【スプリンターズS】最高値トップタイのナムラクレアが本命 穴はピューロマジック

山崎エリカ

2025年スプリンターズSのPP指数,ⒸSPAIA

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近年はイン有利の傾向

2018年以降のスプリンターズステークスは前半3F33秒0を切ることが多く、ハイペース化が顕著。さらに近年の秋の中山開催はコンクリートレベルの馬場でスタートし、このレースが行われる9日目でも内が荒れていないことから、イン有利に拍車が掛かっている。

昨年の勝ち馬ルガルもゲートこそ13番枠からだったが、しっかりと出して好位の最内3番手を立ち回り、2着トウシンマカオは2番枠を利して中団の最内を通っての好走。インを立ち回った2頭のワンツー決着だった。

昨年は二の脚の速さが異次元のピューロマジックが逃げ、前半3F32秒1の激流に持ち込んだことで3~4角では内を通らないと絶望的だった。ところが、そのピューロマジックはここへ来て折り合いがつくようになり、今回は陣営も「ハナは切らず、前に馬を置いて進めたい」とコメントしている。

となると、今年は大外16番枠に入ったウインカーネリアンの逃げが濃厚。同馬がハナを主張しなければ13番枠のジューンブレアが逃げ、ピューロマジックは2列目の最内が想定される。

いや、終わってみればピューロマジックがスピードの違いでハナだった、という可能性も十分ある。それでも昨年ほどペースは上がらないだろう。極端にペースが上がらなければ多少ロスを作ってもチャンスはあるが、イン有利は変わらないだろう。

能力値1~5位の紹介

2025年スプリンターズSのPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 トウシンマカオ】
重賞通算5勝の実績馬。2走前の京王杯スプリングカップ(GⅡ)では9番枠から五分のスタートを切り、軽く促して好位の外を追走。道中ではママコチャの後ろにスペースを置いて進めた。

3~4角でも好位の中目。ママコチャとのスペースを潰して外に誘導し、3列目で直線へ。序盤ですっと伸びて2列目付近に上がると、ラスト2Fで追われて一気に先頭。ラスト1Fで突き抜け、1馬身半差で完勝した。

この時はコンクリートレベルの馬場で、前後半3F33秒9-33秒2の平均ペース。上がりの速い決着だったが、鋭い脚で伸びてきた。

本馬は2023年のスワンステークス(GⅡ)で逃げて9着に敗れるなど、かつては逃げ先行から最後の直線で甘さを見せていたが、差しを覚えて成績が上昇。2走前に自己最高指数を記録している。

半兄ベステンダンクは逃げてこそのタイプでタフな馬場を得意としていたが、本馬の適性は真逆。不良馬場の2023年高松宮記念(GⅠ)で15着大敗、タフな馬場だった昨秋の香港スプリント(GⅠ)でも9着に敗れている一方、高速馬場だった昨秋のセントウルステークス(GⅡ)では1着、そしてスプリンターズSでも2着と健闘している。

前走のセントウルSは、2走前に自己最高指数を記録した後の休養明けの一戦かつ馬体重14kg減での出走。さらに阪神開幕週の内有利の馬場で14番枠では苦しいと見ていたが、中団の外からじわじわ伸びて3着を死守。本調子ではなかったと推測されるが、本馬が得意とするコンクリートレベルの馬場でハイペースになったことで格好はつけた。

前走時に馬体が減っていたことから、この中間はデビュー以来初の坂路追いのみと追い切りをセーブした様子。本番を前に強い追い切りができないのは減点材料だが、前走からさらに体を減らすよりはマシだ。本質的には芝1400mがベストだが、高速馬場の芝1200mで末脚を活かす形なら大崩れも考えにくい。

【能力値2位タイ サトノレーヴ】
今春の高松宮記念の勝ち馬。同レースでは10番枠からまずまずのスタートを切って押し進めたが、内の各馬が競ってくると控え、内目のスペースを拾いながら3角に入る。

3~4角では中団の中目で進路を作れず我慢。このため直線序盤で外への誘導が遅れたが、しぶとく伸びて2列目に上がる。ラスト1Fではグングン伸びて、外のナムラクレアを寄せ付けずに3/4馬身差で勝利した。

この時はややタフな馬場で、前後半3F33秒8-34秒1の緩みない流れ。ここでは追い出しが遅れたが、前崩れの展開を考えると致命的なものではなく、展開には恵まれている。

