【府中牝馬S回顧】強気な競馬で道拓く セキトバイーストが持久力勝負制し初戴冠

勝木淳

2025年府中牝馬S、レース結果,ⒸSPAIA

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加減速なしの持続力勝負

春の東京開催最後の重賞となる府中牝馬Sはセキトバイーストが勝ち、重賞初制覇。2着はカナテープ、3着はラヴァンダで決着した。施行回数は秋に行われていたアイルランドトロフィー府中牝馬Sから引き継ぎ、条件の半分は吸収する形になったマーメイドSから受け継ぐというややこしい牝馬限定のハンデ戦だったが、終わってみれば上位人気で決着。マーメイドSでしばしばみられた人気薄の軽量馬による一発はなかった。

やはり東京芝1800mコースは実力をストレートに映す。よほどの奇策に出ない限り、大穴の一撃はなさそうだ。

というのもレースの流れは800m通過47.2、1000m通過58.9と締まり、後半800mも47.1。ラップ全体を眺めても、12.6-11.0-11.9-11.7-11.7-11.7-11.5-11.7-12.2と序盤から終盤までほぼ一定のリズムになり、息の入れるスキがないスピードの持続力が試された。

加減速がないラップは誤魔化しようがなく、途中で動くこともできない。トップスピードに近い感覚でゴールまでいけないと乗り越えられないとなると、伏兵がなにかを起こすのは不可能に近い。


デクラレーションオブウォーの特色

そんなハイレベルなラップ構成を制したのはセキトバイースト。3コーナー2番手、4コーナー3番手での正攻法から東京の直線をしのぎきった。それもハンデ2位タイとなる55.5キロでやってのけており、持続力は光るものがある。

もともとチューリップ賞2着、ローズS3着と直線が長い急坂コースで逃げて好走しており、心肺機能は強かった。だが、当時は逃げることが好走条件だったため、厳しくマークされる運命にあった。

しかし、年明け初戦の壇之浦Sを2番手から抜け出し、さらに都大路Sでも控えて結果を残すなど、進化がみられた。今回も進境をみせた折り合いを武器に好位で我慢できた。幅が出てきたことが重賞タイトルに結びついた。

父デクラレーションオブウォーはその父ウォーフロントからダンチヒにつながる血統で、産駒は切れ味勝負では分が悪いが、しぶとさを生かす形なら強い。JRA重賞ウイナーはタマモブラックタイ(2023年ファルコンS)、セットアップ(2023年札幌2歳S)、シランケド(2023年中山牝馬S)と瞬発力勝負を避けられる舞台でのものばかり。

これまで東京の重賞では産駒成績【0-0-1-7】。できればコーナーで息を入れられる舞台がよかった。とはいえ、セキトバイーストも上記ラップの通り、瞬発力を問わない競馬だから勝てた。一定のペースを刻むというデクラレーションオブウォーの強みを最大限発揮できる展開に対し、好位から強気なレースを試みたことが勝利につながった。これも血統の個性だ。なにも瞬発力絶対主義になることはない。

サンデーサイレンスが台頭して以降、日本の競馬は瞬発力を身上としてきたが、サンデーの血が飽和状態になると、今度は針がその反対側に動き、ジリ脚でもゴールまで諦めずに走り切れる血が求められる。

ディープインパクトの孫の代はそんな傾向が強く、全体的にレースが極端なスローになりにくくなった。スローペース戦が減れば、デクラレーションオブウォーのような米国持続力型の血統は出番が増える。血統の隆盛、流れをつかめば、評価すべき馬もみえてくるだろう。

セキトバイーストは母系にフットステップスインザサンドの名がある。2005年英国2000ギニーを3連勝で制し、種牡馬入り後、モーリスドゲスト賞(仏GⅠ)を勝ったマリアナフットを輩出するなど、ヨーロッパのマイル、短距離路線で活躍馬を送る。

その父ジャイアンツコーズウェイは世界各国に活躍馬を送った名種牡馬であり、レモンポップの母の父として知られる。セキトバイーストは持続力に強い血が集まっており、今後も味のある、かつ強気な競馬で道を切り拓いていってほしい。


堀厩舎のカラーにマッチしたカナテープ

2着のカナテープは昇級初戦でいきなり厳しいラップになったことを考えると、大健闘ではないか。東京芝1800mに集中して出走させ、重賞まで導くあたり、緻密かつこだわりの強い堀宣行厩舎の真骨頂だ。6歳まで時間はかかったが、じっくり育てていく厩舎カラーにマッチした。デビューから3年半でまだ16戦。活力は十分残っている。

3着ラヴァンダもロベルトの色が濃いディープインパクトの仔シルバーステート産駒らしく持続力勝負がハマった。スローの阪神牝馬Sも3着だったが、本質は今回のような展開寄りだろう。

2歳未勝利以降は勝ち星がなく、惜敗が目立つのもジリっぽいところの影響とみる。いいかえれば、自己条件でも瞬発力勝負のような軽い競馬だと長所をいかせない。この好走は人気を押し上げる材料になるが、レース展開によって上げ下げしたい。

2025年府中牝馬S、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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