味で差が詰まらなかったが、ラスト1Fでしぶとく伸びるとシンフォーエバーを捉え切ってクビ差で勝利した。
この時は超高速馬場で前後半4F46秒9-45秒4のスローペース。前と内が有利な展開を2番手から最短距離を通し切っての勝利だった。
桜花賞では4着。この日は各馬が内を空けて走っていたように、馬場の内側が荒れていたなか、中団最内からラスト2Fで一気に先頭列へ上がったため、ラスト1Fでやや甘さを見せた面がある。
続くNHKマイルCでは7着。この時は3~4角で前が失速し、後方馬群中目のスペースを拾っていく形。序盤で外に誘導したものの、上手く進路を確保できず、ラスト2Fで勝ち馬パンジャタワーの後ろを取ったが、そこでも窮屈で捌き切れず、最後はなだれ込むだけだった。
上記の近走内容に加え、軽斤量52kgでテンの速力強化が見込めたことから前走の中京記念では本命にしていたが、出遅れはあったにせよ枠も含めて全てが恵まれたレースだったとみている。
芝1600mで前から押し切れる馬が、芝2000mをこなせないとも思わないが、ベストではないだろう。また、本馬はデビューから一貫して芝1600m戦を使われており、芝2000mは今回が初。さらに、自己最高指数を大幅に更新した後の一戦となると不安がある。
【能力値3位 エンブロイダリー】
オークスは完敗だったが、桜花賞で記録した指数が高く、内容もインパクト大だった。その桜花賞では7番枠から躓きかけて出遅れたが、そこから内に切り込みながら挽回して中団馬群の内目を追走。道中で中目にスペースができて、そこを狙って好位に上がろうとしたが、外から切り込まれてブレーキをかけ、進路を再び内に切り替えて3角へ。
3~4角では中団内目で包まれ、進路もない状態で我慢。直線に入ると、序盤で3列目付近から中目の狭い間を捌きながら馬場の良い外目に誘導し、先頭列まで上がる。ラスト1Fでしぶとく抜け出し、食らいつくアルマヴェローチェをクビ差で振り切った。
この時は標準的な馬場で前後半46秒6-46秒5の緩みない流れ。前半3F34秒5と速く流れた中で、出遅れを挽回して最後までしっかり脚を使っての勝利だった。
桜花賞では3着リンクスティップに2馬身半差、4着マピュースに5馬身差を付けているように、今年は例年と比較してもレベルが高く、オークスと同等の指数を記録して決着している。
一方、オークスでは9着敗退。時計が掛かる馬場でハイペースとなったなか、かなり掛かって、最後の直線で追っても伸びなかったのが主な敗因だ。桜花賞を大目標にした疲れからか力んでいた面がある。
過去には激流となったクイーンCでも2番手から押し切って勝利しているように、本馬はスピードの持続力がある馬。2400mは距離が長いとしても、芝2000mであれば折り合いひとつだろう。ただ、エリカエクスプレスの単騎逃げの形では、スローでまた折り合いを欠く可能性もあるだけに、対抗評価までとする。
【能力値4位 テレサ】
前走のローズSで2着。同レースでは10番枠からまずまずのスタートを切り、押して先行する構え。しかし、内と外から競られたため、抑えて好位中目から追走した。道中では淡々とした流れにある程度乗って、好位の中目で3角に入る。
3~4角では3列目付近の中目付近を立ち回り、4角出口で外に誘導。直線序盤で追われたが、一気にカムニャックにかわされ、3番手争い。ラスト1Fでじわじわ伸びると2番手に上がり、外から迫るセナスタイルをクビ差で振り切った。
カムニャックの章で記載したようにローズSはかなりのハイペースだった。厳しい流れに積極的に乗って粘れたことは好ましい。しかし、本馬の後ろで進めていたカムニャックに直線であっさりかわされての2着となると、同馬よりも下の評価にせざるを得ない。
また、前哨戦の好走馬、特に前哨戦で自己最高指数を記録した馬は、本番で反動が出ることが多い点が懸念される。とはいえ、本馬のキャリアはまだ6戦と今回のメンバーでは浅い部類。さらなる成長力を見せて通用してしまう可能性も秘めている。
