【チューリップ賞回顧】クリノメイが好位生かして優勝 2着ウォーターガーベラにも及んだ「不思議な力」

勝木淳

2025年チューリップ賞、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

トライアルあるあるのスローペース

桜花賞トライアルのチューリップ賞は9番人気クリノメイが勝ち、2着ウォーターガーベラ、3着ビップデイジーで決まり、この3頭が桜花賞の優先出走権を獲得した。

レースのポイントはなんといっても展開だった。前走で逃げた馬はゼロ。芝で逃げた経験があるのはルージュナリッシュだけ。それも新馬戦でのもので、前半800m48.7のスローペースだった。どの馬が先手を奪っても速くならない。

桜花賞出走がかかった大切な一戦では各騎手、ゴールまで脚をしっかり残しておきたいと考えるもの。その思惑がスローペースを呼ぶ。大事に乗る意識が強いのはトライアルあるあるといっていい。

並びが読めないスローペースは展開的に優位なポジションにいる馬が見つからない。どの馬が先手をとるのか。その答えはプリンセッサ。3戦すべてダートを走り、前走は先行できず16着と大敗していた。控えても意味がない。そんな決断だった。

チューリップ賞の序盤600m通過は35.7、前半800m通過は48.0。中盤で12.3が入る遅い流れになった。後半は11.8-11.3と4コーナー手前からペースは上昇。直線は11.1-11.8の瞬発力勝負になった。

クリノメイは内枠から好位のインをキープし、位置の優位性をいかして、しのぎ切った。もともとはデビュー2連勝の好素材。前走阪神JFはゲートで暴れ、外枠発走となり、後方のままレースに参加できなかった。中間はゲート難の修正、精神面のケアを念頭に調整され、今回は抜群のスタート。見事に修正してきた。


クリノメイを巡る物語

クリノメイは序盤、隊列ができる過程でゴチャついた際も最内にいたため、ストレスなく通過。抜群の手ごたえで直線へ入った。横には実績最上位のビップデイジーがいたが、きっちり競り落とした。

11.1と最速を記録したゴールまで残り400~200mの区間でこの攻防を制しており、能力の高さが伝わる。

ちょっとしたことで一気に難しくなるのは父オルフェーヴルという血統をみて納得。オルフェーヴルはキャリア前半では折り合いに苦労し、たくさん負けた三冠馬だった。気性のコントロールが課題となる産駒も多く、荒削りな印象も、なかにはセンス抜群の産駒が出てくるから、オルフェーヴルの仔はつかみどころがない。

クリノメイもそんなセンスを感じる一頭。ゲート難が尾を引かなかったことで、夢はこの先へつながる。

「クリノ」の冠名といえば、馬主の栗本博晴氏だが、氏は昨夏に逝去され、栗本依利子氏が引き継いだ。「メイショウ」の松本好雄氏と同じく多くの産駒を所有する個人馬主でもある。栗本博晴氏が亡くなってからは所有馬の整理も進んでいるようだ。

栗本博晴氏が残したなかにいたクリノメイが桜花賞へ向かう。不思議な力のあと押しを感じざるを得ない。栗本博晴氏の所有馬といえば、20年高松宮記念で1位入線後、4着に降着したクリノガウディーが浮かぶ。同馬を管理していたのは藤沢則雄調教師で、師は今年のチューリップ賞で現役生活最後となる。クリノメイの勝利に詰まった関係者の想いは深い。


名手たちの共演

2着ウォーターガーベラはこの日で調教師生活を終える河内洋調教師の管理馬。武豊騎手騎乗という設定が熱い。武豊騎手があこがれを抱く兄弟子が河内洋騎手。関西の名門である武田作十郎門下で、武豊騎手の父武邦彦騎手は河内洋騎手の兄弟子にあたる。

武豊騎手と河内洋騎手、武田門下の二人の競演はアグネスフライトの日本ダービーを筆頭に数えきれない。今回は立場を変えての共演。それも最後の共演だった。

ウォーターガーベラは前走きさらぎ賞で10着に敗れた。実はチューリップ賞で過去10年、前走10着以下は【0-0-0-4】。それが一転、今年は1、2着が前走10着以下だった。不思議な力がデータを覆したのではないか。

ウォーターガーベラに関しては、先行してバテた前走を踏まえ、今回は控える競馬を選択。ただ、どう考えてもスローペースであり、控えるだけでは勝負圏内は望めない。武豊騎手は腹をくくってイン強襲を決断。控えたことでウォーターガーベラの長所を引き出し、なおかつ勝負圏内に入った。

このレースで差して好走するにはこれしかない。そんな競馬を実行に移す名手の腕が「河内の夢」をつないだ。最後は惜しくも敗れはしたが、優先出走権を確保し、クラシックへの道は続く。兄ウォーターリヒトとそっくりな混戦向きの差し馬で、ペースが速くなる桜花賞はパフォーマンスを上げてくるだろう。

3着はビップデイジー。GⅠでは控えて好走したが、先行策もある。そこを踏まえ、今回は前にいったが、前に馬を置けず、ちょっと脚がたまらなかったようだ。クリノメイとの競り合いで遅れをとったのは、前半の消耗が響いた。本番はこの形なのか、控えるのか。頭を悩ませそうだが、今回の結果を踏まえると、控えるのではないか。

2025年チューリップ賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【チューリップ賞】結果/払戻し
【チューリップ賞】阪神JF上位は素直に信頼も相手が難解 ビップデイジーから“ヒモ荒れ”狙う
トライアルに強い騎手を特集 頭で狙いたい岩田望来騎手、「中山マイスター」津村明秀騎手に注目