国内の芝1200mで【7-1-0-1】、海外でも【0-2-1-0】とこの距離で安定。唯一馬券圏外の7着に敗れたのが昨秋のスプリンターズSだが、この特は12番枠から出遅れ、内有利の馬場で中団外を追走とロスを作って敗退したもの。

本馬はタフな馬場はもちろん、超高速馬場でもこなせるオールラウンダー。大きな不安はない馬だが、昨年のようなタイムの速い決着だと、相手関係とレースの流れの中でロスをどこまで減らせるかが課題となる。

タイムの速い決着では出遅れが致命的になりやすいが、昨年のスプリンターズSは夏にピークを作ってサマースプリントシリーズのタイトルを獲りに行った後の一戦だったことも影響しているはず。五分のスタートを切り、ロスを減らせば減らすほど上位争いに加われる馬だけに、重い印を打ちたい。

【能力値2位タイ ママコチャ】
2023年の安土城ステークス(OP/京都芝1400m)で、GⅠでも通用する自己最高指数を記録した馬。ここでは12番枠からまずまずのスタートだったが、二の脚で楽に先行。内のプルパレイを行かせると、さらに内からコムストックロード、グルーヴィットが前を主張してきたので、控えて好位の外を追走した。

3~4角でもペースが上がらず、ブレーキ気味に3角で2頭分、4角で3頭分外から徐々に進出して直線へ。序盤で1馬身ほどあった先頭との差をグンと伸びて一気に先頭に立つと、ラスト1Fでは楽々と後続を突き放して3馬身差で圧勝した。

この時は超高速馬場で、前後半3F34秒4-33秒3のスローペース。馬場の内がやや荒れており、上手く外を通せていたが、最後の直線で一気に後続を突き放した内容は確かに強かった。

本馬はその勢いのまま、同年秋のスプリンターズSを優勝。今年も中山芝1200mのオーシャンステークス(GⅢ)を勝利し、高松宮記念でも3着。前走のセントウルSでも2着に善戦しており、大きな衰えも感じさせない。

ただし、本馬は鉄砲駆けするタイプで、前哨戦を回避するほどの体調不良明けかつ道悪でタフな馬場になった昨年の高松宮記念こそ8着と崩れたものの、昨秋も休養明けのセントウルSで2着と健闘した後、本番のスプリンターズSでは4着敗退。今春もオーシャンSを勝利し、本番の高松宮記念では3着に敗れている。

今秋のセントウルSは前哨戦らしからぬハイペースにもなっており、ここで評価を下げたいところではあったが、4番枠と内枠を引けたことは明確な加点材料だ。

【能力値4位 ルガル】
昨年1月のシルクロードステークス(GⅢ)で重賞初制覇を達成。同レースでは4番枠からトップスタートを決めてハナを主張。最終的には外のテイエムスパーダを行かせ、道中は離れた2番手で進めた。

3~4角でじわっとテイエムスパーダとの差を詰め、4角では持ったまま同馬に並びかけて半馬身差で直線へ。序盤で馬場の良い外に誘導してテイエムスパーダをかわし、1馬身半ほど前に出る。ラスト1Fでそのまま抜け出し、2着に3馬身差をつけて圧勝した。

この時は良馬場ながらタフな状態で、前後半3F33秒4-34秒3の平均ペース。最後の直線の内が荒れており、外差し馬場を利する形での勝利ではあったが、ここで記録した指数は自身トップタイのものだ。

そんな経緯から昨年のスプリンターズSでは穴馬に推し、見事1着。13番枠から積極的に先行して2列目の最内から最終的には3番手を追走。トウシンマカオの追撃をクビ差振り切っての戴冠だった。

この時は高速馬場で、前後半32秒1-34秒9の激流。後方有利の展開を、外枠から二の脚の速さでインを取り切り、正攻法の競馬で勝利したことは高評価できる。

その次走、香港スプリントは11着大敗。この敗戦は激流のスプリンターズSを休養明けで好走した反動によるものだが、そこから立て直されても本調子を取り戻せていない点に不安を感じる。ただし、再び間隔をとって立て直されていれば、一変する可能性もある。

【能力値5位 ジューンブレア】
この夏に地力を強化し、函館スプリントステークス(GⅢ)で2着、CBC賞(GⅢ)でも2着と健闘している。

2走前の函館スプリントSは1番枠から五分のスタートを切って促していたが、外の各馬が速かったので無理をさせずに好位の最内を追走。道中では前にしっかりスペースを作って進めた。

3角で3列目の最内、4角前で2頭の外に誘導して3番手で直線へ。序盤でじわじわ伸びて2列目に上がり、ラスト1Fで抜け出しを図ったが、最内から伸びたカピリナとの追い比べにハナ差で惜敗した。

