【七夕賞回顧】コスモフリーゲンが鮮やか逃走劇 柴田大知騎手の絶妙なペースメイク光る

勝木淳

2025年七夕賞、レース結果,ⒸSPAIA

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夏競馬にありがちな心理の裏をいく

サマー2000シリーズ・七夕賞はコスモフリーゲンが逃げ切って重賞初挑戦初制覇。2着はドゥラドーレス、3着はオニャンコポンで決着した。

舞台となった福島競馬場は小回りコースのため、先行勢に優位なコース。馬場が極端に荒れない限り、この前提は動かない。そして、重賞になると、それを意識してしまい、よもやのハイペースになる。“福島重賞あるある”は七夕賞とて例外ではない。平均からハイペースの持続力勝負になり、いわゆる低速上がりに強い、ズブいタイプが躍動しがちだ。

今年も例年通り混戦の組み合わせになり、目立つ逃げ馬がいないものの、平均ぐらいには流れそうだと予想された。後半の仕掛けが早く、我慢比べへ。いつもの七夕賞を想像したにちがいない。一方で、その大方の読みを逆手にとったのがコスモフリーゲンと柴田大知騎手だった。あえて序盤、突っ込んで入るようにみせ、好位勢を手玉にとった。

見た目の映像もコスモフリーゲンが飛ばし、ショウナンマグマ、シリウスコルトと先行勢が間隔をとって走り、中団より後ろに馬群が形成される、いかにも持久力を問う展開にみえた。だが、実際はそうではなかった。前半1000m59.4はやっと平均といった程度であり、中盤(800~1200m)に12.7-12.8というラップが刻まれた。コスモフリーゲンは決して飛ばしてはいない。むしろ向正面で息をしっかり入れて走っていた。

4番手シルトホルンまでが大事に進めた面はある。先に仕掛けたら目標になる。できれば自然な形でコスモフリーゲンとの間合いを詰めたいという意図はみえた。実際に4コーナー手前で馬群は詰まったものの、コスモフリーゲンの余力も残っていた。ライバルたちの心理を読んだ考え抜かれた作戦といえる。

柴田大知騎手の重賞制覇は2020年ターコイズSのスマイルカナ以来。この間、ビッグレッドファームグループを中心に騎乗するも、重賞一桁人気馬への騎乗は年に1、2度で、23年以降は騎乗なしと決して恵まれなかったが、懸命に努力を続けた先、コスモフリーゲンに出会った。


晩成スクリーンヒーローの血

初出走で既走馬相手の未勝利戦を勝ったのは23年春の中山、不良馬場でのこと。その年の暮れから4歳1月まで連勝し、3連勝で3勝クラスへ。昇級初戦4着を除けば、すべて2、3着と崩れず、今年、皐月賞当日の最終R・サンシャインSを勝って条件戦を突破した。ゴール直後にみせた大知騎手のガッツポーズが印象的だった。

オープン入り初戦での重賞勝利は、絶妙なペース配分によるエスコートもあったが、実力の裏づけがなければ達成できない。通算成績【5-2-1-1】は勝つたびにクラスが上がる制度を踏まえると、立派な数字だ。

父スクリーンヒーローが伝える晩成の血は本格化すると止まらない。父系、母系ともロベルト持ちであり、上がり34秒台後半から35秒台の低速勝負で威力を増す。今回もレース上がりは自身が記録した36.0。適度に時計を要する馬場での強さは記憶しておこう。

マイペースに持ち込みつつ、速い上がりを必要としないという展開は今後、再現しづらいかもしれないが、サンシャインSのように好位からの競馬が本来のスタイルでもある。また、サンシャインSでは上がり3位タイ34.4にまとめており、好走ゾーンも広がりつつある。伸びしろに賭けたい一頭だ。


適性を取り戻したオニャンコポン

2着ドゥラドーレスは3コーナーで前優位の状況を察知し、早めに動いたものの、外枠から終始外を通る不利な進路取りも響いた。またコーナーでの加速も得意とはいえず、直線に向いてからトップギアに入る形になったのも着順に影響したようだ。

小回り通用の根拠になった2走前の小倉日経賞(1着)もコーナーより直線部分での伸びで間に合った印象。馬場の違いもあったか。本質は長い直線での持続力勝負ではないか。

3着は11番人気オニャンコポン。福島芝2000mは3歳時の福島記念4着以来。コーナー4つの中距離に限ると、福島記念以降4、13着。差す形ではなく、先行した函館記念での13着以外は勝ち馬から0.6秒差以内と圏内にいた。ただ、広いコースのマイル戦などで大きく崩れていたため、買う側も適性を見失っていた。

やはり重賞を勝った京成杯が適性の原点であり、6歳を迎えても変わっていなかった。ベストは適度に上がりを要する小回り中距離での差し。適性さえ一致すれば、重賞でも戦える。

3番人気8着シリウスコルトは勝ち馬が逃げ切ったことを考えれば、展開も内容も悪くなかった。それでいて直線で失速したのはハンデ58.5キロの影響だろう。また前走・新潟大賞典の疲労もあったようで、今後、続戦なら状態面の見直しが必要だろう。次走が新潟記念なら、今年から別定になり、斤量は58キロに減る。

2025年七夕賞、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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