【新潟大賞典回顧】シリウスコルトが逃げ切り重賞初V レガーロデルシエロ10着で1番人気は19連敗

勝木淳

2025年新潟大賞典、レース結果,ⒸSPAIA

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転厩で再上昇シリウスコルト

春の新潟唯一の重賞である新潟大賞典はシリウスコルトが勝ち、重賞初制覇。開業初年度の田中勝春調教師が重賞初出走で初優勝を決めた。2着にサブマリーナ、3着にはハピが入った。

シリウスコルトは今年定年引退した宗像義忠厩舎からの転厩馬。芙蓉Sを制し、弥生賞ディープインパクト記念3着でクラシック戦線へ。その後はラジオNIKKEI賞2着と重賞に手をかけるも大きな着順が続き、リズムを乱した。

今年3月に開業した田中勝春厩舎への転厩が、シリウスコルトにとって好転のきっかけとなった。六甲S2着、福島民報杯と新潟大賞典を連勝。転厩は場合によっては環境の変化に伴い、成績を落とすこともあるが、シリウスコルトは正反対。転厩が新たな面を引き出してくれた。

宗像義忠厩舎と田中勝春騎手といえば、バランスオブゲームを思い出す。このタッグは通算で重賞10勝をあげているが、そのうち6勝がバランスオブゲームによるもの。向正面のカラスに物見した弥生賞を皮切りにセントライト記念、毎日王冠、連覇の中山記念、オールカマーとすべてGⅡだった。

GⅠは安田記念、宝塚記念で3着と、あと一歩まで迫った。シリウスコルトは宗像厩舎から託された大切なバトンでもある。この勝利をきっかけにバランスオブゲームがたどりつけなかった頂点へと導いてほしい。


勝負を決めた残り600mからのスパート

結果はシリウスコルトの逃げ切りだったが、レース内容は春の新潟を象徴するような直線の攻防が印象に残った。この日、3場でもっとも雨の影響を受けなかったとはいえ、芝は稍重で、前週の外差し馬場を引きずっていた。

雪解けから芝の育成期へ。春の新潟はその途上で行われる。芝が育ち切らない状況に加え、この時期の越後は雨が多い。穀雨が米どころを支えているわけだが、競馬開催においては悩みの種。育成途上ゆえにすぐ傷む。

夏には別物のような美しい馬場に変わるが、春は夏のような軽さがない。外回りの長い直線と平坦コース。軽さが特徴の新潟が軽くない。これが馬場読みを難しくする。

まして今年のメンバーには新潟芝で勝ち鞍をあげた馬がいない。新潟芝経験も7頭のみ。コース巧者不在で軽いコースだが軽くない馬場状態と、いったいどこに適性を見出せばいいのか。そんな競馬だった。

レースはグランドカリナンとシリウスコルトが譲り合うような序盤をみても、完全なるスローペース。それも3ハロン目から12.0-12.4-12.5-12.7と4コーナー手前までラップは落ち続け、シリウスコルトは入念に息を整えて勝負所を迎えられた。

残り800m推移は11.9-11.1-11.4-12.1。直線に入ると同時にスパートをかけ、後ろを離しにかかり、同時にここで後続の末脚を削ることができた。直線に入ってすぐ差を詰めにかかった好位勢が最後に苦しくなったのは、残り600~400mの11.1が決め手となった。

最後の200mは12.1。シリウスコルトも脚が止まりかけたが、ギリギリしのげた。止まりそうで止まらない、止まりそうになりながらゴール板を迎えるのは平坦新潟特有の現象。馬のコンディションさえよければしのげるのが新潟外回りでもある。


夏に楽しみを残したサブマリーナ

シリウスコルトの背後にいた好位勢が伸びきれないと、2、3着は差し馬の出番。馬場を考え、思い切って大外へ回ったサブマリーナ、ハピはこの日の馬場の特徴を踏まえたコース取りが光った。

馬場の真ん中には伸びきれない先行勢がひしめいており、縫うように走らないといけない。末脚を余すことなく発揮させるなら大外しかない。上がり600mはシリウスコルト34.6に対し、サブマリーナ33.8。序盤の位置取りの差が着順に響いた。

サブマリーナは神戸新聞杯出走取消を除くと、4着以下は昨年暮れのオリオンSのみ。それも4着と大きく崩れていない。クラスを上げながらも崩れないのは実力の証。良馬場ならもっと際どかっただろう。

父スワーヴリチャードはその父ハーツクライらしく、最多勝は東京での17勝、新潟でも9勝と左回りに強い。ただ同じ左回りでも中京では3勝にとどまり、阪神でも5勝と苦戦。北海道ではそれなりに結果を残すように(札幌6勝、函館3勝)、直線の長さより坂の有無による影響が大きく、平坦コースに強い。

ハーツクライの母アイリッシュダンスは同一年の新潟大賞典、新潟記念を勝った新潟巧者。ハーツクライ産駒に受け継がれた特徴がスワーヴリチャード産駒にもみられる。サブマリーナは夏の重賞で楽しみな一頭だ。

3着ハピは競走中止に終わった天皇賞(春)以来の約1年ぶりの芝で気を吐いた。こちらは稍重で軽くない芝、時計が少しかかる馬場状態が追い風になった印象だ。芝適性はまだ微妙だろう。芝もダートも自力勝負に持ち込めない弱さを内包する。芝での取捨は展開や馬場など状況を読んで決めたい。

1番人気19連敗と記録を更新してしまったのがレガーロデルシエロ。昇級初戦、久々の重賞で重めの馬場は堪えたようで、追ってから伸びなかった。

母系のスーヴェニアギフトの系統はシュプリームギフトからオールアットワンス、プレサージュリフトを出し、レガーロデルシエロの母デアレガーロも1400mの京都牝馬S勝ちと、マイル以下の活躍馬が目立つ。本馬は1800、2000mに勝ち鞍があるとはいえ、もう少し短い距離で血の力が目を覚ましそうだ。マイル路線に舵を切ってもおもしろい。

2025年新潟大賞典、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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