【紫苑S】ディアドラが大外強襲で激戦を制す 世界へ羽ばたいた名牝が重賞初V、2017年をプレイバック

緒方きしん

プレイバック 2017年 紫苑ステークス,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

世界に羽ばたいた異例の牝馬、ディアドラ

今週末は紫苑Sが開催される。過去にはレディパステル(オープン特別時代)やファインルージュ、スタニングローズらが制し、秋華賞へ弾みをつけた前哨戦。ここでは2017年のレースをピックアップし、当時を振り返っていく。

2017年の3歳牝馬戦線は混戦模様。特にオークス組は、勝ち馬ソウルスターリング、2着モズカッチャン、3着アドマイヤミヤビ、4着ディアドラ、5着リスグラシューと、掲示板内は才能豊かな実力馬ばかり。秋に向けて、夏の過ごし方が問われる状況だった。

紫苑Sで1番人気となったのはディアドラ。桜花賞でも6着に善戦していたが、3歳春時点では重賞での連対歴なし。賞金加算のため、桜花賞とオークスの間にも条件戦に出走していたほどである。

さらに、夏にも札幌で一戦を挟んで、紫苑Sへと臨んでいた。すでに12戦を消化していた過密スケジュールは不安要素であったが、オークスで上がり最速タイを記録した末脚は魅力で、単勝2.5倍の支持を集めていた。

2番人気のルヴォワールは、紫苑Sと同じ中山芝2000mで連勝していた2戦2勝馬。約5か月ぶりの実戦ではあったが、素質やコース適性を評価されて人気を集め、臨戦過程も含めディアドラとは対照的な存在だった。同様に、4番人気のポールヴァンドルもクラシック未出走組。重賞も初挑戦だったが、キャリア8戦で掲示板を外したことのない安定感を持っていた。

そのほか、ライジングリーズン、カリビアンゴールド、ホウオウパフュームといったクラシック経験済みの馬たちも顔をそろえ、フルゲート18頭立てでの開催となった。

ゴール前の大激戦を制して、いざ秋華賞へ

ゲートが開くと、石橋脩騎手に促されミッシングリンクが先頭を奪う。8枠に入ったディアドラはやや後方で外を回すポジションをとる。あまりスピードには乗れなかったが、鞍上の岩田康誠騎手に迷いは見えない。同馬の内にポールヴァンドル、ルヴォワールがつけ、さらに後方にホウオウパフュームが控えるなど、上位人気馬たちは後ろからレースを進めた。

隊列はやや長め。向正面ではポジション争いや入れ替えも落ち着き、ゆったりとしたペースで流れる。そんななか、最初に動いたのはシンボリジュネスと木幡巧也騎手。後方14番手から外を回して先頭列に並びかける。

ひと呼吸おいて3コーナーでは各馬がギアを上げ始め、4コーナーでは馬群が凝縮して横に広がる。ディアドラと岩田騎手は、大外から力一杯ポジションを押し上げていた。

直線に入ると、好位で脚を溜めていたカリビアンゴールドの鞍上・田中勝春騎手が狙い澄ましたかのようなタイミングで仕掛け、先頭へ躍り出る。一方、4コーナーを10番手以下で通過したディアドラとポールヴァンドルも、外から併せ馬の形で襲い掛かる。

ゴール前は激しい争いとなった。ディアドラやポールヴァンドルが間に合うのか。カリビアンゴールドが粘るのか。どの馬も脚色は悪くない。岩田騎手の激しいアクションにディアドラが応え、カリビアンゴールドに並びかけたところがゴールだった。

ハナ差の激戦を制したのは、ディアドラ。これでもかという勝負根性が他2頭を上回った。ただし、惜しくも敗れた2着カリビアンゴールド、さらにハナ差の3着ポールヴァンドルも好内容で、重賞昇格2年目となる紫苑Sは非常にハイレベルな攻防が繰り広げられる一戦であった。

配当面では、1番人気のディアドラを除くと、オッズが割れていたこともあり、2~3番人気が馬券外にしてはやや低めの結果。それでも6番人気カリビアンゴールド、4番人気ポールヴァンドルのワイドは11.7倍がつき、三連単は118.7倍と万馬券となっている。なお、4着には13番人気ブラックオニキスが食い込んでおり、同馬が3着であれば特大配当になったことだろう。

オークス5着馬リンクスティップが参戦

ディアドラは続く秋華賞も制してGⅠ初制覇。オークス4着の悔しさを晴らした。その後は、翌年にドバイ、香港へ遠征。さらに翌年には異例とも言える長期海外遠征を敢行し、英GⅠ・ナッソーSを制するなど、日本馬の海外遠征史にその名を深く刻み込んだ。

また、上記の秋華賞では、2着がリスグラシュー、3着がモズカッチャンとオークス掲示板組が馬券圏内を独占。リスグラシューは後に2019年のJRA年度代表馬となり、モズカッチャンも同年のエリザベス女王杯を制するなど飛躍を遂げている。秋華賞をはじめ、秋の牝馬戦線を占ううえでオークス上位馬の存在はやはり無視できない。

今年の紫苑Sには、オークス5着馬のリンクスティップが参戦。ディアドラ同様、オークスでは惜しくも馬券圏内を逃しているが、ここから逆転を狙いたい。キャリア5戦、掲示板を外していない抜群の安定感がり、非常に素質の高い魅力ある1頭と言える。紫苑S、そして秋華賞をステップとして、いつかは海外へ──となるだろうか。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、パララサルー、ドウデュース。

《関連記事》
【紫苑S】重賞昇格後9回のレースデータ
【紫苑S】前走オークス組が複勝率38.9% 主役はリンクスティップ、17着サヴォンリンナも浮上の余地
トライアルに強い騎手を特集 頭で狙いたい岩田望来騎手、「中山マイスター」津村明秀騎手に注目