【富士S回顧】ガイアフォースが積極策で王者撃破 “善戦マン”がタイトル獲りへ好発進

勝木淳

2025年富士S、レース結果,ⒸSPAIA

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安田記念に酷似したレース展開

マイルCSのステップレースである富士ステークスはガイアフォースが勝ち、重賞2勝目。3年前のセントライト記念以来となる久々の勝利でもあった。2着はジャンタルマンタル、3着ソウルラッシュで決着した。

終わってみれば安田記念1~3着馬で決まり、格の違いを見せた結果になった。着順は安田記念2着ガイアフォースが勝ち、安田記念を勝ったジャンタルマンタルが2着と入れ替わる形になったが、これは斤量面が大きい。安田記念は58キロ同斤だったが、富士Sはジャンタルマンタル59に対し、ガイアフォース57。3年前に重賞を勝って以来勝ち星がないガイアフォースは極めて優位な状況にあった。

これは戦前からわかっていたことで、鋭い方はこの斤量を確認した時点で逆転シナリオを描けたのではないか。そんな嗅覚が羨ましい。

安田記念における1、2着の着差は1馬身半。2キロ差なら埋められる。また逆転につながった要因はレース展開にもある。

安田記念は前後半800m46.7-46.0でスローに近い平均ペースで流れ、ラストは11.2-11.3-11.8、34.3。上がり勝負に近く、好位にいたジャンタルマンタルをその背後にいたガイアフォースは逆転できなかった。これは展開を考えれば仕方ない。

一方、富士Sも逃げ馬が見当たらず、中距離主戦のグリューネグリーンが引っ張る形になり、前後半800m46.7-45.0のスローペースだった。後半600mは11.2-11.0-11.2、33.4。完全なる上がり勝負になり、残り600m時点の順位をひっくり返すのは困難に近い。
共通するのはどちらも後半が速い後傾ラップだったこと。同舞台で似たレース展開になれば、当然、求められる適性は近く、安田記念の着順がほぼそのままだったのは納得できる。


ガイアフォースは次も積極策で

ガイアフォースの勝因はやはり、遅い流れのなか、スタート直後に前の位置をとったこと。安田記念以上に逆転が難しいレース展開でジャンタルマンタルの前にいたのが大きい。

そこに斤量2キロ差が乗っかったため、最後の直線で差が詰まりそうで詰まらなかった。最近は差す競馬が目立っていたが、休み明けでフレッシュだったことと、横山武史騎手がテン乗りで先入観を持たずに騎乗した結果、先行策を取り戻せた。

ガイアフォースは今年6歳。イクイノックス、ドウデュースの世代で、この世代、非常にレベルが高い。さすがに年代別でみると、成績は下降してきたが、今年、JRA・平地障害での重賞10勝のうち、4勝が重賞初制覇。シンティレーション、カナテープ、インプレス、ホウオウルーレットが待望の重賞タイトルをつかみとった。活力を感じる世代でもある。

ガイアフォースも22年セントライト記念以来、2つ目のタイトルを奪取した。約3年間で、GⅠ・2着は2度。フェブラリーSと安田記念の東京芝ダート1600mGⅠでの記録だから価値は高い。残るはGⅠタイトルのみ。

意外にもマイルCSへの出走歴はなく、京都も2年前のマイラーズC2着だけ。とはいえ、東京と比べるとコース構造上、ペースが速くなりにくい京都外回りなら、今回の競馬が布石になる可能性は高い。引きつづき積極的な競馬で頂点を目指してほしい。


上々の滑り出しだった2、3着馬

2着ジャンタルマンタルは斤量もさることながら、大外枠で前に壁がつくれない3番手という難しいポジションにはまった点も敗因だろう。この枠からわざわざ内に入れて窮屈な思いをするよりはマシという作戦だったとみる。

とはいえ、久々の競馬で馬自身が少し行きたがっており、噛み合わない部分はあった。それでも2着に入ったのはさすがGⅠ馬。休み明けを使ったことで、次はまた違った反応をみせるのではないか。

3着ソウルラッシュはガイアフォースのひとつ上の7歳馬。相変わらず堅実に走ってくる。2着馬とは水を開けられた形だが、展開を考えると致し方なし。東京では【0-2-3-3】と勝ち星がなく、惜敗が目立つ。3着以下なしの京都と比べると、得意コースとはいえない。その分、京都なら、前年覇者のプライドにかけて変わり身をみせてくる。休み明けとしては上々の競馬だった。

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《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。

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