【平安S回顧】アウトレンジがJRA重賞初制覇 レガーロ産駒唯一のJRA出走馬が血の力見せつける
勝木淳

ⒸSPAIA
レガーロの恩返し
ダート上半期の大一番、大井帝王賞へのステップレースとなる平安Sはアウトレンジが勝ち、重賞2勝目。2着ロードクロンヌ、3着レヴォントゥレットで決着した。
ダート戦線を賑わす層が厚い4歳勢を相手に意地を見せたのが5歳アウトレンジ。浦和記念を勝った格の違いといったところか。父レガーロ、馬主寺田寿男氏はこれがJRA重賞初制覇となった。千代乃夫人名義の所有馬は冠名マテンロウで知られ、マテンロウオリオン、マテンロウレオ、マテンロウスカイと重賞勝ち馬が出ている。
一方、寿男氏名義では2001年ダービーグランプリなどを勝ったムガムチュウやアウトレンジの浦和記念と地方重賞の勝利はあったが、意外にもJRA重賞での勝利は初めて。それをプレゼントしてくれたのがレガーロ産駒というのは格別だろう。
レガーロは寺田寿男氏の所有馬で、未勝利、もちの木賞を連勝し、全日本2歳優駿2着と早期からダートで活躍した。しかし、その後はレパードS3着が最高成績。残念ながら重賞タイトルには手が届かなかった。この実績での種牡馬入りは、所有する寿男氏の強い希望もあったと推察できる。
また血統的な価値も種牡馬入りをあと押しした。父バーナーディニは米国GⅠ3勝、プリークネスSの勝ち馬。エーピーインディの血を引き、母カララファエラは8.5ハロンのGⅠを制し、ファピアノの血をもつスピード型。レガーロは父バーナーディニから米国スピード血脈を譲り受けた。
母サンタテレジータの父レモンドロップキッドからは、キングマンボ系の魅力である強靭な筋力を受け継いだ。日本と相性がいいキングマンボの血によってダートの総合力を強化できる。レガーロの魅力はここだろう。
とはいえ、種牡馬5シーズンを終えた段階で産駒は血統登録10頭。このうち競走馬としてデビューしたのは5頭で、うち4頭は地方デビュー。JRAで走ったのはアウトレンジ一頭しかいない。その一頭の所有者が寺田寿男氏であり、JRA重賞を勝った。まさにレガーロの恩返しだ。
こんな人馬の巡りあわせもまた競馬の魅力。JRAにわずか一頭しかいない産駒が重賞を勝つなんてそうあることではない。兄ハピは前週新潟大賞典3着。この日は東京でケイティーズハートの仔が9、10Rを連勝したが、血統の勢いというか見えないつながりを感じる。
距離を意識したスローペース
レースは雨の稍重と、状況的には高速決着のシチュエーション。逃げ候補マーブルロックが引き、全体的に速くなりすぎることを嫌ったか、ペースが一向にあがらなかった。中盤では13.3-12.5-12.9-12.7とゆったりしたペースで進み、後半600mは12.1-11.7-11.6。中団以降は早めに外へ動かざるを得ない形になり、内外ともに密集したまま直線を迎えた。
ダートもスローを外から攻めるのは厳しく、好走ポジションは好位に絞られた。3番手にいたアウトレンジは血統が伝えるダートの総合力勝負での強さもあったが、ここ数戦、時計を要する地方交流を使った分、遅い流れに合わせやすかった。
記録した上がり600m35.1は直線伸びかかった5着タイトニットと同タイム。着順の差をみても、明らかにポジション勝負の競馬だった。その5着タイトニットも外を回ってのものであり、流れを考えれば、重賞でもやれる手応えを深めた。ゴール前の脚色をみると、1900mはわずかだが距離が長く、1800mに戻って再評価したい。
2着ロードクロンヌは積極的に運んだマーチSを踏まえると、今回は一列後ろだった分だろう。1コーナーを抑えながら回っており、1900mという距離への意識もあったか。一列下がったため、前の馬たちの動きに進路を決められてしまう。直線はタイトニットの外まで持ち出さないと進路がなかった。こちらもベストは1800mであり、次走は評価を落とせない。
3着は逃げたレヴォントゥレット。マーブルロックが控え、競り合う場面がなく、マイペースでゆったり運べた利を活かしての好走だった。ブリリアントSを負け、連勝は4で止まったが、それでも重賞クラスの評価は落とせない。こちらは長めの距離も守備範囲であり、地方交流でもマイペースならチャンスは巡ってくる。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
《関連記事》
・【平安S】結果/払戻
・【平安S】AIの本命はレヴォントゥレット 過去の優勝馬と同じ勝率50%「3本柱データ」に該当
・【平安S】ベテラン苦戦、手を出しづらい8歳メイショウハリオ 狙いはタイトニットやロードクロンヌら重賞健闘組
