【エプソムC回顧】稍重レコードVで見えたセイウンハーデスの底力 “充実”6歳世代が上位独占

勝木淳

2025年エプソムカップ、レース結果,ⒸSPAIA

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屈腱炎を乗り越えたセイウンハーデス

エプソムCはセイウンハーデスがレコードV。2着ドゥラドーレス、3着トーセンリョウで決まり、6歳馬が上位を独占した。最強世代といった言葉がある。世代によって実力差があるとみる世代論には個人的には与しない。世代でくくるのはあまりに網が大きすぎるからだ。

だが、現6歳世代はドウデュース、イクイノックスの世代にあたり、頂点を決するダービーはハイレベルで内容の濃い競馬だったのは事実。3歳世代限定戦からレベルの高い争いをしてきたから、世代全体が強いというより、勝ち上がるには高い性能が必要だった。

頂上が高ければ、そこへたどり着くためには確固たる体力が問われる。全体が引っ張られるという現象はあるように思う。

セイウンハーデスはドウデュースが制した2022年ダービー11着馬。当時は歯が立たなかったが、その後、条件戦から再出発し、新潟大賞典2着、七夕賞1着と力をつけた。4歳秋から5歳にかけて中距離戦線で期待される存在だったが、屈腱炎を発症。約1年5カ月もの時間を休養にあてた。

さすがに往年の力はないかと思いきや、復帰後はいきなりチャレンジC5着、走破時計1:59.1を記録したから驚いた。そして、エプソムCで稍重ながら1:43.9のレコードタイムを樹立した。レコードはレース展開も関わっているが、サリオスの毎日王冠(2022年、1:44.1)を上回り、最後は独走したから恐れ入る。

父シルバーステートはディープインパクト特有の切れ味と母系のシルヴァーホークが伝えるロベルト系の力強さを融合したような産駒を送る。稍重のレコード勝ちも納得で、厳しい流れや馬場で目を覚ます。

さらに母父にはマンハッタンカフェがいる。自身はステイヤーだったが、この血は短距離から長距離まで対応範囲が広い。母系に流れる万能の血が福島と東京での重賞勝利につながった。


展開のアシストも地力が支えたレコード更新

東京でのスローペースだと分が悪いところをレース展開もアシストしてくれた。カギとなったのは前に行くであろうシュトラウスとメイショウチタン。折り合いに著しく課題を残すシュトラウスは冬の白富士Sも勝つには勝ったが、折り合ったとはいえない内容。メイショウチタンとの位置関係は読みにくかった。

ふたを開けると、ハナはシュトラウス。メイショウチタンが外枠に入ったことで、無謀な競り合いに持ち込まなかった。抑えながら走るシュトラウスに緩急を要求するのは酷で、引っ張りながらの追走に後続も追いかけてしまった。

一団で進む形はスローペースに多く、シュトラウスを追う隊列はスローのようだが、実際はその逆。緩急をつけられないシュトラウスは一定の速い流れを演出し、1000m通過57.3。結局、2ハロン目10.5からラスト200m11.9まで12秒台がひとつもなく、かなり高い次元での持続力が試された。

残り200mで外から先頭に立ったセイウンハーデスは独走態勢でラストを11.9でまとめた。中盤までの速い流れを考えると、ラストでラップが大きく落ちてもおかしくなく、2、3着が追い込み脚質だったことを踏まえると、ズブズブの決着となる可能性もあった。

もしそうなっていれば、サリオスのレコードは更新できなかっただろう。レコード更新は展開のアシストもあったが、セイウンハーデスの地力が支えた。


2、3着馬も充実期

勝ち馬は上がり600m34.3で、2、3着が同34.1。4着以下は上がり34秒台後半が精一杯で、ハイペースでも速い上がりを計時できなければ上位進出はなかった。2着ドゥラドーレス、3着トーセンリョウの好走要因は先行勢が厳しい流れで失速した側面は否定できないが、同位置から上がり34.1を記録した馬はおらず、こちらも展開利だけが好走要因ではない。

今後、エプソムCはハイペースで待機策がハマっただけと軽く扱われるなら、むしろ買い。どちらも充実期の予感さえある。

3番人気13着シュトラウスはなんとも悩ましい。折り合いをつけ、緩急に対応し、脚を溜めるという理想は走るたびに遠のいている印象さえある。逃げるにしても、暴走気味に走られては好走も叶わない。

逃げ馬とて、鞍上の指示をある程度、受け入れる必要はあり、時間がかかりそうだ。頭数が少ないレースに出走し、できるだけ静かな環境に身を置きたいところだろう。

2025年エプソムC、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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