【紫苑S】前走オークス組が複勝率38.9% 主役はリンクスティップ、17着サヴォンリンナも浮上の余地
勝木淳

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格上げされると傾向が変わる
重賞の格付けには不思議なことがある。近年、GⅠ好走馬を立て続けに輩出したGⅢは有力ステップレースとしてGⅡに格上げされることが多いが、格上げ後にその勢いがピタリと止まるケースが多い。
たとえば紫苑Sも2016年にオープン特別からGⅢに格上げされると、秋華賞で【3-4-0-26】と好成績をあげ、ヴィブロス、ディアドラ、スタニングローズがGⅠ馬に昇りつめた。重賞になったことで有力関西馬が遠征し、ここをステップにGⅠへ向かうという流れができた。ところが、23年にGⅡに格上げされると、その後2年間は秋華賞で【0-1-0-9】と今のところはかえって不振に陥っている。
競走馬のローテーションにはトレンドが存在する。これが最有力ローテだと確立されたころには、もうそのローテは過去のものとなる。トレンドの最前線をつかみ続けるのは難しい。方程式が存在しない競馬の世界ならではの現象でもある。ここからは重賞昇格後の過去9回分のデータを使用して今年の紫苑Sを展望する。

人気別成績では、1番人気【3-1-2-3】勝率33.3%、複勝率66.7%、2番人気【3-2-0-4】勝率33.3%、複勝率55.6%と上位人気は堅い。本番とのつながりが希薄になったとはいえ、やはり賞金が高いGⅡとなると、実力馬が出走してくる。
基本は春の既成勢力が強く、夏の上がり馬はトライアルでも苦戦傾向にある。これは総じて秋のトライアルで多くみられる現象だ。これも酷暑の影響だろう。夏を戦い抜き、そこからギアをさらに上げていくのは簡単ではない。
伏兵は5番人気【2-0-1-6】勝率22.2%、複勝率33.3%、6番人気【0-2-1-6】複勝率33.3%が目立つぐらい。ポツポツと複穴は散見されるが、穴から入るのは筋が悪そうだ。

上記の通り、関西の実績馬が多く参戦してきたレースだが、所属別成績をみると、栗東所属馬【2-3-3-26】勝率5.9%、複勝率23.5%に対し、美浦所属馬は【7-6-6-90】勝率6.4%、複勝率17.4%と勝率や3着以内の占有率をみても、関東馬が目立つ。
GⅡ昇格後は関東馬【2-2-1-16】勝率9.5%、複勝率23.8%、関西馬【0-0-1-7】複勝率12.5%と傾向はさらに顕著に出る。関西馬優勢のイメージは改めたほうがよさそうだ。
オークス17着サヴォンリンナもチャンスあり
春の既成勢力ではオークス5着の関西馬リンクスティップが目立つぐらい。今年もGⅡのステップレースとしてはやや寂しい顔ぶれになりそうだ。

クラス別では前走GⅠ【5-6-4-25】勝率12.5%、複勝率37.5%が目立つ。オークス【4-6-4-22】勝率11.1%、複勝率38.9%の着順内訳は5着以内【2-1-1-3】、6~9着【0-2-1-6】、10着以下【2-2-2-13】と二桁着順の馬まで活躍している。
オークス5着のリンクスティップのほかにも、17着だったサヴォンリンナまでチャンスあり。京都、阪神の内回りで連勝と中山向きの機動力を備えており、評価を落とせない。

条件クラスから権利獲得を目論む上がり馬についても調べる。前走1、2勝クラス【2-2-3-64】の距離内訳をみると、やはり同じ2000m組が【2-1-1-11】勝率13.3%、複勝率26.7%と好走の目安となる。
2000m未満【0-1-2-47】複勝率6.0%なので、前走1800m組は強気になれない。1800mでの1着は【0-0-1-25】。エストゥペンダ、ダノンフェアレディは勝ち方もよく、春もそこそこ走った実績があるため、人気に推されそうだが、飛びつけない。
また、春は重賞で足りなかったロートホルンも函館芝1800mで2勝目をあげて出走してくるが、こちらもパターンは同じ。秋競馬での北海道帰り組は馬券的には狙い目ではあるものの、紫苑Sにおいてはそうでもない。前走北海道の1、2勝クラス組は【1-1-1-13】と強調はできない。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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