【スプリンターズS回顧】ウインカーネリアンと三浦皇成騎手が悲願のタイトル 武豊騎手の“支配”を利用した好騎乗

勝木淳

2025年スプリンターズS、レース結果,ⒸSPAIA

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内枠先行優勢の馬場

秋の短距離王決定戦スプリンターズSは11番人気ウインカーネリアンが勝ち、三浦皇成騎手とともにGⅠ初制覇。2着ジューンブレア、3着ナムラクレアで決着した。勝ち時計1:06.9。わずか67秒に満たないレースだったが、味わいと奥深さを感じる競馬だった。

まず設定から振り返ると、秋開催最終週の中山は芝のクッション値が10を超え、土曜日から内枠、先行型天国のレースが続いていた。スプリンターズSはサトノレーヴ、ナムラクレア、ママコチャと上位人気が内枠に入った。対して、先行意識が強いジューンブレア、ウインカーネリアンは外枠に入り、内の実績馬が優勢とみられた。

一方で、昨年のスプリンターズSで前半600m32.1を刻んだピューロマジックは1番枠を引いたものの、事前のコメントでは逃げずに控える競馬を示唆していた。アイビスSDでも控え、脚質転換中に逃げるとは思えない。ペアポルックスも控える可能性が高く、内枠先行優位であっても、逃げたくない内枠勢という図式があった。


機先を制したジューンブレア

この設定を読み、逆手にとったのが武豊騎手のジューンブレア。スタート直後にすぐさま控える形をとった内枠勢をみながら、自然流でハナを奪っていった。外からジューンブレアに被せられた内枠勢はそこでわずかにブレーキを踏む。スプリントGⅠではブレーキをかけると難しくなる。

ジューンブレアの動きを利用したのが、勝ったウインカーネリアン。枠の並びが絶妙で、ジューンブレアに被されず、外から併せる形で隊列に入っていけた。ハナも考えたはずだが、瞬時にジューンブレアを利用しにいった判断が最高の結果を生んだ。

武豊騎手の先導ではハイペースになるはずもない。前半600m33.7は1990年のGⅠ昇格以降では、スプリンターズSで3番目に遅い。2015年34.1(勝ち馬ストレイトガール)、17年33.9(勝ち馬レッドファルクス)に次ぐ遅さ。

一方、後半600mは11.2-10.6-11.4、33.2と速い。レース上がり33.2は同期間で最速。レッドファルクスが差し切った17年ですら33.7であり、スプリンターズSとしてはスローペースの部類であっても、上がりの速さがレースレベルを引き上げた。

恵まれた面があるとはいえ、スローを1:06.9で勝ち切ったウインカーネリアンはスプリント王にふさわしい走りだった。


格別だったウインカーネリアンと三浦皇成騎手の勝利

それにしてもウインカーネリアンと三浦皇成騎手の勝利は格別だ。コンビではこれで通算【9-4-1-10】。24戦も苦楽を共にしてきた。

3歳春クラシック後は条件戦から再出発し、グランアレグリアが衝撃の末脚を披露したスプリンターズS当日の茨城新聞杯の勝ち馬でもある。その後、4歳4月から5歳3月までの長期休養を経て、マイルで実績を積み、ドバイやアメリカにも遠征するなど三浦皇成騎手とずっとコンビを組み続けた。

本格的なスプリント転向は昨秋の京阪杯から。年を重ね、距離を縮めながらも、堅実に走る。59キロ、59.5キロと重い斤量を課されてもめげない。常に先行し、全力を尽くす姿は心を打つ。その人馬がGⅠを獲った。その事実こそが尊い。

三浦皇成騎手はJRAのGⅠ出場127戦目、ウインカーネリアンは8歳33戦目にして頂点をつかんだ。もう馬券が外れようが関係ない。心から拍手を送りたい。幸福感あふれるGⅠだった。

もっともハマったローテだったナムラクレア

2着ジューンブレアは武豊騎手のヘッドワークが冴えわたった。とにかく序盤で消極的な姿勢をとる内枠勢に対し、外からハナを奪うというカウンターを浴びせ、マイペースに落とし、レースを完全に支配した。

外にいたウインカーネリアンにその支配を利用されてはしまったものの、自身も見せ場たっぷり。このメンバーでハナを奪えるほどのダッシュ力はこの先のレースプランを立てやすくなったのではないか。自在性もあり、重賞タイトルは時間の問題だろう。

3着ナムラクレアは序盤で位置をとれない現状を踏まえつつ、動ける態勢をつくりながら追走できた。さすがにこの展開では3着が精一杯だったが、力は出し尽くした。

この馬の場合、GⅠ前哨戦でかなり走りすぎる傾向があり、ローテーションが難しい。今回はあえて3カ月半ひらく函館SSから本番に臨んだ。ここ3年でもっともハマったローテだったのではないか。それだけに3着という事実は重い。

JRAの同一GⅠ・3年連続3着はナイスネイチャの有馬記念、ナリタトップロードの天皇賞(春)に続く3頭目。陣営にとって決してうれしい記録ではないが、必ずや記録とともにファンの心に残っていくに違いない。

2025年スプリンターズS、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。

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