【青葉賞回顧】"勝率0%データ"覆したエネルジコ 最後尾から直線一気決めたルメール騎手の手綱さばき
勝木淳

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重賞格付け後、前走2000m以下の下級条件から初勝利
ダービートライアル青葉賞はエネルジコが直線一気を決めて優勝した。2着ファイアンクランツ、3着ゲルチュタールで決着。2着ファイアンクランツまでがダービーの優先出走権を獲得した。
青葉賞は1994年の重賞昇格以降、鉄板級のデータがあった。前走下級条件を2000m以下で勝つと【0-4-7-99】。3着以内の可能性はあっても勝利はない (重賞昇格前には1989年サーペンアップや1991年レオダーバンなどが勝利)。ダービーを視野に先を争う状況下で、皐月賞照準の2000m以下を勝ち上がると、青葉賞で必ず壁にぶち当たった。
古くはローゼンカバリー、マツリダゴッホ、そして昨年ヘデントールと1、2番人気に推された馬は【0-0-0-5】。2000m以下を勝って青葉賞で1、2番人気はいわば「お客さん」。穴党は喜び勇んで消していた。だが、前走芝1800mセントポーリア賞1着の1番人気エネルジコが勝ち、ついにこのデータは破られた。
エネルジコは昨秋10月20日菊花賞の裏開催にあたる新馬戦で初陣を飾った。4コーナー11番手から後半3F11.9-11.3-11.1の流れで差し切り、素質の片鱗をみせる。その後、2歳戦線に出走せず、3カ月半の休養へ。復帰戦セントポーリア賞は1番人気。ここを勝たないと、ダービー狙いだとしても春戦線はかなり厳しくなる。
父ドゥラメンテもセントポーリア賞を勝ったから、共同通信杯2着でも皐月賞へ滑り込めた。2月2日のレースとはいえ、その先の春を決める重要な戦いだ。エネルジコはここでも4コーナー10番手から後半3F11.7-11.5-11.6を楽々差し切った。東京の直線勝負なら間違いなくA級。その評価は青葉賞につながった。
スケールなら皐月賞組と互角
とはいえラストチャンスのダービートライアルで4コーナーほぼ最後尾まで下がり、直線一本にかけて仕掛けを待ったC.ルメール騎手には恐れ入る。
前半1000m通過59.9はさほど速くなく、さらに3コーナー手前から3コーナーにかけて13.3が刻まれるスローペース。逃げたガルダイアが明らかにペースを落とした時点で、2番手パッションリッチ以下が差を詰め、4コーナーにかけて馬群は凝縮した。
ペースを落とされた時点で、ライバルたちはみんなスイッチを入れた。このスローペースを構えてはダービー出走権が離れていくだけ。追いかけるのは自然なことだ。
しかし、エネルジコは後ろで構えたまま。ルメール騎手はテン乗りだったが、エネルジコの末脚の破壊力に確信があった。離れさえしなければ届く。ダービートライアルでこれほど待てるものか。
ラスト600mは11.9-11.3-11.2。先に抜け出したゲルチュタール、インを攻めたレッドバンデ、J.モレイラ騎手のファイアンクランツもみんな止まっていない。ラップをみれば明白だ。
つまり、エネルジコは伸びているライバルたちを凌駕する末脚で差し切った。みんなが止まりかけたところに仕掛けを遅らせ差し切るのは東京でも多くみられるが、止まっていないのに差し切るのはそうはない。
エネルジコのスケールを語るのに、これ以上の表現はない。スケール感なら皐月賞組と互角かそれ以上といっていい。あとはダービーで今回のパフォーマンスを発揮できる状態で挑めるかどうか。もはやその一点しかない。
ゲルチュタールは距離を延ばして
2着ファイアンクランツは東スポ杯2歳S4着の実力馬。後ろから進め、あと一歩足りないというレースが目立っただけに、モレイラ騎手のひと押しはプラスだった。
それでも終わってみれば、またも2着。ダービー出走権をつかんだが、どうしたって勝ち味に遅い(善戦するけどなかなか勝てない)。最後に抜け出した際に真っ直ぐ走れなかったのは痛く、もう少し体力をつけ、ゴールまできっちり走れるようになれば重賞もみえてくるだろう。
3着ゲルチュタールはエネルジコとは対照的で、青葉賞の有力データ「前走1勝クラス芝2400m1着」に該当していた。距離経験もありむしろ2400mは得意。その通り自信のレース運びで敗れた。
4コーナー手前から追い出されるなど、現状では全体的に少し反応の遅さがあるのは気になる。母の父ゼンノロブロイの血を感じる。つまり、もっと距離を延ばして良さが出てくるだろう。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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