【クイーンS回顧】重賞2勝目アルジーヌが示した強み ポイントは先行争い、今後も“激戦”で要注目
勝木淳

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コンクシェルとアリスヴェリテの先陣争い
クイーンステークスはアルジーヌが勝ち、重賞2勝目。2着ココナッツブラウン、3着フェアエールングで決着した。
札幌芝1800mのフルゲートは14頭。対して芝2000mは16頭と、似たコースであってもフルゲートの設定が異なる。あまり気にしないことだが、実はここに芝1800mの難しさが隠されている。
なぜ、200mしか違わない正面スタンド前発走でフルゲートが違うのか。それは1コーナー進入までの距離が理由だ。
芝1800mは1コーナーまで約180mと短い。競馬は基本的に2ハロン目(200~400m地点)が前半でもっとも速くなる。最初の1ハロンは助走区間とされ、もっとも勢いがつく地点が2ハロン目にあたる。芝1800mはその区間が1コーナーなので、隊列が決まらないまま進んだ場合、頭数が多いと危ないため、フルゲートは14頭に設定されている。
クイーンSはそんな設定を強く意識させるレースだった。ヴィクトリアマイルで大逃げに持ち込んだアリスヴェリテ、近走ハナに立っていないコンクシェルは決して鋭いダッシュ力を武器とせず、この2頭のハナ争いがポイントだった。結果は内のコンクシェルがハナに立ち、外枠アリスヴェリテは押して出していってもハナには立てず、1コーナーへ進入していった。
コンクシェルはアリスヴェリテを意識し、勢いを維持したまま2コーナーへ。最初の200mは12.3-10.9の23.2。現在の施行コースになった2000年以降、これより速いのは2002年の23.1(勝ち馬ミツワトップレディ)、2006年の23.1(勝ち馬デアリングハート)、そして2018年の22.9(勝ち馬ディアドラ)の3例のみ。18年はその後ペースダウンし、02年と06年は中盤以降ペースがあがらない、いわゆるハイペース判定だった。
今年はコンクシェルが一定のリズムを刻み、3ハロン目から11.7-11.8-11.7-11.7-11.7-12.3-11.9。極めてスキのないハイレベルなラップ構成になった。
好走条件が明確になったアルジーヌ
この流れを外から押し切ったアルジーヌは立派だ。昨年末に重賞を勝ち、今年の2戦はGⅡ、GⅠでタイム差なし。不利があるなど、ちょっとしたかけ違いによって勝利とはならなかったが、充実具合では抜けていた。スムーズならこれぐらい走って不思議はなく、納得の勝利だ。
母キャトルフィーユ、その母ワンフォーローズの一族はアルジーヌ、キャトルフィーユ以外にもレディアルバローザ、エンジェルフェイスと重賞ウイナーは牝馬ばかり。スピードを秘める種牡馬を介し、瞬発力に富む牝馬が開花する。
アルジーヌもそんな血統の特徴通り、末脚勝負の激戦に強い。スローだった昨年は3着だったが、締まった流れの今年、成績を上昇させた。持続力と末脚を問う流れ、速い時計が出る馬場など、好走条件は明確になった。
ココナッツブラウンの可能性
フルゲートの混戦ゆえ、思うような競馬ができなかった組も多い。その最たる例が2着ココナッツブラウンだ。
後方から勝負所で内に潜り込む形で距離を詰めたところまではよかったが、直線は逃げるコンクシェルに進路を阻まれ、追い出しが遅れてしまった。トップスピードに入ったのはゴール前100mをすぎてから。ゴール板での勢いはアルジーヌを凌駕しており、いかにももったいない競馬だった。
一方で、アルジーヌのように流れに乗れない弱みもみえた。この手のタイプが重賞を勝つには恵まれないと難しい。今後の課題はここ。流れに乗りながら、末脚を発揮できるようになってほしい。直線でのさばきやトップスピードに入る反応は申し分なく、前半がもう少し落ち着いた流れになれば、チャンスはある。
3着フェアエールングはハイペースを前で流れに乗り、勝負所で内目を反応よく進出するなど随所に強さを感じた。札幌【3-1-1-1】のコース巧者であることも立ち回りの良さにみえた。
とはいえ、札幌での3勝は芝2000mであり、1800mのハイペースはやや忙しかったか、最後に伸びを欠いた。中1週と間隔は詰まるが、札幌記念転戦も面白いのではないか。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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