【紫苑S回顧】西塚洸二騎手のペースコントロール冴える ケリフレッドアスクが秋華賞切符つかむ逃走劇

勝木淳

2025年紫苑Sレース回顧,ⒸSPAIA

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絶妙なペースで逃げたケリフレッドアスク

秋華賞トライアル紫苑Sはケリフレッドアスクが逃げ切り、重賞初制覇。2着ジョスラン、3着ダノンフェアレディと入り、この3頭が秋華賞の優先出走権を獲得した。

秋の中山は今年も開幕週らしい馬場状態でレースが進んだ。芝では3勝クラス芝1200mで1:07.0が記録され、高速決着が目立った。そんな馬場を踏まえれば、紫苑Sの1:59.1は物足りなくみえる。過去2年が1:58.0(2023年)、1:56.6(2024年)と派手だった分、余計にそう感じる。だが、時計が速くなかったのは理由がある。

逃げ切ったケリフレッドアスクはオークスに出走し、2番手から8着に粘っていた。その後、休み明けは中京芝1600mに出走し、あえて短めの距離で先行させた。

今回はスタート直後、12.1-10.7-11.9の3F34.7と推移したが、先手を奪えたのは前走でマイル戦を使った成果だろう。外から同じくオークスで先行したサヴォンリンナが来ても、動じずにハナをとる。その後は12.6-12.8と進み、1000m通過は1:00.1と速くない。

だが、ポイントは3コーナー手前の残り1000mから800mの13.1にある。向正面でペースを落としながら進み、その最終盤で13.1と十分すぎるほど息が入っていた。ここまで遅ければまくられる危険も孕むが、幸い、そこまで厳しくマークされなかった。

もっとも、残り800m地点手前は、後続もタイミングとしては早く、動きにくい。サヴォンリンナが差を詰めにいくと、そこから11.9-11.7と一気にギアを入れる。乗じて仕掛けた組はかなり速い脚を繰り出さないと、ケリフレッドアスクとの差は詰められない。ここからラスト2Fは11.1-11.2、上がり3F34.0でまとめられては、ケリフレッドアスクの前に出るのは難しい。

向正面のペースダウンと3コーナーでのギアチェンジ、そして4コーナーからの加速と、文句なし。この勝利が重賞初制覇となった西塚洸二騎手は見事なペースコントロールだった。

同時に勝ち時計が速くなかったのも、中盤の12.6-12.8-13.1の影響が強い。単に時計が遅く、レベルが低かったわけではない。事実、ケリフレッドアスクは中山の直線を11秒台前半で駆けており、マイペースを守ったときの決め手は全体時計以上に価値がある。そしておそらく先手を奪わなくても競馬を組み立てられる。

母ディープインアスクといえば、父ロードカナロアのファンタジスト、ボンボヤージ、アスクワンタイムが有名。3頭は短距離重賞の勝ち馬だが、本馬は父が同じキングカメハメハ系でも中距離志向のドゥラメンテになり、その特徴があらわれた。ディープインアスクは父系のよさを伝えるようだ。それにしても、これで重賞ウイナーは4頭目。優秀な繁殖牝馬だ。

世代屈指の好素材ダノンフェアレディ

逃げたケリフレッドアスクに完璧な立ち回りをされた結果、差し馬勢は不発に終わり、2着は中団の前にいたジョスランが飛び込んだ。こちらは母ケイティーズファーストなので、エフフォーリア、ペリファーニアの下。父エピファネイアはエフフォーリアと同じで、中山の脚力勝負に強いのは血統の影響もある。

休み明けと暑さのため、発汗が目立ち、かなりイライラしていたようにみえたが、それでも勝ち馬にクビ差まで迫ったのは評価していい。まだキャリア4戦。伸びしろに期待したいところだ。

3着ダノンフェアレディは開幕週の馬場を味方につけた好位から勝負所で内を狙うレース運びが当たった。外を回らなかったことで秋華賞の出走権を獲得できた。その反面、ケリフレッドアスクの真後ろで進路がクリアにならず、その外に出すまでに時間を要してしまった。

元々は世代最初の新馬戦を勝った好素材。当時の勝ち時計は内回り1600mで1:33.8。これは京都内回り芝1600m・2歳新馬の最速記録でもある。靭帯を痛め、クラシック出走は叶わなかったが、秋華賞にはたどり着いた。世代最上位の力を取り戻せば、あるいは一発もあるのではないか。

2025年紫苑Sレース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。

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