【能力値5位 パラディレーヌ】
オークス4着馬。今年はオークス2、3着馬が不在で、ここではカムニャックに次ぐ着順となる。オークスでは3番枠から促して最内に入り、アルマヴェローチェをマーク。道中は中団最内で我慢する形。
3~4角でアルマヴェローチェは外目に動くも、そのまま内から直線へ。序盤で結局、アルマヴェローチェの後ろを通して2列目に上がったが、ラスト1Fで内のタガノアビーにクビ差前に出られて4着だった。
馬場の内側が荒れていたなか、アルマヴェローチェと同様に内目を通したことに加え、後方有利の展開でカムニャックやタガノアビーよりも前の位置から早めに仕掛けたことが、ラスト1Fで甘くなった要因だろう。
上記のようにオークスでは1、3着馬よりも良い内容だっただけに、ローズSで本命も視野に入れていたが、始動戦としては調教が軽かったため見送った。結果、ローズSでは8着に敗れている。
そのローズSではこれまでで一番大きく出遅れ、押して押して挽回。道中は中団の内で進めたが、3~4角では前のミッキーマドンナが下がって動けず。直線序盤では内を突くが、前が壁となって最悪の形。進路を確保してからのラスト1Fも、案外な伸びではあったが勝ち馬との着差0秒5差なら悪くもない。
今回、本命も視野に入れていたが、まさかの大外18番枠を引いてしまった。本馬はカムニャックのように後半のスピードで勝負するタイプではなく、前半のスピード+器用さで勝負するタイプ。この枠だと距離ロスを強いられる点が不安だ。雨が降って時計が掛かってくれれば勝ち負けまでありそうだが、高速馬場だと善戦止まりで終わる可能性が高い。
“一発ある”本命候補は逃げ馬エリカエクスプレス
エリカエクスプレスは、デビュー2戦目のフェアリーS圧勝劇がインパクト大の一頭。この時は12番枠からまずまずのスタートを切り、先行して2列目の最内を追走。道中はペースが速かったが、それでもやや掛かっており、コントロールに専念して進めた。
3~4角では最内を通り、4角で前2頭の外に誘導して直線へ。直線序盤で持ったまま先頭に立って半馬身のリードを奪うと、ラスト1Fでは追われてしぶとく抜け出し、3馬身差で圧勝した。
当時は高速馬場で前後半4F45秒5-47秒3のかなりのハイペース。前が不利な展開のなか、先行策からの押し切り勝ちであり、記録した指数も桜花賞の3着馬リンクスティップに先着できるレベルのものだ。
桜花賞では5着に敗退したが、これは2番枠からロケットスタートを決めたことで逃げざるを得なくなり、馬場の荒れた内側をオーバーペースで逃げてラスト1Fで失速したもの。負けて強しの内容だった。距離に関しては現状、エンブロイダリーやマピュースと同様で、芝1600mがベストだ。
距離適性を考慮し、始動戦に選ばれたのは中山芝1600mの京成杯AH。結果は11着に敗れたが、中山開幕週のコンクリートレベルの高速馬場で、極端に上がりの速い決着に泣いた格好だ。加えて、内有利の馬場のなか、2列目の外で折り合いをつけようとしていたが、コントロールが利いていなかった。
しかし、京成杯AHの敗退で陣営の腹は「逃げる」で括れたのではないか? 今回はそれを踏まえて、“逃げ上手”の武豊騎手を起用したのだろう。序文でも触れたように、同型馬のケリフレッドアスクはテンがそれほど速くない。ここはマイペースの逃げ切りを期待して本命候補とする。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)カムニャックの前走指数「-18」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも1.8秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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