【秋華賞】カムニャックは“勝利なし”データを打ち破れるか エンブロイダリーの前例なき挑戦も注目
勝木淳

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近年は平穏な牝馬三冠最終戦
現3歳世代牝馬の戦いもいよいよ終着地点がみえてきた。阪神ジュベナイルフィリーズを制したのはアルマヴェローチェ。1:33.4とハイレベルな勝ち時計も、その後、桜花賞とオークスで2着とクラシックは無冠に終わり、秋を前に左前浅屈腱炎を発症したため戦線離脱となった。
桜花賞はエンブロイダリー。阪神JF不出走、クイーンカップから桜花賞を勝つという新たな道を拓いた。ただしオークスでは9着に敗れ、距離不安を残しつつ秋華賞に直行する。
そのオークスはカムニャックが差し切った。フローラステークスからの連勝を決め、休み明けのローズステークスも制し目下絶好調。中距離の本格派の気配すらある。
2歳からGⅠ皆勤を続けているのはビップデイジー、ブラウンラチェットの2頭しかいない。いかにこの道のりが険しいか。
同時に、この世代を引っ張り続ける核も見当たらない。絶好調の カムニャックが二冠を制すれば文句なしだが、もしも敗れるようなら、JRA賞最優秀3歳牝馬は難しい一票になりそうだ。データは21、22年阪神を含め、過去10年分を使用する。

創設当初の秋華賞は内回りコース特有のハイペースが影響し、波乱決着が目立っていたが、近年はすっかり様変わり。1番人気【5-0-1-4】勝率50.0%、複勝率60.0%と主役が強く、勝ち馬は3番人気【3-1-2-4】勝率30.0%、複勝率60.0%から4番人気【2-2-0-6】勝率20.0%、複勝率40.0%まで。2番人気こそ【0-3-2-5】複勝率50.0%と未勝利だが、上位人気はそう崩れない。
以下は8番人気【0-0-2-8】複勝率20.0%など、3着に複穴が入る可能性は残っているが、昔のような大穴狙いは無理筋だろう。

内回りのフルゲートという設定で枠番の傾向は無視できない。京都開催8回分に絞ってデータを見ていく。
外枠は7枠【2-1-2-18】勝率8.7%、複勝率21.7%など決して不利ではないが、内枠は1枠【0-0-2-12】複勝率14.3%や2枠【0-1-1-13】複勝率13.3%といただけない。多頭数で内回り特有のタイトなポジション争いにおいて、内枠は押圧されて不利を受けやすい。スムーズに流れに乗れず後手に回ると挽回するのが難しいコースであり、ポジション争いは優位に進めたい。
とはいえ、その横の3枠は【3-0-1-12】勝率18.8%、複勝率25.0%と好成績。おそらく3枠がポジション争いのなかでもっとも動きやすいのではないか。
ローズSの価値
オークス馬がローズSを制したのは、2016年シンハライト以来9年ぶり。その間、オークス馬はローズSへの出走自体もなかった。このひと叩きがどう出るのか。大きなポイントになるのではないか。


前走クラス別成績をみると、前走GⅡは【1-4-5-57】勝率1.5%、複勝率14.9%と近年の傾向では目立たない。このうちローズSも【1-3-5-47】勝率1.8%、複勝率16.1%に留まる。
ただ、今年カムニャックが参戦した背景にはレース間隔もある。昨年まではローズSから本番まで中3週と短く、有力馬が参戦を見送っていた。今年は中4週になり、本番までの調整も変わる。カムニャックはローズSの立ち位置が変わった象徴になる可能性はある。
そう書きつつも、過去10年データではローズSの勝ち馬は【0-1-2-6】複勝率33.3%で勝利なし。シンハライトはローズS勝利後に引退した。だが、ローズSの走りをみても、カムニャックはこのデータを破壊する可能性を秘める。
データに話を戻すと、ローズSも2~5着組は【1-2-2-21】でテレサやセナスタイル、ビップデイジーの好走もあり得る。
今年のローズSは1000m通過56.8のハイペースで進み、ラストは11.7-11.4-11.9と耐久力を問う競馬になった。好位後ろから差したカムニャックはもちろん、その前にいたテレサも評価できる。
3着セナスタイルは馬群を縫うように差し込んでおり、能力全開とはいかなかった。末脚は最速を記録しており、レース運び次第では一発を秘める。
外を回ったビップデイジーもカムニャックには伸び負けたものの、叩かれて一変する可能性はある。器用さに課題は残るが、ここまでトップ戦線を走り続けた経験は侮れない。

最後に直行ローテ、前走オークス【6-1-3-16】勝率23.1%、複勝率38.5%は着順をみるとわかりやすい。オークス馬【4-0-1-1】勝率66.7%、複勝率83.3%など3着以内が好走条件。5着以下だと【0-0-0-13】なので、エンブロイダリーは分が悪い。
桜花賞馬でオークス5着以下かつ直行という例は秋華賞創設以来なし。前例がない以上、データを当てはめるのは気が引ける。父アドマイヤマーズはマイル寄りだが、母ロッテンマイヤーはビワハイジの一族であり、ブエナビスタやアドマイヤジャパン、アドマイヤオーラと中距離タイプばかり。母系の血は2000mでも問題ないと伝える。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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