【阪急杯回顧】カンチェンジュンガに漂う本格化の気配 オーナーゆかりの血統、高松宮記念の父子制覇へ弾み

勝木淳

2025年阪急杯、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

阪神から京都へ移って

高松宮記念の前哨戦・阪急杯はカンチェンジュンガが大外一気を決め、優勝。2着は逃げたアサカラキング、3着にはソーダズリングが入った。決着時計は1:21.7。やはり冬の京都最終週に移ったことで、時計がかかった。

昨年までは春の阪神開幕週、ないし代替開催の3週目に位置し、1分19秒台から20秒台前半と速い時計が目立っていた。オープンで21秒台後半となると、時計的には守備範囲内に入る馬は多い。高速決着より少しかかった方がいい。そんな馬場適性が前提になったこと自体、阪急杯の特色を変えた。

さらに内回りの阪神から外回りの京都へ移り、内回り特有の器用さ、仕掛けが早い競馬から少し構えても後半勝負にかける競馬にパターンも変わったようだ。

京都外回り1400mといえば秋のスワンSの舞台だが、過去10年の同レース(京都開催の計8回)において、逃げ先行で馬券に絡んだのは7頭。その人気は6、12、8、2、11、6、10番人気で、穴馬は展開利を味方に突っ込む。

これは前半が上り坂、終盤手前で下り、さらに直線が長く、差し馬がゆったり構える京都らしくペースが上がらないレース構成によるもの。ゆったり入り、勝負所で下りを使って自然な加速ができれば、前は止まらない。

阪急杯も前半600m35.2とアサカラキングにとって楽なペース配分だった。直線前半で11.2を叩き、本来は勝ちパターンだったが、最後に11.9と時計がやや落ちたところをカンチェンジュンガの強襲にあった。

冬の京都は低温の影響から芝は開催が進むと時計を要する。逃げ馬と追い込み馬で決まったのは、そんなコース形態と馬場状態によるところが大きい。


京都だから出走したフシがあるカンチェンジュンガ

勝ったカンチェンジュンガは上がり最速34.0を記録し、かなり離れた外を伸びた。スタートからわずかに促し、中団馬群の後ろにつけており、後ろすぎない位置だったのも最後につながった。

目の前のダノンマッキンリーが折り合いを欠き、その背後をとっていた。ダノンマッキンリーが我慢できず早めに動いたため、スパートの態勢もスムーズにつくれた。ここの押し上げが遅れれば、当然カンチェンジュンガも仕掛けのタイミングを逸してしまう。この辺は馬群の外にいる利点をいかせた。

デビュー戦でダートを走って以来、1400mには目もくれず、一貫して芝1200mに出走してきた。昨冬の小倉でオープン入りを決めてからはリステッドと重賞で0.5差以内と安定しており、末脚はいつ通用してもおかしくなかった。

だが、重賞レベルとなると先行勢も簡単には止まらない。昨秋オパールSから4戦連続上がり最速を記録し、京都向きの瞬発力がある。

久々の1400mだったオーロCでは上がり最速で0.2秒差8着。最後までしっかり伸びたことで、1400mへの手応えを深めた。これが急坂の中京シルクロードSではなく、京都阪急杯出走の背中を押した。

今年も阪神開催だったら出ていたかどうか。そう考えると、京都に移ったことも重賞制覇へ導いたといえる。


オーナーが愛情を注いだ血統

父ビッグアーサーといえば、同じ京都巧者トウシンマカオなど産駒のJRA重賞勝利はすべて1200mというスプリント血統だが、戦略次第で1400mでもやれることを証明した。

カンチェンジュンガは今回12kg増で重賞を制したが、思えばトウシンマカオも5歳春に12kg増やして重賞3勝目を決めた。4歳秋から5歳にかけて成長するのもビッグアーサー産駒の特徴で、同じ勝負服のビッグシーザーも今シーズン楽しめそう。幅田昌伸オーナーにとって楽しみが増えた。

ちなみに、ビッグアーサーが高松宮記念をレコード勝ちしたのも5歳春。その父サクラバクシンオーが4馬身差圧勝でスプリンターズS連覇を決めたのも5歳。カンチェンジュンガも本格化を迎えた。

オーナーの幅田氏は母の母ワイドサファイアを所有し、この馬ではフローラS2着からオークス出走も競走除外、秋華賞は18着と悔しい経験をしていた。

以降ワイドサファイアの子孫を多く所有し、かしわ記念を勝ったワイドファラオに出会った。カンチェンジュンガの母クェスタボルタの産駒も現2歳まですべて幅田氏が所有し、初仔から重賞勝ち馬が出た。一牝系への愛情が花を咲かせた好例だ。ますます高松宮記念は力が入る。


「十三の法則」継続

2着アサカラキングは前後半600m35.2-34.8、6ハロン目11.2と理想に近い競馬を展開し、ゴール寸前で差されてしまった。あと一歩足りなかったのは距離だろうか。完璧だっただけに敗因はこれぐらいしか思いつかない。

とはいえ、昨秋から3戦連続で1400mに出走し、ようやくここでいい形がつくれたので、もう少し慣れれば先頭ゴールもありそうだ。1200mに戻せば距離短縮で評価されそうだが、1400mへの慣れ具合をみると、かえって評価をさげてもいいかもしれない。個人的には母の父キングヘイローは熱い。

3着ソーダズリングは3番人気であり、決して激走ではないが“十三の法則”通り好走した。これで阪急杯の馬番13番は過去10年で【2-0-2-5】(※2017年は12頭立て)。阪急京都線と神戸線が分岐する十三駅は、舞台が京都へ移ってもヒントになる。

ソーダズリングは昨年の京都牝馬S以来の好走であり、やはり直線平坦コースだとラストは伸びてくる。


2025年阪急杯、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【阪急杯】結果/払戻はこちら
【中山記念】昨年覇者マテンロウスカイの逆襲に注目 実績最上位ソウルラッシュ、4歳シックスペンスの評価は?
【オーシャンS】GⅠ馬ママコチャ、一昨年覇者ヴェントヴォーチェら参戦 データでは「10年で6勝」5歳馬が優勢