【新潟記念回顧】シランケドが母父ディープインパクト譲りの瞬発力で勝利 いざ、秋の大舞台に名乗り

勝木淳

2025年新潟記念レース回顧,ⒸSPAIA

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スローでも先行優勢ではない特異な流れ

サマー2000シリーズ最終戦・新潟記念はシランケドが勝ち、重賞2勝目。2着エネルジコ、3着ディープモンスターで決着した。

ハンデ戦から別定戦に改められ、明らかにこれまでのサマー2000シリーズ最終戦とは顔ぶれに変化がみられた。ブレイディヴェーグ、シランケド、除外になったクイーンズウォークとGⅠで人気に推される牝馬が出走し、従来からみられた3歳馬エネルジコや連覇を狙うシンリョクカ、そして七夕賞、小倉記念組と格段に層が厚くなった。

先手は七夕賞を逃げ切ったコスモフリーゲン。七夕賞は前後半1000m59.4-1.01.1と平均ペースからの持久力勝負に持ち込んだが、今回は外回り特有のスローの逃げになった。

中団馬群を少し離して逃げたとはいえ、1000m通過は1.00.5。最終週でも高速決着が続く新潟芝としては遅い。無理やり突っ込んで飛ばしても、コスモフリーゲンのリズムが乱れる。あとはスパートのタイミングひとつと踏んだとみる。

実際に後半800mラップは12.0-10.9-11.0-11.3。コスモフリーゲンの意識としては早々に後ろを離し、直線でアドバンテージを守る策だった。

しかし、外回りのホームストレッチに入ってすぐ10.9とギアを上げながら、そこから11.0-11.3はしんどかった。やはり新潟外回りの高速馬場は仕掛けが難しい。

スローペースであっても、コスモフリーゲンが一気にトップスピードに入ったことで、好位勢も苦しくなった。スローであっても前が優位ではない。新潟外回りではよくあるラップ構成だ。

理想はじわじわとギアを上げ、ゴールまで体力を残す形だが、瞬発力勝負への分の悪さがある以上、早めに動かざるを得ない。好位に控え、展開を味方につけたかった馬たちのほとんどが、最後の200m11.3で脚を残せなかった。

母の父ディープインパクトの力

早々に一気にペースチェンジする形になれば、差し脚がいきてくる。勝ったシランケドは昨年10月の魚沼Sで上がり33.0を繰り出し差し切り勝ちと、外回りの上がり勝負への実績があった。

魚沼Sのラスト3Fは11.2-11.3-11.6で数字は違えど、今回と似たラップ構成。先行勢が早めに動いてくれると自身の持ち味がいきる。今回は上がり600m32.4と記録も内容も明らかに当時からレベルアップしていた。

現在、アメリカ遠征中のミルコ・デムーロ騎手が時間をかけて教え込んだことが実ってきた。序盤からしっかり折り合い、脚を溜め、合図を出したらトップスピードに入る。外回りとはいえ、モタつくと勝負圏内に入れない。シランケドにとって瞬時に動けるようになったことが大きい。

父デクラレーションオブウォーは平坦、もしくは少し時計を要する馬場を得意とし、どちらかというと粘る形で強い。シランケドは平坦への強さは父譲りも、競馬の形は少し違う。

おそくら母系に入ったディープインパクトの力だろう。その瞬発力と父の持続力の融合により、瞬時に動けて長くいい脚を使うという長所が生まれた。春のヴィクトリアマイルはマイル特有の序盤の速さに手を焼きながらも、3着まで来ており、中距離に舞台を移す秋は春以上の成績に期待がかかる。

エネルジコの課題

2着エネルジコは好位勢のなかでも最後まで踏ん張っており、やはり能力の基本値が高い。春は後ろから競馬しており、好位につけたことも評価できる。スタートで後手を踏みながら、位置をとりにいった。

ルメール騎手も成長を感じとり、将来を考え、前につけた。一方で、直線での反応がやはり古馬一線級と比べると物足りない面もあり、序盤で動いた影響もみえた。

今回ほどの瞬発力勝負にはそうならないだろうが、古馬と互角に渡り合うには勝負所の反応が課題になる。まだ若く、馬体をみても成長幅は大いにある。経験を積むことで解消されるだろう。

接戦の3着争いを制したのはディープモンスターだった。昨夏、超高速馬場の小倉記念など速い時計の2000m戦になると、上位に顔を出す。父ディープインパクトの典型で、スピード勝負かつ、ラストに軽さを求められる展開に強い。

連覇を狙ったシンリョクカは4着。競馬の形は申し分なく、コスモフリーゲンがもう少しじわっと動いてくれていたら、違っていたかもしれない。この1年、2度のGⅠを含め、すべて0.8以内に入り続けており充実していた。力は発揮できたとみる。エネルジコ以外の好位勢は苦しくなっており、その粘り腰は賞賛に値する。

5着ヴェローチェエラは直線の進路取りが悔やまれる。後方から直線勝負に賭けただけに、勝負所で進路がとれず、後れをとった。ゴール前の脚色は目立っており、もったいない一戦となった。

2025年新潟記念レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。

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