【関屋記念回顧】カナテープがレコードV 流れを読み、騎手心理の裏を突いたキング騎手の好騎乗
勝木淳

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新潟のレコードが破られない理由
今年から夏の新潟開幕週のハンデ戦に生まれ変わった関屋記念はカナテープが勝ち、重賞初制覇。2着はオフトレイルとボンドガールの同着で決着した。
夏の新潟開幕週は上級条件を中心にレコードに迫る記録が連発し、梅雨の影響をさほど受けない新潟らしい絶好の馬場状態だった。とはいえ、高速馬場だからレコードが出るという単純な図式にならないのも新潟の特徴だ。
たとえば、直線1000mのレコードは2002年カルストンライトオの53.7。芝外回り2000mにいたっては改装直後の2001年にツジノワンダーが記録した基準タイム1.56.4が未だに更新されていない。
これらレコードの数字がえげつないのも要因だが、高速馬場の新潟という設定が前半から飛ばさない展開をつくりやすいのもある。なにせ外回りは上がり600mが速く、33秒台前半が多発する。そこに向けて末脚を溜めようという心理は、スローペースを招く。
レコード更新には後半時計だけでは足りない。前半も突っ込んでいかないとレコードはつくれない。関屋記念でカナテープが記録した1.31.0は、ドナウブルーが13年前に出したレコードを0秒5上回った。この要因としては当然、前半の役割が大きい。
堀厩舎の確かな視点
先手を奪ったシンフォーエバーは前半600m33.9、800m通過45.5とペースを刻んだ。前半600mは現コースの新潟芝1600mで行われた重賞では最速タイ。800m45.5は最速を記録。この時点でレコード更新の可能性は高まっていた。
さらに後半は11.4-11.1-11.5-11.5で45.5。後半も前半とまったく同じ時計で上がれば、レコード更新も当然だ。残り600~400mの11.1で先行勢はほぼ脚を使い切っており、カナテープの差しが決まったのも納得。だが、決して漁夫の利を得たわけではない。
これだけ絶好の馬場状態で先行優位な状況下にあっても、流れを読み、後ろから競馬を進めたレイチェル・キング騎手の判断も勝因だろう。前につけないと勝負にならないという心理が生んだイーブンペースを逆手にとった形になる。
上記の通り、後半800mをまとめたのもレコードには欠かせない。カナテープの地力の高さも見逃せない。
6歳牝馬でもキャリアはたった17戦。脚元から内臓面までトータルの状態を重視する堀宣行厩舎らしい使われ方が素質開花へ導いた。この勝利でJRA全場重賞制覇を達成したが、新潟の重賞を勝っていなかったのは意外な気もする。
カナテープについては一貫して東京芝1600~1800mにこだわって出走させてきたが、この適性重視の姿勢も堀厩舎の強み。新潟芝1600mの関屋記念はその適性範囲内と踏んでの参戦だった。堀厩舎のジャッジには逆らえない。
一方で、問題はこの先だろう。重賞タイトルを獲得した6歳牝馬なので、この先も長く走ることはなさそうだが、もう一つ上へ進むのか、それとも適性を重視し続けるのか。この点に注目したい。
進境をみせた2着同着
2着同着はオフトレイルとボンドガール。どちらも道中の運びに課題があるタイプであり、今回はひとつの答えを導いた競馬だった。
オフトレイルは折り合い面での難しさを抱えており、後方から追い込みにかけるなど極端な競馬が目立っていた。今回はそれなりに流れたこともあったが、中団馬群の内で折り合って脚を溜められたのは大きな進歩だ。
本質はもう少し短くてもよさそうだが、1200mを経験したことで、折り合いに進境がみられた。マイルで今回のような位置から進められれば、再び勝負圏内に入る公算は高い。
もう一頭の2着馬ボンドガールは馬群に入れると気持ちを切らすような面を抱えており、これまでは外を回って大外一気といった戦法をとらないと、末脚を引き出せなかった。それが馬群に入る形で進み、気持ちを切らすことなく、間を縫って抜け出してきた。
さすがに重賞を極端な競馬で勝ち切るのは難しく、今回の経験は重賞制覇に向けた大きな一歩になった。勝ち鞍は新馬戦のみといえ、1勝馬の身ながら実質トップハンデを背負っており、スケール感は一枚上の存在。本来の力を出せるようになれば、賞金加算は時間の問題ではないか。
4着トランキリテは11番人気の低評価をはね返した。直線で進路がなく、内へ切り返したため、踏み遅れ気味になったのは痛かった。のびのび走らせると着実に脚を使うタイプで、オープン連続3着の内容も濃い。次走も人気薄であれば狙ってみたい。
この夏、福島・新潟で次々と穴馬券を提供するなど大活躍の荻野極騎手も味方につけて損はない。とにかく仕掛けのタイミングとレース読みが抜群。冴えわたる手綱に馬券を託したくなる。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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