【チャレンジC回顧】マジックマンに導かれオールナットが重賞初制覇 ステイゴールド一族の成長力に期待
勝木淳

ⒸSPAIA
何度も見返したくなるパトロールビデオ
今年から秋のハンデ戦に生まれ変わったチャレンジカップはオールナットが勝ち、重賞初制覇。2着グランヴィノス、3着マイネルクリソーラで決着した。今週から短期免許を取得し、3週間日本で騎乗するジョアン・モレイラ騎手の手綱が冴えわたった。
オールナットは昨年12月に3勝クラスを突破してから、オープン以上で9着、3着、6着と少し足りない状況が続いていた。先行しても差しても勝ち負けに加われない。そんな近況が嘘かのような鮮やかさに、“マジックマン”のニックネームがハマりすぎた。パトロールビデオを眺めながらご飯をおかわりできる。モレイラ騎手は間違いなくそんな騎手だ。
序盤は前を一切意識せず、内ラチを目がけ真横に走っていく。1コーナーでは緑帽子にもかかわらず内ラチ沿いにいた。モレイラ騎手の意図は明確だ。開幕直後の絶好の馬場状態で行われる高速レースとなれば、外を回った時点で勝ちから遠ざかる。勝つなら、ラチ沿いしかない。
とはいえ、前を意識しなかった分、隊列としては中団の後ろであり、前には馬がびっしり。どこかで外を意識してもおかしくないなか、直線まで外に動かさなかった。この肝の据わりようはちょっと信じがたいものがある。
マイネルクリソーラの外に持ち出し、内に進路ができると、同馬を内に押し込みながら抜ける。手応えに余裕があるマイネルクリソーラをパスする挙動にも驚かされる。
ステイゴールド一族の血
ひたすらモレイラ騎手の手腕ばかりを追いかけてしまったが、レース全体も振り返りたい。
1000m通過58.4は馬場を踏まえると平均ペースより少し速いぐらい。ただ、これもホウオウプロサンゲとショウナンマグマが雁行して後ろを引き離し気味に入っての記録。競馬としては2着グランヴィノス、3着マイネルクリソーラがいた離れた2番手集団の前のものだった。
オールナットに展開利があったとは思えず、馬の実力もまた重賞制覇の原動力といえる。母キューティゴールドなので、姉にはジャパンカップを勝ったショウナンパンドラがいる良血。姉もちょっと遅咲きの感があり、その全弟セントオブゴールドをみても、成長スピードはゆっくりだ。
加えて父サトノダイヤモンドも3歳秋に3連勝でGⅠを2勝と本格化した。産駒もじわじわと強くなるタイプが多く、イメージとしてはシンリョクカに近い。オールナットも3歳秋に連勝するなど似た成長曲線を描いており、ようやく噛み合ってきた。
次走はモレイラ騎手から乗り替わる公算が高く、同じ競馬を再現できるとは限らないが、持ち前の成長力でもう一つ上を目指してほしい。なにせ母キューティゴールドの母はゴールデンサッシュであり、ステイゴールドの一族でもある。母系に流れるカリスマ性の血が開花すれば、GⅢレベルでは終わらない。
完璧だったグランヴィノス
2着グランヴィノスは4、5番手で流れに乗り、とりわけ先行馬群と中団の間というストレスが少ないポジションに入るなど、完璧に近いレース運びだった。これで2着に負けたのは相手が悪かったとしかいえない。
こちらも母ハルーワスウィートの超良血であり、オールナット同様、成長曲線は緩やか。さらに脚部不安で1年を超える休養もあり、キャリア的にはまだまだこれから。戦歴通り、外回りでの前進を期待したい。
3着マイネルクリソーラは近況少し長めの距離で結果を残してきたが、2000m、それも内回りで結果を出したのは大きい。高速馬場の少し速い流れであっても好位確保と、クリストフ・ルメール騎手も申し分ない運びだった。
勝負所ではオールナットに内に押し込められ、厳しい状況になったが、それでも盛り返して3着まできた。最後まで勝負を捨てない姿勢に感心した。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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