【安田記念回顧】正攻法でねじ伏せたジャンタルマンタル 3年連続GⅠ制覇、理想的な成長曲線描き“最強”の道へ

勝木淳

2025年安田記念、レース結果,ⒸSPAIA

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逃げ馬不在、総合力の戦い

春のマイル王決定戦安田記念はジャンタルマンタルが勝ち、GⅠ3勝目。2着ガイアフォース、3着ソウルラッシュで決着した。

確固たる逃げ馬、飛ばす馬がいない東京マイル戦の典型のような競馬だった。スプリンターのマッドクールがダッシュを利かせ、そこにウインマーベルが追いつき、併走する形で展開。前半800mは46.7。一団で進む馬群をみても、各馬追走に余裕があった。

終盤600m11.2-11.3-11.8を含め、後半800mは46.0。後傾ラップの瞬発力勝負ながら、2ハロン目からすべて11秒台の持続力を維持した上での瞬発力という総合力の戦いではあった。

この形になると、がぜん優位になるのはポジションが取れる馬。勝ったジャンタルマンタルはスタート直後に外目3番手確保と理想的な位置におさまった。前をとったからこそ、直線の11.2-11.3で後ろを離しにかかれた。流れが遅ければ、先手必勝。シンプルかつ正攻法の競馬だった。


3年連続マイルGⅠ制覇の価値

ジャンタルマンタルはこれでGⅠ3勝目。これはJRA現役馬として最多のJRA・GⅠ勝利数となる。2勝(平地のみ)はクロワデュノール、アスコリピチェーノ、チェルヴィニア、レガレイラ、ベラジオオペラといるが、3勝目をつかんだジャンタルマンタルは実績でひとつ抜け出した形だ。

なによりこの3勝は朝日杯FS、NHKマイルC、安田記念と2歳から3年連続のマイルGⅠ制覇であり、価値が高い。NHKマイルCと安田記念を勝った馬もおらず、2歳から3年連続マイルGⅠとなると、ブエナビスタ、アパパネ、ソダシと牝馬ばかり。

マイルでなければ4年連続勝利のドウデュースや、3歳までにマイルGⅠ3勝したアドマイヤマーズがいるが、朝日杯FS、NHKマイルC、安田記念を3年で制したのはジャンタルマンタルだけ。この3つを連続で勝つには、2歳時の完成度と素質、3歳での充実、さらに古馬になっての成長力が問われる。

昨暮、香港マイルでは古馬のトップマイラーたちの厳しさにはね返されたものの、それを糧に成長できたからこそ、安田記念を勝った。マイルGⅠ連勝記録は香港で止まったが、それでも理想的な成長曲線を描けた。

サラブレッドに求められる素養を年を追うごとに身につけていくのはそうできることではない。種牡馬としての価値もこの勝利で一気にあがった。なにせ日本の競馬に必要なスピードをもち、サンデーサイレンスもキングマンボも入っていない血統構成は需要が高い。

これら一連のマイルGⅠ勝利も素晴らしいが、個人的には皐月賞(2024年3着)が頭から離れない。メイショウタバルが飛ばす超ハイペースを自力で動いて、坂下では果敢に先頭。最後は力尽き、ジャスティンミラノ、コスモキュランダに差されはしたが、掛け値なしに強い競馬だった。

皐月賞で先行して踏ん張る姿は今年のダービー馬クロワデュノールにも重なる。皐月賞の観戦ポイントはここにもある。

国内マイルGⅠ3勝の最強マイラーとして、次は海外だろうか。それこそ香港での経験がいきる。夏場のヨーロッパ、秋のアメリカ、そして香港と選択肢は多い。レース後の状態いかんになるが、ぜひ海外でもトップマイラーとしての力を証明してほしい。


そろそろ狙いたいシャンパンカラー

2着ガイアフォースは香港チャンピオンズマイル9着からの転戦。かつてモーリスやロマンチックウォリアーの参戦で、検疫スケジュールなど春の香港からのローテの難しさを知るだけに、2着は陣営と馬の精神力によるところが大きい。

これで東京マイルは芝ダートあわせ4着(23年安田記念)→2着(24年フェブラリーS)→4着(24年安田記念)→7着(25年フェブラリーS)→2着(今回)。東京コースの構造が適性と合うから大きく負けない。

母の父クロフネ、父キタサンブラックは持続力の塊のような組み合わせ。必ず最後まで伸びてくる。腕達者である吉村誠之助騎手のGⅠ・2着はさほど驚かない。夏にさらにいい馬と出会えれば、秋にはGⅠ勝利だってある。それほどの器だ。

3着は1番人気ソウルラッシュ。父ルーラーシップ、母の父マンハッタンカフェという超晩成血統だけに7歳での充実具合は納得できる。このタイプは年齢で評価を下げてはいけないと改めて実感する。

とはいえ、22年から参戦し続ける安田記念は13着→9着→3着→3着。前半から速いラップを刻み、終盤に瞬発力を問う東京コースではどうしたって一歩たりない。伸びてはくるものの、届かず。競馬としては2着ガイアフォースと似ており、2頭はセットで馬券に組み入れよう。

4着ブレイディヴェーグは大外枠で前に壁をつくれなかった分、前半で消耗してしまったか。もう少し馬群に潜るような競馬だったら、終いの伸びも違っていただろう。

5着ウインマーベルは昨年のマイルCS3着の実績を考えると、やや前半が消極的だったか。速いラップを刻み、内のマッドクールを早めに引かせる形だったら、どうなっていただろうか。マイルは長いとジャッジされそうだが、スプリンターでもなさそう。今後の選択肢が気になる。

6着シャンパンカラーはスタートで遅れ、最後、大勢を決したタイミングで追い込んできた。4歳にかけ、スランプに陥っていたが、5歳シーズンはマイル3戦を走って、勝ち馬とは0.5秒差→0.3秒差→0.5秒差とトンネルは抜けつつあるようにみえる。内田博幸騎手とのコンビ継続で再び日の当たる場所へ戻ってくるだろう。狙いどきは近い。

2025年安田記念、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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