この時は超高速馬場で、前半3F32秒5-34秒1のハイペース。カピリナは本馬の後ろで包まれ、本馬が4角もそのまま最内で進めていたら相手は直線で詰まっていた可能性も高く、運のない敗戦だったといえる。

また、前走・CBC賞はインビンシブルパパが逃げ切りを決めたように前有利の展開だったが、外からハナを主張した同馬に気合い負けするかのように、外の各馬を行かせて好位の最内に控えたことで、3~4角で包まれて仕掛けが遅れる形だった。

本馬は二の脚がそこまで速くなく、外からハナを主張されると控えようとするところがあるが、前走は控えたことで折り合いも欠いていた。直近の2走とももったいない競馬で2着に敗れており、能力の天井はもっと上にあると推測される。

今回も外にウインカーネリアンがいる点はカギだが、上手く好位の内が取れればチャンスはある。

本命は最高値トップタイのナムラクレア

ナムラクレアは2023年の高松宮記念で、今回出走するママコチャ(2023年安土城S)やトウシンマカオ(2025年京王杯SC)、ルガル(2024年シルクロードS)に並ぶトップタイの指数を記録している。

その高松宮記念では15番枠からまずまずのスタートを切り、ある程度促しながらも無理はせずに中団の外を追走。道中もペースが上がらない中でコントロールしながら進めた。

3角で馬群が凝縮して各馬が横に広がったが、仕掛けを我慢して4角出口で外に誘導。序盤ですっと伸び一気に2列目付近に上がると、ラスト1Fではファストフォースに迫ったが、ラスト1Fで甘くなって1馬身差で敗れた。

この時は超タフな不良馬場で、前後半3F35秒6-35秒9の緩みない流れ。後方有利の展開に恵まれての好走だった。

本馬は同年のスプリンターズSでも3着。ここでは1番枠で、ひとつ外のテイエムスパーダが前に行ってくれたことで上手く好位の最内を追走していたが、3~4角でまさかの外を選択。内を通った馬が1着、2着、4着の決着で、進路取り次第では勝っていた可能性も十分にある内容だった。

本馬はサトノレーヴ同様に超高速馬場もタフな馬場もこなせるオールラウンダーで、高松宮記念は2着3回、スプリンターズSでも3着2回とGⅠで善戦を続けている。

近年はテンにスブさを見せ始めており、現状では芝1400mがベストだろう。芝1200mで1分7秒台を切る決着だと課題もあるが、上述の通り今年のスプリンターズSはピューロマジックが控える競馬を示唆しており、昨年ほど速い流れにならない可能性が高い。

また、前走の函館スプリントSでは7番枠から出遅れ、後方の最内で進めていたが、3角では故障馬が下がってきた影響でブレーキをかける場面や、直線でも詰まる場面があり8着と能力を出し切っていない。C.ルメール騎手が引き続き手綱を取る点も好ましく、ここで本領発揮に期待したい。

折り合うことを覚えたピューロマジックが穴

ピューロマジックは3歳時に北九州記念(GⅢ)を優勝した実績を持つ。

同レースでは12番枠からまずまずのスタートだったが、スピードの違いで内に切れ込み、同型馬を制するとそのままペースを緩めずに3角へ突入する。3~4角でも最内を通って2馬身差を維持。直線序盤でヨシノイースターに1馬身3/4差まで詰められ、ラスト1Fでは同馬にさらに詰め寄られたが、踏ん張りとおして半馬身差で勝利した。

北九州記念当日は強風が吹くタフな馬場で逃げ切るのは楽ではなかったが、前後半3F32秒3-35秒6というかなりのハイペースで逃げ切り勝ち。斤量53kgと恵まれた面はあったが、初速のスピードにものを言わせての好指数勝ちで新星誕生を予感させた。

しかし、二の脚が異次元に速い反面、折り合い難という弱点があり、昨年のスプリンターズSや今年のシルクロードSではオーバーペースの逃げを打って失速している。

それでも、前走のアイビスサマーダッシュ(GⅢ)では不利な6番枠から前に馬を置いて進め、伸び伸びと走って勝利。前走を見る限り、折り合い面に大きな不安はない。

今回は1番枠。この枠なら逃げる可能性もあるが、ぶっ飛ばしすぎなければ通用するだろう。逃げるにせよ、2列目の最内に控えるにせよ、マイペースの競馬で上位争いを期待する。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)トウシンマカオの前走指数「-21」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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