【キーンランドC回顧】パンジャタワーが示したGⅠ馬の貫禄と幅広い適性 豪州遠征へ死角なし(訂正)
勝木淳

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パンジャタワーの適性
サマースプリントシリーズ第5戦キーンランドカップは1200m重賞初挑戦のパンジャタワーが勝利し、2着ペアポルックス、3着カルプスペルシュで決着した。
NHKマイルカップを勝ったパンジャタワーは2番人気。1番人気をウインカーネリアンに譲ったあたり、やはりスプリント戦への対応について疑われた面はあった。
そもそもNHKマイルC時点では本質は1400mに強いスプリンターであり、マイルは長いのではという評価だった。だが、ハイペースのNHKマイルCを9番人気で勝ち、評価が変わった。
今度はデビュー戦以来となる1200m戦への不安が囁かれた。不思議なことに、パンジャタワーはそういった声をことごとく押しのけた。伏兵評価でのGⅠ制覇は展開なども含めた適性の一致を強調され、実力を疑問視される向きもある。
実際、人気薄のGⅠ馬はその後に苦戦することも多く、そういった経験に裏打ちされた評価ではあるが、パンジャタワーに通用しなかった。つねにファンの猜疑心を打ちのめしてくる。我々の想像を超える実力に底知れないものを感じる。
久々のスプリント戦であっても、戸惑うような場面は一切なかった。前半600m33.6はコーナー半径が大きな札幌としては速い。中団で流れに乗る姿に父タワーオブロンドン譲りのスピードを感じる。
勝負所は外を回りながら、直線に向くと、すぐに加速できる体勢ができていた。札幌のような直線が短いスプリント戦では、コーナーでアクセルを踏みながら、直線に入ってすぐにトップスピードに入らないと間に合わない。パンジャタワーは小回り向きの器用さも披露した。やはり、想像以上に適性の幅が広い。
後半600mは11.3-11.5-11.8と失速しながら34.6。落差1秒はハイペース判定に値するものの、決してオープン馬が音を上げるほど速くもない。パンジャタワーより後ろにいた差し馬勢はエーティーマクフィの7着が最高であり、基本は前が残す展開だった。差しに回って勝ち切ったパンジャタワーの内容が際立つ競馬といえる。
この秋はオーストラリアのランドウィック競馬場で行われるゴールデンイーグルが目標。11月の本番に向け、どういったプランになるのか。9月28日のスプリンターズステークス経由は考えにくく、この後は直行になるだろうか。
ゴールデンイーグルの舞台は芝1500m。幅広い適性を踏まえると、不安はない。豪州競馬特有のタイトな馬群のなかでも冷静に走りそうだ。
新味をみせたペアポルックス
2着ペアポルックスはこれまで、スピードを活かして行ききることが好走条件だったが、今回は内目の3番手に控え、ウインカーネリアンら前にいる馬たちの流れに合わせて競馬ができた。さらに最後は内からさばいて伸びてきた。スピード任せの粘るスタイルからの脱却という意味で収穫があった。
母の母はイルバチオ。短距離の追い込みとして活躍し、2003年アイビスサマーダッシュでは左海誠二騎手とともに豪快に追い込みを決めた。距離適性は同じでも、戦法は正反対という面白い血でもある。
3着カルプスペルシュは3歳牝馬。北海道シリーズ参戦後、ここまで3連勝と勢いがあった。春はスピード不足で出世が遅れたが、函館・札幌で7秒台連発とひと皮むけてきた。
母系はモシーンの系統で、適性に幅がある。カルプスペルシュは母の父ロードカナロアが効果的で、短距離向きのメリハリがある。さらに父シュヴァルグランはハルーワスウィートにハーツクライという組み合わせで、どう考えても晩成の血。ここにきて速い時計に対応し、さらに重賞でも崩れなかったのは、本格化のサインと受け取ろう。
1番人気ウインカーネリアンは5着。スタート直後にフィオライアに絡まれるなど、楽にいかせてもらえなかったことが最後に響いた。
とはいえ、パンジャタワーとの差はたった0.2。ゴール手前まで粘っており、活力に衰えはない。ただしダッシュ力に多少のかげりがみえるため、先手を奪うまでに消耗してしまう。1400mに距離を延ばし、序盤を楽に行けるようにするのもありではないか。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
※編集過程で、ゴールデンイーグルの格付を「G1」と記載する誤りがございました。該当箇所を削除し修正いたしました。お詫びして訂正いたします。(8月25日12時55分)
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