近親にキラーアビリティ、エピファネイア産駒の大物候補アートバーゼルに注目 血統で見抜く新馬の力
貴シンジ

今週デビュー予定の注目新馬
出走する全馬が初出走となる「新馬戦」は、他のレースと予想のアプローチが全く異なる。調教で能力を見定める方法もあるが、実戦で同様の走りができるかは未知数だ。
従って、血統面からのアプローチが他のレースに比べて格段に有効となる。そこで今回は血統のなかでも“牝系”にフォーカスして、今週デビュー予定の2歳新馬のなかからピックアップした2頭を解説。デビュー戦の展望はもちろんのこと、血統から想定できる潜在能力や将来性についても深掘りしてみたい。
8/2(土)新潟4R・芝1800m アートバーゼル

日本での牝祖は祖母キラーグレイシス。同馬は競走馬として2011年のハリウッドスターレットステークス(GⅠ・AW8.5F)を制し、繁殖としても2021年ホープフルステークス勝ち馬キラーアビリティ(父ディープインパクト)を輩出するなど、優れた功績を残した。
アートバーゼルの母キラービューティも競走馬として優秀で、芝1400mで3勝、ダートの1400mでも1勝を挙げて準OPまで勝ち上がっている。
アメリカで繋がってきた牝系ということもあり、本質的にはパワーを活かしてダートで活躍する馬が多い。一瞬でギアが上がるわけではないが、どこまでも伸びていくような持続性能の高い末脚が魅力のファミリーだ。また、早期から活躍できるのも特徴の一つと言える。
アートバーゼルは父にエピファネイアを迎えた。同馬の産駒は芝への適性が非常に高く、2021年皐月賞馬エフフォーリアのような持続性能の高い馬を多く輩出している。本馬は牝馬ということもあって、適性は芝とみる。胴伸びの良い馬体から高い中距離適性を感じさせ、順調に勝ち進めばオークスが三冠の中では最も適したレースとなりそうだ。
持続性能を高めることに特化した配合で、今回の舞台である直線の長い新潟外回りは合う。スローペースになりがちな新馬戦だが、調教でも良い動きを見せており、能力で勝ち負けに持ち込むことができるだろう。
<血統から想定できる潜在能力>
・馬場適性:芝
・距離適性:1800~2400m/ベスト2400m
・能力:スピードS/瞬発力B/パワーS/持久力S
・同タイプ:エフフォーリア
・特徴:持続性能高い/パワー◎
※持久力=スピードの持続力
8/3(日)札幌5R・芝1800m クレパスキュラー

日本での牝祖は3代母キャサリーンパー。同馬の母は1972年の愛オークス勝ち馬Regal Exceptionで、半兄はトニービンが2着だった1987年のローマ賞(GⅠ・芝14F)勝ち馬Orbanと日本に入ってくる前から非常に優秀な牝系だった。
キャサリーンパー自身もプシュケ賞(GⅢ・芝10F)2着、アスタルテ賞(GⅡ・芝8F)3着といった実績があるが、それよりも注目すべきは繁殖としての実績だ。
産駒で目立つのは2006年ジャパンカップダート勝ち馬アロンダイト(父エルコンドルパサー)くらいだが、孫世代以降が大活躍。なかでも優秀なのがタンザナイト(父サンデーサイレンス)とクリソプレーズ(父エルコンドルパサー)の2頭である。
タンザナイトは2017年ダイヤモンドステークス2着ラブラドライト(父キングカメハメハ)や、2017年の皐月賞3着馬でアメリカジョッキークラブカップと京都記念を勝ったダンビュライト(父ルーラーシップ)を出した。
さらにクリソプレーズは2013年ジャパンダートダービー勝ち馬クリソライト(父ゴールドアリュール)を筆頭に、同じくJDD勝ち含むGⅠ級計4勝のクリソベリル(父ゴールドアリュール)といったダートの強豪を出したほか、2015年神戸新聞杯勝ち馬で同年の菊花賞でも3着と好走したリアファル(父ゼンノロブロイ)、2015年のエリザベス女王杯と2016年の宝塚記念を制したマリアライト(父ディープインパクト)といった芝の活躍馬も輩出した。
ファミリーの特徴としてはスタミナとパワーに長けた馬が多く、成長力も十分。血統構成を見ると本来の適性としては芝寄りだが、クリソライトやクリソベリル、またリアファルもデビューからしばらくはダートを走っていたように、種牡馬次第ではダートでも活躍できる。
クレパスキュラーの母エリスライトはディープインパクトの産駒で、マリアライトの全妹にあたる。現役時は芝中距離で2勝。牝馬とは思えないほどタフだった姉に似て、やはりタフなタイプだった。半兄のトライゴーニック(父ルーラーシップ)がダート2100mで初勝利を挙げていることからも、そのスタミナとタフさは産駒にもしっかりと受け継がれている。
クレパスキュラーは父にリオンディーズを迎えた。同馬はスピード性能の高さと豊富なスタミナが特徴。本馬にとって今回の1800mは短いくらいで、将来的にはもっと長い距離で活躍する馬になりそうだ。
<血統から想定できる潜在能力>
・馬場適性:芝
・距離適性:2000~3200m/ベスト2400m
・能力:スピードA/瞬発力A/パワーS/持久力S
・同タイプ:テーオーロイヤル
・特徴:タフなレース得意/パワー◎
※持久力=スピードの持続力
《ライタープロフィール》
貴シンジ
競馬ライター。サラブレッドの血統をファミリー中心に分析する牝系研究家。3つのファクターから構築する「コンプレックスアナライズ」を駆使して競馬予想を行う。WEBサイト『ウマフリ』で「牝系図鑑」も連載中。競馬予想のほか「競馬王」など商業誌での執筆、一口馬主クラブ募集馬やセリ馬の血統分析、血統の魅力の伝承、繁殖牝馬の配合提案などを独自の切り口から行う。
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