【菊花賞回顧】エネルジコが最後の一冠を掴む ルメール騎手は史上初の“菊花賞3連覇”

勝木淳

2025年菊花賞、レース結果,ⒸSPAIA

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数々のハードルをクリアしたエネルジコ

クラシック最終戦の菊花賞はエネルジコが勝ち、GⅠ初制覇。2着エリキング、3着エキサイトバイオで決着した。

三冠完走はわずか2頭。皐月賞馬もダービー馬もいない菊花賞。1番人気の支持を受けたのがエネルジコだった。

春は後方から鋭く伸びて青葉賞を制覇。ダービーの有力候補に躍り出るも、体調が整わずに回避。そんな成長途上にある若駒に対し、新潟記念から本番というあくまで間隔を重視したローテを組み、菊花賞馬に導いた。とはいえ、初の右回りであり、再度の輸送とエリキングが自身の力を出し切るためのハードルはあった。

当日発表された馬体重は12kg減の456kg。実は1986年以降、昨年まで菊花賞で馬体重二桁減は【0-0-0-23】。未知なる長距離戦に挑戦するにあたり、普段通りの姿で出走する意味は大きい。

ただ、エネルジコは輸送や環境の変化にイレ込んだわけではなく、あくまで新潟記念で12kg増やした体を青葉賞時に戻しただけ。普段通りの姿といっていい。この辺の計算も見事にハマった。

不安材料をあげればキリがない1番人気だったが、結果は完勝。穴党はぐうの音も出なかった。


静の序盤、備える中盤

さらにいえば、レース内容も完璧に近い。ゲートをゆっくり出て、最初のアップダウンはほぼなにもせず、自然流。ライバルたちが下りで行きたがるなか、悠然と後方で序盤をクリアしていく。

最初の1000m通過は1:00.8。やはり経験なき長距離戦の前半は距離のわりに遅くならない。C.ルメール騎手は馬のリズムを尊重しつつ、ペースを整理していく。さすがは史上初の菊花賞3連覇ジョッキー。このコースの攻略法を熟知している。また、ルメール騎手の指示に逆らわず、リズムを刻むエネルジコも賢い。

そして、1コーナー手前からペースが一気に落ちる。中盤1000mは1:03.8。ここでエネルジコは馬群の外目に出ていき、武豊騎手のマイユニバースを追いかける形でじわっとポジションを上げる。

緩い区間で早めに位置をあげておくのも菊花賞の必勝パターン。2年前のドゥレッツァと同じ。ただ、末脚に懸けるエネルジコはそこまで行かず、最後の局面まで末脚を残すことも忘れない。


特徴は「しなやかさ」

最後の1000mはラップも紹介する。12.0-12.1-11.9-11.5-11.9の59.4。中盤で息を入れており、今年も厳しい末脚勝負になった。同時に上がり600mはすべて11秒台であり、これを後方から一気に差し切るのは容易ではない。

特に長距離戦ではスタミナに限りがある。ポジションの助けが必要だ。エネルジコは下り坂を利用して負荷をかけずにトップギアに入れ、直線で弾けた。序盤は無理せず、中盤で少しずつ位置を押し上げていったからこそ差しきれた。計算し尽くされた競馬といっていい。

ルメール騎手の見事なアシストもあったが、それもこれもエネルジコの底力があったからこそ。ドゥラメンテ産駒はこれで菊花賞3勝目となった。先輩2頭はタイトルホルダーとドゥレッツァ。どちらも先行押し切りを得意とする粘り型。対してエネルジコは末脚を温存して最後にいかす伸ばし型。キングカメハメハ系特有の筋肉の強さより、しなやかさが特徴だ。これはドゥラメンテの母系アドマイヤグルーヴやエアグルーヴに近い。

トニービンやサンデーサイレンスによって強調されるバネが原動力になっており、先輩2頭よりも中距離寄りに適性を感じる。ベストは2400m。体調面さえ問題なければ、ジャパンカップに参戦してほしい。


盲点だったエキサイトバイオ

2着エリキングは上記の通りのレース展開では後方一気はかなり難しい状況にあった。序盤は行きたがる素振りを見せ、後方で無理せず溜めるだけ溜める作戦をとらざるを得なかった。

展開がかみ合わないなか、よく2着まできた。やはり爆発力は魅力だ。思えばシーズン前半を骨折で棒に振り、皐月賞から立ち上げながらの調整で菊花賞2着までよくきた。まだまだ強くなる。

3着エキサイトバイオは13番人気。これだけ上位陣が抜けたメンバーなら、重賞ウイナーである同馬に対してふさわしい人気とはいえない。いわゆる人気の盲点というやつだ。

好位勢で唯一上位に残り、それも4コーナー先頭の積極策さえみせた。負けて強しとはまさにこのこと。母の母はレーゲンボーゲンで、ケガを負いながら天皇賞(春)を勝ったレインボーラインの一族。血統表の奥には道悪の鬼レインボーアンバーの名があり、稍重馬場も好走をあと押しした。


2025年菊花賞、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。

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