【しらさぎS回顧】重賞初勝利キープカルムに漂う開花の気配 電撃参戦チェルヴィニアも価値ある2着

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チェルヴィニア、マイル戦出走の意義
サマーマイルシリーズ開幕戦・しらさぎSはキープカルムが勝って重賞初制覇。2着チェルヴィニア、3着コレペティトールで決着した。
米子Sを重賞に格上げした形になったサマーマイルシリーズ初戦は、なんといっても牝馬二冠馬チェルヴィニアの登場が話題の中心だった。
桜花賞以来となるマイル戦出走の是非はファンの間でも意見がわかれただろう。ジャパンCに京都記念、ドバイシーマクラシックと2400m路線を歩みながら、なぜマイル戦に矛先を向けたのか。それも斤量を背負わされるGⅢ格で57kg。宝塚記念と間違えたのでは?なんて冗談すら聞こえる。
真意は陣営の胸の中にあるが、秋華賞後3戦の着順が手応えを下回っていた原因を距離に求めた可能性は考えられる。
本質的には2000mがベストと踏んでおり、本音はサマー2000シリーズかもしれないが、チェルヴィニアが走りやすい直線の長いコースとなると、新潟記念ぐらいしかない。だが、いくらなんでもハンデ戦に出走すれば、かなり厳しい斤量を課せられる。
あるいは札幌記念。ただどちらも8月の重賞であり、真夏に仕上げなければいけない。チェルヴィニアにとって、ベストな形で次のシーズンを迎えるなら、しらさぎSはその選択肢のひとつではあった。
マイル適性という可能性を探りつつ、秋に向けてスムーズに移行するための参戦は、それなりに練り上げられた策として理解できる。結果は2着。マイル戦としては非常に遅い流れだったことも手助けとなり、チェルヴィニアはマイル戦に対応できた。
長い直線に急坂というコース設定では、スピードで押し切ろうとは考えない。マイル戦といってもさして速くならず、どちらかというと2000mに近い流れになるはず。そんな思惑もあったか。陣営の読みが当たったとみるべきだろう。
結果は2着も収穫大
逃げ馬不在のレースは序盤、先行勢がお互いをけん制するような形で進み、先手をとったのはニホンピロキーフ。600m通過35.1、800mも47.2と遅かった。
中盤で12.1-11.9とオープン馬にとっては非常に楽なラップを刻み、最後は上がり勝負。11.2-11.1-11.6の33.9と瞬発力を問う形になった。急坂でラップは落ちたものの、その手前の11.2-11.1で末脚を使い切っては勝負にならない。
チェルヴィニアとしては流れに乗れた分、後半で弾けきれなかったか。ドバイ帰りで状態が完調ではなかったともとれる。
一方で、マイル特有の緩急が少ない競馬への対応を見ると、やはり距離適性が少し短めにシフトしつつあるようにみえる。気分よく走り、力を発揮しやすいようアシストする意味でも、マイル出走の収穫は大きかった。
長く全力を出し続けるためにはこういった距離への配慮も必要になる。今後は一旦休養に入りそうだが、秋はどこを目標に進めるのか楽しみになった。
本格化気配漂うキープカルム
勝ったキープカルムは、キャリア15戦で上がり3位以下が3度しかない堅実な末脚特化型。磨きをかけてきた瞬発力がここで開花した。
3歳夏のマイル戦転向後は好位から上がり3位以内の末脚を繰り出せるようになっており、自在な立ち回りも魅力。外回りマイル戦に限定すると、【2-1-1-0】と崩れない。マイルシリーズのその先まで見通せる本格派マイラーだ。今回記録した上がり600mはメンバー中最速の33.4。実質2kg重いとはいえ、チェルヴィニアの33.9を0秒5も上回った。
ロードカナロアの瞬発力と母系に入るサクラユタカオーの成長力が最大の魅力であり、プリンスリーギフト系のスピードを現代競馬によみがえらせた。
ロイヤルアスコット開催のクイーンエリザベス2世ジュビリーSで2着に入ったサトノレーヴも同じく母系にサクラバクシンオーが入る。この秋、プリンスリーギフトの逆襲もあるのではないか。
今夏好調の井上敏樹騎手
3着には最低人気コレペティトールが入った。鞍上・井上敏樹騎手は2018年1月愛知杯以来の平地重賞挑戦だったが、6月14日に行われた東京ジャンプSのスヴァルナに続く重賞3着。どちらも二桁人気。穴党はこの夏注目すべきジョッキーではないか。
とはいえ、コレペティトール自体は昨年の京都金杯を勝った重賞ウイナーで、近走の着順が悪かったため人気をなくしていたが、本来これぐらい走れる力はあった。緩い流れを察知し、早めに外から押し上げられたのも好走要因。騎手の好プレーだった。兄弟にはアメリカズカップやキングオブドラゴンがいて、息長く活躍できる血統でもある。見限るのが早かったようだ。反省したい。
2番人気レーベンスティールは7着。チェルヴィニアと同じような位置にいながら、最後は弾けなかった。重賞3勝の実績を考えれば、まだトンネルから脱し切れていないか。とはいえ、勝ち馬との差は0秒5しかなく、こちらも思い切ってマイル戦に駒を進めた意味はあった。母の父はトウカイテイオー。頭の奥深くに漂う記憶を刺激する。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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