【神戸新聞杯回顧】エリキングが究極の瞬発力勝負を制す ショウヘイは課題露呈も示した逆転の可能性
勝木淳

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極上の切れ味だったエリキング
菊花賞トライアル神戸新聞杯はエリキングが勝ち、2着ショウヘイ、3着ジョバンニと実績上位馬で決着した。
クラシック最終戦を強く意識する神戸新聞杯は滅多にレースが流れない。阪神外回りという舞台も相まって、必ずといっていいほどスローペースになる。いかにレース終盤まで我慢できるか。3000mを乗り越えるために、“折り合い”は最重要課題といっていい。
今年も横山典弘騎手のボンドロアが先手をとり、2番手が武豊騎手のアルマデオロとベテランがレースを引っ張ったことでかなりのスローペースに。4ハロン目に13.0、6~7ハロン目も13.0-13.1と13秒台が3回もあった。1000m通過が1:02.6で1200m通過は1:15.6。本番よりも遅い可能性すらある。実際、昨年の菊花賞は1000m通過1:02.0で、1200m通過は1:13.7だった。
この遅い流れで末脚を溜められるか。ここが勝負のポイント。勝ったエリキングは中団の後ろに構え、きっちり折り合ってレースを進めた。2歳時は幼さが残る内容ながら世代トップを走った実績馬であり、ダービーでも上がり最速で5着まで差し込んだ。末脚最上位が折り合いながら脚を溜めた。
とはいえ、ここまでスローになれば前にいるライバルたちも簡単には止まらない。ラスト800mは11.9-11.2-10.7-11.2の45.0で、600mは33.1。差し切るのは容易ではなく、エリキングの上がり600m32.3はそのスケール感を示すのに十分な記録だ。
神戸新聞杯が現在のコースになってから、上がり32.3を繰り出したのは2019年1着サートゥルナーリアと3着ワールドプレミアしかいない。エリキングの場合は外からねじ伏せており、小細工は一切なし。ひと夏の成長がうかがえる。
母ヤングスターとその2歳下ファンスターはどちらも豪州GⅠ馬であり、母系には多くの豪州GⅠ馬の名前が並ぶ名牝系。母系をたどるとユーザーフレンドリーの名がある。イギリスとアイルランドのオークスを制し、秋にはセントレジャーも勝利した。同年秋はジャパンカップに出走。1番人気に推されたが、トウカイテイオーの6着に敗れている。それでも翌年はサンクルー大賞を勝ち、凱旋門賞でも2着と活躍を見せた。
エリキングはユーザーフレンドリーのひ孫にあたる。母系のスタミナと父キズナの瞬発力は菊花賞でも大きな武器となるだろう。中内田充正厩舎と川田将雅騎手が教えてきたことが実りつつある。残るは結果だけ。骨折を経験している馬だけに、無事に菊花賞のゲートにたどり着いてほしい。
ショウヘイは本番で逆転の可能性も
上記の通り超スローになったことで、課題を露呈したのが2着ショウヘイだ。
道中は3番手を進み、かなり行きたがっていた。折り合いに苦労した前半から中盤を考えれば、最後の競り合いで2着を死守したのはダービー最先着馬の力といえる。あとはその折り合い難が休み明けによるものなのかどうか。おそらくここが菊花賞に向けたポイントだろう。一過性なのか、それとも本番までに克服してくるのか。
また、春の戦歴をみると、勝った京都新聞杯は番手から上がり600m33.8。3着に終わったダービーも上がりは34.3と究極の瞬発力勝負では分が悪く、神戸新聞杯はここを突かれた形になった。菊花賞はどんな展開になるだろうか。
菊花賞直近2回のレース上がりは34.9、35.9。勝ち馬はそれぞれ34.6、35.6と速くない。未知なる距離で競う菊花賞は、たとえスローであっても上がりが速くならないことで有名だ。今回はエリキングが切れすぎたという解釈も成立する。ポジションの優位性を味方につけられる舞台であるなら、ショウヘイの逆転の目は十分ある。
3着ジョバンニは若葉ステークスまでこの世代の実力を測る基準のような役割を担ってきたが、皐月賞4着、ダービー8着、そして神戸新聞杯3着と、少し上位との力差が広がりつつある印象だ。
きょうだいのマテンロウアレス、セキトバイーストはしぶとさを身上しており、菊花賞ではそこを引き出すようなレース展開に持ち込みたいところ。今回の積極的な運びでリズムを取り戻したのではないか。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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