【アイビスSD】ライオンボスが千直無敗で王座につく 自慢のスピードを遺憾なく発揮した2019年をプレイバック

緒方きしん

2019年アイビスサマーダッシュの出馬表と結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

新潟、夏の風物詩「新潟直千」

今週は新潟の名物競走アイビスサマーダッシュが開催される。新潟の直線1000mで開催される唯一の直線重賞で、これまで多くの名勝負が繰り広げられてきた。

過去にはカルストンライトオやビリーバーらが勝利を挙げている。今回はそんな中から2019年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。

アイビスSDといえば、過去にカノヤザクラやベルカントが連覇を達成。カルストンライトオも2勝を挙げているように、リピーターの強いレースである。

2019年アイビスSDにも、前年覇者ダイメイプリンセスが参戦。同馬は前年にアイビスSDを制して以降も北九州記念2着、スプリンターズSでも4着と快速ぶりを見せていた。例年であればこの馬が1番人気に推されていただろう。

しかし、この年のダイメイプリンセスは2番人気・単勝6.7倍にとどまっていた。圧倒的1番人気となる単勝1.9倍に推された馬がいたのだ。それがライオンボスである。

以下、3番人気の牝馬カッパツハッチは単勝10.6倍。同馬はすでにライオンボスとは前走の韋駄天Sで勝負付けが済んでいるという見方が多かった。

ライオンボスはここまで12戦4勝。ダート適性が高いバトルプランの産駒らしく、芝だけでなくダートでも走っていた。内訳はダート2勝、芝2勝でいずれも1000m戦。しかも直近2戦は邁進特別、韋駄天Sと直線1000m戦を連勝しての参戦。千直無敗という実績を引っ提げ、圧倒的な新王者候補としてアイビスSDを迎えた。

田辺騎手の迷いなき騎乗 着差以上の完勝

アイビスSDの当日は、どこか独特な雰囲気が競馬場を包む。新潟大賞典や新潟2歳Sなど多くの熱戦が繰り広げられる新潟競馬場だが、アイビスSDはお祭りのような雰囲気が色濃い。

2019年は前日のイベントに「ひふみん」の愛称で親しまれる将棋棋士・加藤一二三九段が登場して予想を披露、当日はフリーパスの日で多くのファンが盛り上がった。

ライオンボスが千直で3連勝を決めるのか、それとも阻止する馬が現れるのか。新潟競馬場に集まったファンはその1分に満たない刹那の攻防を楽しみに待っていた。

ゲートが開きスタートが切られる。6枠11番と真ん中寄りの枠に入ったライオンボスだったが、好スタートから猛然と外ラチ沿いのポジションを確保しに行く。

鞍上の田辺裕信騎手は他馬との接触や進路妨害がないよう、慎重に後続を確認しながら外ラチへと寄せる。唯一粘ったのがオールポッシブルだったが、ライオンボスは自慢のスピードを武器に外ラチを奪った。

レジーナフォルテ、カッパツハッチといった牝馬たちも内から外ラチに寄せ、先手を伺う。しかし、田辺騎手は外ラチ沿いを走り始めると、他馬を気にするそぶりを全く見せず、まっすぐ前だけを見ていた。その姿はまるで「千直に駆け引きは必要なし。スピードで押し切るのみ」そう言っているようだった。

加速したライオンボスは、内から伸びるカッパツハッチやオールポッシブルの追撃をしのぎ、そのまま1着でゴールイン。

終わってみれば、実力で好きなポジションを奪い、そこから危なげない走りで勝利を掴み取るという“王道競馬”。これがライオンボスにとって初重賞制覇となったが、そうは見えないほどの風格ある走りだった。

2着には前走と同じく4分の3馬身差でカッパツハッチ。3着には9番人気の牝馬オールポッシブルが入ったが、圧倒的1番人気が勝利したこともあり、三連複は万馬券に届かない比較的平穏な決着となった。

今年も主役は牝馬の2頭

ライオンボスは翌年も新潟の千直競走に参戦。韋駄天Sは勝利したものの、アイビスSDでは韋駄天Sの2着馬ジョーカナチャンに逆転を許して2着。さらに翌年のアイビスSDでも2着と好走し、強烈なインパクトを夏の新潟に刻み込んだ。

引退後はデイズクラブで繋養され、今年は相馬野馬追にも参加。伝統行事という新たな活躍の場を得て競馬メディアでも取り上げられるなど、地域貢献を果たしている。

2着馬カッパツハッチは、2024年に初仔の牝馬(父ヴァンゴッホ)を出産。自身同様にターファイトクラブで一口が募集されている。3着オールポッシブルは姪っ子のミリアッドラヴが昨年全日本2歳優駿を制するなど活躍。しかし、そのミリアッドラヴは今年6月に惜しくも急逝した。

今年のアイビスSDには、昨年の3着馬で今年の韋駄天S勝ち馬テイエムスパーダが参戦。前走の韋駄天Sは2着馬に0.5秒差で3馬身差をつける圧勝劇だった。千直競走で馬券圏内100%の実績をひっさげ、どのような走りを見せてくれるだろうか。

また、昨年の勝ち馬モズメイメイも参戦予定。こちらも3歳時から快速ぶりを見せており、史上3頭目の連覇を狙う。今年も牝馬の戦いから目が離せない。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。

《関連記事》
【アイビスSD】過去10年のレースデータ
【アイビスSD】「複勝率57.1%」韋駄天S覇者テイエムスパーダが最有力 昨年の勝ち馬モズメイメイは大敗からの巻き返し期す
現役最高の新潟巧者は? 勝率52.4%の「ルメール」×「未勝利戦」など騎手、種牡馬ごとに徹底検証