【中京記念回顧】3歳牝馬マピュースが重賞初制覇 血統からさらなる成長にも期待大

勝木淳

2025年中京記念レース回顧,ⒸSPAIA

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別定になっても勝敗をわけたのは負担重量

サマーマイルシリーズ第3戦・中京記念は3歳牝馬マピュースが勝ち、重賞初制覇。2着も3歳シンフォーエバー、3着ジューンオレンジは先に抜け出したエコロヴァルツをとらえた。

直近5年間は阪神開催1回に小倉が3回。中京はたった1度。中京記念は近年のスケジュール変更の煽りを受け続けた。さらに今年から負担重量もハンデから別定戦へ改められ、ますます落ち着かない重賞になってしまった。

一方で、別定に変わったことでメンバーは充実した。しらさぎステークスを勝ったキープカルムをはじめ重賞ウイナーも参戦し、昨年マイルチャンピオンシップ2着以来のエルトンバローズまで顔をそろえた。ハンデ戦だったら、出走に踏み切ったどうかわからない。

負担重量の差は表面上なくなったわけだが、1着・2着は52kgの3歳牝馬マピュースと54kgの3歳牡馬シンフォーエバーで決まり、結局は斤量が結果をわけた。ハンデ戦時代のアプローチが通じるという伝統を踏まえたことが興味深い。

スローペースで強気に出たマピュース

一にも二にも、レース結果に大きな影響を与えたのはシンフォーエバーだろう。前後半800m46.9-45.4のスローペースに持ち込んでも、道中は2番手マピュースを離すような逃げになった。これほどマークを受けなかったのは、前走・関屋記念の影響ではないか。

いわゆるスタートから出していった関屋記念はムキになって逃げ、前半800m45.5のオーバーペースを演出。差し追い込み決着を誘発していた。自身は10着と大敗しており、好位勢にはシンフォーエバーをマークする理由も、追いかけるメリットもなかった。

ゆえに今回の中京記念ではスローの単騎逃げというまたとない展開に持ち込めた。こういった出し入れはいかにも心理戦と戦略性に優れた森秀行厩舎らしい。

序盤のペースが遅かったことは、勝ったマピュースにも利があった。これまで6戦すべてマイル戦に出走し、勝った新馬戦と赤松賞は直線が長い競馬場でのスローペース。レース間隔をあけて使われていることから推察できるように、潜在的な体質の弱さを抱えており、マイルの持続力勝負だと体力的に厳しい。

そんな状況下でも桜花賞4着、NHKマイルカップ7着と厳しい競馬でも崩れなかったのは素質のあらわれ。一転してスローに流れた今回は自分の力を出し切れた。序盤がゆったり流れてくれれば、今回のように絶好位もとれる。

母フィルムフランセの弟は重賞3勝レッドルゼル。母の父はシンボリクリスエスであり、母系は晩成傾向が強い。さらに父マインドユアビスケッツも、札幌記念1番人気ホウオウビスケッツやデルマソトガケなどタフな成長力を感じさせる。

重賞タイトルを獲得し、賞金を上積みしたマピュースも今後はじっくり成長を促せそうだ。体質の弱さがなくなれば、マイルの持続力勝負であっても、好位に構えられるだろう。


1800mで前進しそうなジューンオレンジ

2着シンフォーエバーは願ってもないマイペースから、直線では一旦セーフティーリードにみえた。手応えもよかったものの、最後の最後に詰めの甘さをみせた。こちらもまだ若さを感じ、成長の余地を残す。

父コンプレキシティはデビュー2戦目で米国ダート8ハロンのシャンペインステークス(GⅠ)を勝ったスピードタイプ。決して早熟ではなく、4歳秋にもGⅡを勝ち、ブリーダーズカップダートマイルでも2番人気に推された。

ディストーテッドヒューマー、フォーティナイナーと連なる米国スピード血脈は日本ではやや単調な面がある。今回と関屋記念の間ぐらいのミドルペースにベストな流れがありそうだ。もちろん、サウジダービー2着からワンターンのダートもいいだろう。

3着ジューンオレンジはシンフォーエバーがスローペースを演出してくれたことで、距離短縮でも序盤から戸惑わずに流れに乗れた。1600mの実績はないが、1800mベストなら遅い流れの1600mも対応できる。

一方で、スピードの持続力を問う流れだと前半で置かれる可能性も捨て置けない。再度1800mに距離を延ばせば、思い切って前で流れに乗れるのではないか。


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《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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