【札幌記念回顧】トップナイフがタフな持続力勝負制し三度目の正直 3連単130万超の大波乱
勝木淳

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トップナイフ、復活
夏の札幌大一番の札幌記念はトップナイフが勝利し、重賞初制覇。2着にココナッツブラウン、3着にアラタが入り、3連単配当は1,307,650円の大穴決着となった。
レース後にスタンドに向かって何度も拳を握り、相棒をなで続ける横山典弘騎手の姿がすべてを物語る。トップナイフにとって札幌記念は3年連続出走し、ついにつかんだ重賞タイトルだ。その価値は単に3年続けて挑戦しただけではない。
2歳時にはホープフルSで逃げて2着、3歳初戦の弥生賞ディープインパクト記念でも2着と順風満帆な滑り出しだった。皐月賞、ダービーこそ壁にはね返されたが、仕切り直しの一戦となった同年の札幌記念で2着に入り、重賞タイトルは目前まで迫っていた。
だが、菊花賞後は故障のため、翌年函館記念まで約1年間、戦列から離れた。10着に終わった4歳時の札幌記念はそんな仕切り直しの途上にあった。その秋、アンドロメダSで3着に入り、浮上のきっかけをつかむも、再び長期離脱。翌年のエプソムCまで約半年かかった。
体質が弱く、勢いがつくたびに故障によって回り道を強いられてきた。そんな挫折の先にあったのが3度目の札幌記念。ベテランが喜びを爆発させたのは、携わる陣営とトップナイフ自身の苦労をよく知るからこそ。札幌記念は過去から未来へと物語をつなげた。
そのレース内容は鮮やかのひとこと。道中は内に潜り、ライバルたちが避ける雨で悪化した内側から進出、コーナーでの距離ロスを抑え、体力をコントロールしながら、4コーナーで好位にとりつくというレースだった。
2、3歳時から体力を競うレースに強い持続力型だったが、いよいよ本領発揮といったところ。タフな競馬でこそ輝きを放つ。
1番人気ホウオウビスケッツを巡る先陣争い
逃げ争いはこのレースの焦点でもあった。1番人気に支持されたホウオウビスケッツは、先手を奪った昨年の天皇賞(秋)で3着に入るなどスムーズに行ければしぶとい。一方で、ケイアイセナ、アウスヴァールなど逃げたい馬たちもそろった。
スタート直後はホウオウビスケッツが先頭に立ちかけるも、すぐにケイアイセナがハナを奪い、さらに外から強引にアウスヴァールが主導権をさらっていった。1周目の正面スタンド前から1、2コーナーにかけて先手争いが激しくなったのは、1番人気を背負ったホウオウビスケッツの存在感が大きい。
これで札幌記念の1番人気は14連敗。人気を背負った実績馬が勝てないというデータを象徴するような逃げ争いだった。
こうももつれるとなると、ハイペースになりそうなものだが、実際は1000m通過1:00.6とGⅡ戦としては速くなかった。アウスヴァールは息を入れにくい流れを演出したものの、決して飛ばしたわけではない。ただ、ラップが落ち込まないまま、残り800mから11.9-12.0とスパートしたことで、たとえ実績馬であっても完調に近い状態でなければ乗りきれないタフな競馬になった。
荒れた内側を押し上げ、4コーナーで好位に取りついたトップナイフの強さは際立った。父デクラレーションオブウォーは持続力勝負の鬼。切れ味を求められない流れへの適性も高い。ラスト400mは12.3-12.6の失速ラップ。我慢比べに強い特性が見事に合致した。スピードを問わない馬場なら、大舞台でも見せ場をつくれるだろう。
適性で買えた大穴アラタ
2着ココナッツブラウンはそんなタフな流れに付き合わなかったことが好走につながった。前走クイーンSでは直線半ばまで追い出しを待たされ、ゴール前は猛然と勝ち馬に迫った。今回は外枠でもあり、あえて外を通ることで前走不発に終わった末脚を引き出した。
点と点を線で結ぶような騎乗は納得。ただ、これほどタフな競馬になってしまうと、控えたとはいえ、体力的にしんどい。札幌連戦のダメージを心配したくなる。
3着アラタはココナッツブラウンより後ろから直線に懸けた。この戦略が展開と一致しての好走だが、元来、この手のタフな乱戦に強い。スローで不発に終わった春を度外視し、昨秋の福島記念勝ちを分析できれば、買えない馬ではなかったか。
13番人気の大穴をとり逃したダメージは大きく、個人的に悔いを残した。今後も時計を要する重めの馬場状態での乱戦では、マークカードを塗り損ねないようにしよう。
3番人気ステレンボッシュは15着と大敗。洋芝の稍重馬場も、コーナー4つの直線が短いコースも不向き。負け過ぎたのは原因がある。ただ、一旦、崩れた牝馬はしばらく様子見が賢明だろう。近況を考えると、再浮上は時間がかかりそうだ。過度にプレッシャーをかけず、もう一度好調曲線に入るまで見守ろう。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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