【オークス回顧】血統が生んだ瞬発力 末脚一閃、カムニャックが桜花賞組を撃破

勝木淳

2025年優駿牝馬、レース結果,ⒸSPAIA

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中盤の我慢が最後に響いた

牝馬クラシック第二冠オークスはカムニャックが勝ち、2着アルマヴェローチェ、3着タガノアビーで決着した。近年のオークスは出走馬のほとんどが経験のない2400m戦であっても、正攻法の厳しい流れになることが多い。

今年も大外枠エリカエクスプレスが先手を奪い、序盤600m34.8、12.3-10.6-11.9と2コーナー手前まで締まったペースで進んだ。しかし、2コーナー通過付近から12.6-12.6と推移し、1000m通過こそ1:00.0と遅くなかったが、12.7-12.9-12.9と向正面で一気にペースが落ちた。

隊列を崩す馬はおらず、実質スローペースに収まり、ペースが上がったのは残り600m11.6-11.4-11.7だけ。いわゆる上がり勝負になった。中盤のペースダウンに対応し、体力の消耗を最小限にとどめなければ、ラストの末脚比べで力を発揮できない。中盤の落ち込みにリズムを乱した馬が多く、9着に敗れたエンブロイダリーも最後に加速できなかった。

800mの距離延長とは、すなわち競技の違いでもある。ゆったりと運ぶ中距離的立ち回りに一発で順応しないと、オークスには手が届かない。


30年前のオークスを勝った曾祖母ダンスパートナー

勝利したカムニャックは初陣の2000m戦を勝ち、その後はマイル戦で6着→4着。桜花賞を深追いせず、オークスに目標を切りかえ、フローラSで高いポテンシャルと中距離適性を証明しており、自信をもって2400mに挑み、上がり勝負にも見事に打ち勝った。

曾祖母は30年前の1995年オークスを制したダンスパートナー。その母ダンシングキイは1990年、社台ファームが購入した。底力を伝えるニジンスキー肌の繁殖牝馬は日本で運命の相手サンデーサイレンスと出会う。サンデーサイレンスも同じ1990年に社台ファームによって日本へ輸入された。

翌年、2頭が交配され生まれたのがダンスパートナー。1994年朝日杯3歳Sのフジキセキ、翌年の皐月賞ジェニュインに続き、オークスを勝ち、翌週、タヤスツヨシがダービーを制し、サンデーサイレンス旋風を巻き起こした。初年度を代表する一頭だ。

さらに翌年、ダンスパートナーの全弟ダンスインザダークが菊花賞を勝ち、ダンシングキイは瞬く間に日本を代表する繁殖牝馬になった。その後もサンデーサイレンスとの交配が続き、晩年には2004年桜花賞馬ダンスインザムードも輩出した。

一方、繁殖入りしたダンスパートナーは父エルコンドルパサーのダンスオールナイト(2009年中山牝馬S、3着)、父エンパイアメーカーのフェデラリスト(2012年中山記念勝ち)、父シンボリクリスエスのロンギングダンサー(2016年新潟記念、3着)と活躍馬を出し続けた。ダンスオールナイトからダンスアミーガへつながり、カムニャックに行き着く。


瞬発力の血をもつカムニャック

ダンシングキイとサンデーサイレンスの出会いは日本競馬革新の象徴だ。馬場の改良とともに高速化する競馬のなかで、瞬発力という概念を打ち立てた。

一瞬の末脚で勝敗を決するという意味だけではない。ライバルたちの複雑な動きによって形作られる競馬では、勝利にたどり着く進路を見つけた瞬間に、飛び込まないと間に合わない。スペースへ滑り込む素早い動きと躊躇しない闘争心が求められる。

サンデーサイレンスの伝える瞬発力はレースの局面打開に大きな進化をもたらした。しなやかな筋肉が生む瞬発力は今や日本競馬では欠かせない。

オークスでのカムニャックはダンシングキイとサンデーサイレンスを象徴するような競馬だった。さらに父ブラックタイドはご存じディープインパクトの兄。サンデーサイレンスの瞬発力をさらに未来へつなげた血でもある。カムニャックの血統にはスピードと瞬発力を伝える血が集結しているといっていい。

はじめて挑戦する距離で最後まで伸び続けるのは体力的にもしんどい。オークスの残り400mは疲れた馬から脱落していくようなサバイバル戦だ。最後に勝ち切ったカムニャックは最大の武器である瞬発力を目一杯出し切った。

道中はブラウンラチェットの背後でなだめつつも、外への意識を持ち続け、4コーナー手前で外へ出ていき、早めにギアをあげ、直線での末脚につなげた。シュタルケ騎手、自信たっぷりの騎乗でもあった。

タガノアビーの潔さ

2着アルマヴェローチェは1、2コーナーで最内に潜ったことで、ペースダウンに順応した。直線も馬場状態がいい真ん中から外を狙うなど手順としては完璧に近かった。カムニャックとの違いは瞬発力。父、母とも持続力に長けた血統であり、もう少し緩まない競馬がベストだろう。内回りなど流れるコース形態にもフィットしそうなので、秋に逆転をかけてほしい。

3着タガノアビーは2021年16番人気3着ハギノピリナ以来となる矢車賞勝ちからの参戦。オークス穴パターンはこれだったか。

道中は最後方につけ、溜めるだけ溜めて、一発にかけた。最後の直線もただ一頭、ガラ空きのインに飛び込むなどこれぞ人気薄といった競馬。後方待機も荒れたインへのコース取りもリスクでしかないが、それを承知で実行する潔さがいい。父アニマルキングダム、母の父アイルハヴアナザー、母系にスペシャルウィークという渋めの血統だが、その分、穴の魅力がある。

見せ場をつくった4着パラディレーヌ、5着リンクスティップはキズナ(パラディレーヌ)、キタサンブラック(リンクスティップ)の仔であり、改めて中距離での強さを感じた。気性面などそれぞれが抱える課題をクリアし、秋にもう一度大きな舞台で期待したくなった。

2025年オークス、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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