【小倉大賞典回顧】ハイペースの消耗戦で末脚“弾けた”ロングラン 丹内祐次騎手の的確な仕掛けも際立つ
勝木淳

ⒸSPAIA
昨年より抑えたセルバーグの逃げ
毎年決まって大混戦の小倉大賞典は7歳馬ロングランが重賞初制覇を決め、2着ショウナンアデイブ、3着ラケマーダで幕を閉じた。今年は、ダートで頭角をあらわしたヤマニンウルスが除外で目標のレースに出走できず、ここに参戦。トップハンデタイの58.5キロを背負うも、3番人気と人気を集めた。見せ場はつくるも、結果は10着。さすがにいきなりの芝重賞は厳しく、最後は止まってしまった。
さらに昨年の1~3着馬が顔をそろえたのも注目点だった。同一重賞で前年3着以内がすべて出走するのは珍しい。ハンデはエピファニーが前年比1.5キロ増の58.5キロ、ロングランとセルバーグは同斤57キロ。この増減が結果を左右した。
ロングランはオープン昇級後、小回り芝1800m【2-1-0-4】(今回を含む)でコーナー4つの1800m巧者。小倉大賞典では4、2、1着と年齢を追うごとに着順をあげている。昨年はディセンバーSを勝って向かったが、今年は同レース8着からの臨戦。それでも斤量を昨年から据え置きとしたハンデキャッパーのジャッジは的確だった。
レースは昨年と同じくセルバーグが飛ばし、大逃げの形に。だが、昨年は前半1000m通過57.2で、600~1000mは11.0-11.2と暴走に近いハイペースを演出。対して今年は1000m通過58.6。中盤800~1000mで11.1を刻み後ろを離し、大逃げに持ち込んだ。テンから飛ばし、中盤まで突っ込んだ昨年とは同じ大逃げでもニュアンスが違う。昨年3着に対し、今年は4着だから、もう少し後ろの脚を削りにいってもよかったか。
いずれにせよ、ロングランとの差は昨年0.1秒に対し、今年も0.2秒と小差だから、こちらもハンデ据え置きの判断はおおむね正しかった。セルバーグが中盤から飛ばし、残り400mまで11秒台を記録したため、これを捕まえなければならない先行勢にはしんどい競馬になった。
絶好調の丹内祐次騎手
セルバーグの狙い通りとなったラップ構成で、ラストは12.1-12.5のバテ比べ。小回り特有の消耗戦になったことで、ロングランが弾けた。ロングスパートが得意でその分、前半の立ち回りや勝負所で仕掛けるタイミングが難しそうだが、そこは丹内祐次騎手の手の内に入っている。昨年より少し早めに仕掛け、直線に入ってすぐ伸びるよう態勢をつくったことで届いた。
小回りではハイペースであっても追い込み型がエンジン全開となる前にゴール板が来てしまう。差し遅れ誘発が常であり、騎手の腕が試される。冬の小倉16勝とリーディング独走中の丹内騎手はタイミングを見誤らない。16勝の内訳をみると、芝1800m以上が半数の8勝もある。開幕週の小倉牝馬Sで1着同着だったフェアエールングにも騎乗しており、ここでは3コーナーからじわっと動く同じような競馬だった。小回り中距離での仕掛けの的確さが際立つ。
北海道での活躍などローカルでの混戦に強い騎手だが、近年は中央場所でも穴をあけるなど奮闘も目立つ。腕達者ぶりがここにきてさらに磨かれてきた印象もある。成熟期を迎えた今、もうひとつ上にも手が届く位置までたどりついた。
2020年~今年2月16日までのデータをみると、勝ち星では小倉、札幌そして中山がトップ3。小倉閉幕後は福島開幕まで中山で騎乗するのが例年のパターンで、春の中山に限ると、芝なら1200mが【3-2-3-14】勝率13.6%、複勝率36.4%、ダートでは1200m【5-5-0-64】勝率6.8%、複勝率13.5%、単勝回収率123%と存在感を示す。
前記データを深掘りすると、芝1200mの逃げが【2-0-1-2】。ダート1200mでは6~8枠が【3-4-0-19】で、さらに逃げ、先行なら【3-3-0-5】と良い。小倉では芝中距離を中心に大活躍したが、春の中山では短距離の思い切った競馬がに注目だ。我々も小倉から中山へ頭を切りかえよう。
穴種牡馬アメリカンペイトリオット
2着ショウナンアデイブはセルバーグの大逃げを追いかけざるを得なかった先行集団にいた。3、4コーナーでは手応えが怪しかったが、直線に入ると思い直したようにしぶとく伸びた。京都の内回りで3勝クラスを突破しており、小回りもよさそうだが、直線が長いコースにも適性を感じる。また1800mは短く、2000mぐらいがいいのではないか。
3着ラケマーダは12番人気。直線でロングラン、ショウナンアデイブの間に入り、2頭と競り合ったことで力を引き出せた。こちらは1800mがギリギリで、1600mで力を出す。オープン入り後は差す競馬が増えたが、元来は先行力もある。
ちなみに、父アメリカンペイトリオットの産駒は芝1800m【9-4-6-72】勝率9.9%、複勝率20.9%、ダートも合わせると1800mは【28-22-23-224】勝率9.4%、複勝率24.6%で距離別では勝利数トップを誇る。また、小倉・福島コースとの相性が良く、小倉の回収率は単:221%、複:126%、福島が単:298%、複:151%となっている。春の福島開催まで覚えておきたい種牡馬だ。
1番人気シルトホルンは8着。前走小倉日経賞で2着好走し、人気を背負ったが、出遅れて流れに乗れなかった。ハイペースの縦長では動きたくても動けず、4角まで後方のまま。上がり2位の脚を使っており、一切伸びなかったわけではないが、粘る競馬が身上であり、形が崩れてしまった。次走は取り扱いに注意しよう。
2番人気エピファニーは5着。ハンデ58.5キロが響いたか、弾けなかった。ただし中京記念で58キロ2着があり、ハンデだけが原因ではなさそう。ここにきて少し状態面が下降している可能性も頭に入れておこう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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