【神戸新聞杯】逃げるサイレンススズカをマチカネフクキタルが豪快に差し切る 後のGⅠ馬3頭が激突した1997年をプレイバック
緒方きしん

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後のGⅠ馬3頭の競演
今週は阪神競馬場で神戸新聞杯が開催される。1953年から開催される伝統の一戦で、過去にはディープインパクトやオルフェーヴル、コントレイルといった三冠馬たちも制しているレース。今回はそんな中から1997年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。
1997年のクラシック最終戦、菊花賞は皐月賞、ダービーを連勝した二冠馬サニーブライアンが骨折により戦線離脱、そのため混戦模様となっていた。
上がり馬の登場か、ダービー敗北組の逆襲か。この年は多くの素質馬が集まったことで、神戸新聞杯の結果に注目が集まっていた。
レースはダービー組で、後にGⅠ馬になる3頭が人気を集めていた。1番人気は快速馬サイレンススズカ。同馬は早くから素質が評価されており、春はスタート前にゲートを潜ってしまった弥生賞、幼さが出てしまったダービーは大きく敗れたものの、プリンシパルSを含む3勝を挙げていた。素質の高さと危うさを持ち合わせていたが、ファンの評価はトップだった。
2番人気は7月に条件戦を使ったマチカネフクキタル。プリンシパルSではサイレンススズカの2着に敗れていたが、ダービーでは7着と同馬に先着していた。とは言え悔しい敗北であることには変わらず、夏を経て逆襲を誓う一頭。前走は末脚に磨きをかける走りで、デビュー8戦目にして初めて上がり最速を記録していた。
続く3番人気はシルクジャスティス。初勝利はデビュー7戦目のダート戦。芝に転向してからは末脚を武器に才能が開花。連勝で挑んだダービーでは上がり最速で2着と好走し、菊花賞という大目標に向けて最有力の一頭だった。
3頭が単勝オッズ1桁台で、4番人気のナムラキントウンは単勝19.7倍と大きく離されていた。
勝負が決したと思えた瞬間、弾丸のような末脚が炸裂
サイレンススズカが逃げ切るか、マチカネフクキタル、シルクジャスティスが差し切るか。注目のレースは小雨が降り注ぐなか、ゲートが開いた。
ややバラついたスタート。マチカネフクキタルは悪くない出足だったが、鞍上の南井騎手は手綱を抑え、後方内でじっと我慢する構えだ。
一方、サイレンススズカはややよれたスタートとなったが、一頭だけ走法が異なって見えるほど全身を使い、あっという間にハナを奪った。
明らかなスピードの違いからレースを引っ張るサイレンススズカ。鞍上の上村騎手は行かせ過ぎないように気を配るが、サイレンススズカはやや苛立ちを垣間見せる。
レースは徐々に縦長の展開となり、サイレンススズカは2番手に3馬身、3番手にはさらに3馬身ほどリードをつける。その大きく伸びた馬群の後方で、マチカネフクキタルは内でじっくりと脚を溜めていた。
勢いよくサイレンススズカが進む。3コーナー付近では2番手を走る馬は3番手以下の馬群に吸収され、単騎で大きく逃げる形となっていた。前が止まるのかどうか、観衆がざわめく。
そんな中で仕掛けたのは、最後方にいたシルクジャスティスと藤田伸二騎手。外から一気に捲っていき、好位に取り付く。対してマチカネフクキタルは動く気配を見せず、最後方に位置していた。
切れ味鋭いコーナリングを見せたサイレンススズカは、直線に入っても余裕の手応えで2番手以下を突き放す。後ろの馬たちとの手応えの差は歴然で、みるみる差を広げていった。
しかし、「2番手以下のひと塊の集団」から一頭、猛然と追い込む馬がいた。それが直線入口でも後方にいたマチカネフクキタルだった。
マチカネフクキタルは一頭だけ早送りされているかのような脚の回転でグングン加速。先頭のサイレンススズカは懸命に逃げるも、最後は一杯となり内へモタれた。
そんなサイレンススズカ目掛けて一直線に伸び続けるマチカネフクキタルは、最後はいとも簡単にサイレンススズカを交わし去った。
結果はマチカネフクキタルが1馬身1/4差で勝利。驚くべきは上がり3Fタイムだ。2着のサイレンススズカは上がり3F3位タイの36.5秒。上がり3F2位が36.4秒だった。
勝ったマチカネフクキタルは上がり3F最速の35.2秒を記録。これは上がり3F2位より1.2秒も速い驚愕の記録。これほどの脚を使われては、さすがのサイレンススズカも差し切られても仕方がなかった。
レースは3番人気シルクジャスティスが8着に敗れたものの、結果を見れば2番人気→1番人気での決着。馬連は3.6倍と超平穏決着となった。しかしそれ以上にインパクトのある一戦だったことは間違いない。
サイレンススズカの逃げ切りが決まったと思った瞬間、弾丸のように伸びてきたマチカネフクキタルに衝撃を受けたファンも多かっただろう。
ダービーから巻き返し狙うショウヘイらが参戦
マチカネフクキタルは次走の京都新聞杯も危なげなく勝利すると、3番人気で挑んだ菊花賞も上がり最速の脚で制した。その後は勝ち星を挙げることは出来なかったが、宝塚記念5着など競馬界を盛り上げ続けた。
8着に敗れたシルクジャスティスは次走の京都大賞典を勝利。その後は今では考えられない菊花賞、ジャパンカップ連続5着の後に有馬記念を制覇した。
2着のサイレンススズカは、翌年に武豊騎手とのコンビでファンの記憶に残る活躍を見せた。また天皇賞(秋)での悲劇は多くの競馬ファンの知るところだろう。
唯一のGⅠ制覇となった宝塚記念で騎乗していたのが、神戸新聞杯でマチカネフクキタルに騎乗していた南井騎手だったことも印象深い。この年の神戸新聞杯は、後にGⅠ馬3頭が誕生する才能溢れる3歳馬たちが出走していた。
今年はダービー3着のショウヘイ、5着のエリキング、8着ジョバンニの3頭がここから始動する。3頭とも才能豊かであり、後にGⅠを勝っても不思議はない。
これから先の名勝負を期待するとともに、全馬が無事に現役生活を全うできることを祈りつつ、応援したい。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、ドリームジャーニー、ダイワスカーレット、ドウデュース。
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