【サウジアラビアRC回顧】際立ったエコロアルバのスケールの大きさ 人気のモーリス産駒2頭の敗因は?

勝木淳

2025年サウジアラビアRC、レース結果,ⒸSPAIA

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豪快な末脚を繰り出したエコロアルバ

暮れのGⅠにつながる重要な一戦・サウジアラビアロイヤルカップはエコロアルバが大外一気を決め、重賞初制覇。2着ガリレア、3着ゾロアストロで決着した。

スタートで上位人気3頭が後手を踏み、薄暗い東京競馬場にどよめきが走る。逃げたのは内枠の最低人気マーゴットブロー。ユウファラオは一歩遅れて2番手につけ、ニシノエースサマが少し行きたがりながら3番手へ。人気薄がレースを支配するという予想外の流れで進む。

200m通過後は11.6-11.7-11.9-12.2と緩やかにペースを落としていき、後ろになったゾロアストロ、チュウワカーネギーは労せず馬群にとりつく形となり助かった。

そんななか、少し離れた最後尾にいたのが勝ったエコロアルバだ。鞍上は道中ずっと促しており、ちょっとついていけない感すらあった。にもかかわらず、直線で大外一気。エンジンがかかってからの末脚は明らかに一枚上だった。

追走に苦労したのは、ついていけないというより、気を抜いているかのようにも映る。サウジアラビアRCは素質馬が同世代で頭ひとつ抜けたセンスを発揮する重賞だが、エコロアルバは荒削りで決してセンスを全面に出した競馬とはいえなかった。

そんな状態であの末脚を繰り出したのは、かえって底知れない力をアピールする結果になった。レース全体の上がり600mは11.5-11.3-11.2の34.0。2歳馬が最後尾から大外強襲で1馬身半差をつけられるようなレースラップではない。ただ派手な勝ち方ではなく、自身の上がり600mも33.2と、内容の濃いスケール感ある勝利だった。


名牝スターロツチの血

父モズアスコットは2着ガリレアも同じで、結果としてワンツー。欧州チャンピオン・ガリレオの傑作フランケルを父にもつ同馬は2018年に連闘で安田記念を勝ち、その後ダートのフェブラリーステークスも勝った異彩を放つ二刀流だ。

GⅠ勝利はどちらも東京マイルであり、同じ条件である今回のワンツーも納得。持続力を問う流れでの強さは今後、たとえGⅠであっても頼もしい。

さらにエコロアルバは母系が味わい深い。母スターアクトレスの系譜をたどると、パワフルレデイの名がある。オールドファンならお馴染みウイニングチケット、ロイヤルタッチの母だ。

さらに遡ると、スターロツチに行き着く。現役時代はオークスと有馬記念を同一年に制し、史上初の3歳牝馬の有馬記念優勝馬になった。ちなみに、64年後の2024年、レガレイラが史上2頭目につくことになる。

スターロツチの子孫には前出ウイニングチケットのほかにハードバージ、サクラユタカオー、サクラスターオーがおり、日本を代表する牝系になった。そのスターロツチの有馬記念から65年後、子孫が重賞を勝った。まるで大河絵巻のようなスケールであり、これぞ血がなせるロマンでもある。


モーリス産駒の敗因

2着ガリレアは緩い流れを好位で受けて、展開を味方につけての好走だった。とはいえ、ラストも加速ラップを踏ん張り、3着ゾロアストロは退けた。こちらは父モズアスコットらしい持続力が武器であり、今後も今回のように好位でポジション利と粘りをいかせば、2勝目は近いだろう。

3着ゾロアストロは直線半ばの加速ラップで一旦、置かれそうになりながら、ゴール前で再び伸びて3着まできた。まだまだ弱い面はあり、素質全開とはいかなかったが、ゴール直前の末脚をみる限り、器は感じる。マイルは若干、距離が長いという可能性も頭に入れておきたい。また、エンジンのかかりの遅さはいかにもモーリス産駒っぽさを感じる。晩成血統でもあり、安易に見限らず、長い目で見守るべきだろう。

3番人気チュウワカーネギーは5着。一旦はこちらが差し切るのではないかという脚色をみせながら、ラスト200m11.2で伸びを欠いた。敗因は距離というより、11.2という速いラップへの対応力ではないか。奇しくも父はゾロアストロと同じモーリス。瞬時の加速での脆さは産駒の特徴であり、できれば、前で流れに乗りたい。


2025年サウジアラビアRC、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。

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